第1章 28話 異世界の決着
「私たちを殺す方法だと?」ゼロは僕に向かって疑問をぶつけた。
「うん。あなたは全身が焦げても、心臓を貫いても死なない。でもね唯一方法を見つけたんだよね。まっ、これも僕の仮定なんだけど」
僕は焦らしながらゆっくり話す。
「教えてあげようかなぁ。でもなぁ、もし教えて化け物になられても困るしなぁ」
僕は、ゼロの前をウロウロする。
「何がしたいんだお前は!」ゼロが怒っている。じゃあいいか。
「分かったよ教えるよ。まず、心臓を壊しても治ってしまうのは、脳が勝手に修復するように指令を出す。じゃあ逆に脳をぶっ壊せばいいかと思うけどそれも違う。動いている心臓が脳の役割を果たそうとして、これまた脳を修復してしまう。じゃあ殺すにはどうするか、同時に壊すのさ。おそらく、バケモノの殺し方もこれでいけるはず。心臓と脳の破壊。これが僕たちが死ぬ方法。ねぇ。今あなたは心臓を貫かれてる。あとはどうすれば死ぬかな?」
僕は笑いながら頭に銃を突き付けた。
「まっ、まさか...!」ゼロの顔から汗がにじみ出ている。
「死ぬときの恐怖ってわかるかい?僕は知ってるんだ。僕は自分の意思で死のうと思ったことがあってね。ふと考えてしまったんだ。自分は一体どこに行くのだろう。死んだらどうなってしまうのだろうってね。人は死の先を知らない。だからなのかな、その見えない先に人は何とも言えない恐怖を抱くんだ。あなたはこれから死ぬ。どんな気持ちなのかな?」
僕は、魔法を目いっぱいため込み、引き金に指を置いた。
「あっ...あぁ...」
ゼロはもう言葉が詰まって出てこなくなっているようだ。
「じゃあね。GAME OVER」
僕は笑いながら引き金を引こうとした。
「うああああああぁぁぁぁぁぁぁ!」
ゼロが叫び声を上げた。そして、ジタバタ暴れまわる。体が見る見るうちに醜く巨大に変わっていった。僕は仕方ないから後ろの飛びのいた。
「やっぱりね。実験は成功かな?覚醒できても、再び恐怖に飲まれれば、バケモノになるのね」
僕は、剣と銃を構えなおした。
「後は、こいつの実力はどうなのかな?」
僕は、どこかワクワクしてきていた。
『ぐぅぅああぁぁぁ!』
醜い声を上げて、ゼロだったものは、強烈なパンチで僕を吹き飛ばした。
「いててて。やっぱり普通のバケモノと違って、更に桁違いに強くなるんだね」
僕は、集中して相手の動きを見た。わずかに踏み込む体制になったのを感じた。その瞬間に僕は懐に入り、剣に風を、銃にも風を巻き起こし、同時に撃ちこむ。バケモノは吹っ飛んだ。
『ぐぃああぁぁぁ...』
バケモノは立ち上がる。バケモノは突進してきた。と思ったら、目の前に氷の壁ができ、バケモノはそれにぶつかった。
「あれ?」
僕は、後ろを見るとグレイシアが僕を睨んでいた。
「あ.そ.ば.ず.や.れ!」
グレイシアはまた僕を、グーで殴った。
「あんちゃん。遊び過ぎだよぉ。グレイシア、見てられないって飛び出しちゃったよ」
フォックスが、状況を説明してくれた。
「ごめんね、どうにも気になって、やってみたくて」
僕はまた言い訳をしている。
「いっしょに...やる」グレイシアは、やる気満々のようだ。
「おいらもやるよ、見てるだけも飽きたしねぇ」
フォックスは相変わらずのんきだが、視線や体の構えは、常にゼロを意識しているようだった。
「くる」
彼女がつぶやき、氷の壁が崩れた。
『ぐぅおおおあああぁぁぁ!』
バケモノになったゼロが突進してきた。僕は銃に水の魔法をため込んで凝縮させるように撃った。水圧カッターのように発射された水は、バケモノの体を貫いた。そこにすかさずグレイシアが攻撃を仕掛ける。氷がバケモノを串刺しにした。フォックスが炎を吐く
「焼肉になれ~!」
のんきなことを言っているが、炎はかなり熱いしでかい。グレイシアの氷ごと溶かし、バケモノを丸焦げにした。なんて威力だ。だがまだバケモノは立ち上がろうとして来た。
「やっぱりしぶといな。よし、グレイシア、あいつの心臓目がけて氷で貫いて、フォックスはそこに炎で心臓を消し炭にして、あとは僕が頭を吹き飛ばす」
僕は二人に指示した。
「りょおか~い」二人は、駆けだした。
『ぐぅあああぁぁぁっ!』
バケモノは、二人目がけて風と雷で攻撃しようとして来た。僕は前に飛び、剣を光らせ切り裂く。
「今だよ!」
僕が言うと、彼女はコクッと頷き、前方に巨大な氷の柱を作りだし、心臓を貫いた。僕はそこを足場に飛び上がる。
「フォックス!」僕の指示にフォックスは、
「お~け~」
と言って炎を吐いた。炎は心臓のあたりに巨大な穴をあけた。
「これでいけるな!」
僕はさらに剣を光らせて、首を切り吹き飛ばす。そこに最大まで溜めた魔法を撃ち出す。雷と炎と風を同時に放ち頭を粉々にした。僕は着地した。
「この銃だと、三つの魔法の同時使用が限界か。やっぱこの剣じゃないと、八番目の魔法は使えないんだな」
僕の後ろではゼロだったものが力なく倒れた。
「これも僕の予想通り。あとは...」
僕がゼロに近づくと、バケモノの体はどんどん消えていった。そして、人間の体が出てきた。ゼロだ。切り落としたのに何故か首はつながっていた。だが、彼は動くことはなかった。
「おわりだな」僕はつぶやいた。
「やっとだね~、でも、まだ普通のバケモノはそこらじゅうに居るんだよねぇ」フォックスが言う。
「しばらくはそいつの、討伐だね。親もゼロの話では三人、僕たちが中央で倒したもの、そして君たちがここに来る途中で倒した二体...」僕はここで詰まった。
「うん。あいつらもつよかったよ~。あれ、どうしたの?あんちゃん」僕は考えていた。
「じゃあ、ビーンさんが倒したって言うのは?...」
僕が考えていたら、ゼロの体の異変に気付いた。足元から薄れていっている。そして、しばらくもせずに、ゼロの体は音もなく消えた。
「え~!どゆ事~!消えちゃったよぉ」
フォックスは、キョロキョロ周りを探し始めた」
「多分、僕たちのいる世界に戻ったんだよ。死体としてだけどね。多分、ニヒル アダムスもそうだったんじゃないかな。彼女もこの世界で死んだ。そして、僕たちの世界で遺体で発見されたんだ」
僕の言葉に、フォックスは、「へ~」とだけ言った。
「帰ろうかな」
僕が歩き出そうとしたら。遠くから大量の足音が聞こえる。前に言っていた増援部隊が今になってきたらしい。これはお約束かなと思った。しばらくして、いっぱい人が来た。
「ミカミさん、ゼロは...」僕に話しかけた人の顔を見た。サム・ヨゥだ。
「サムさん、あなたも来てたんですか。ゼロは倒しましたよ。犠牲は、出てしまいましたけどね」
僕は、ビーンのほうを見た。サムも同じ方向を見る。
「ビーン隊長は、私のあこがれの人です。常に壁の外に出向き、ことごとくバケモノを打ち倒してきた。私は、街の警備をしていましたが、いつか、彼のようになりたいと思っていました。私は、追いつけなかった。でも、私は追い続ける。ビーンさんが成し遂げれなかったことを成す。残ったバケモノのすべての討伐。私は成し遂げて見せます」
サムは、ビーンのところに向かって敬礼した。目には涙が浮かんでいる。
そして、続々と人が入ってくる。そこで、僕はある人物を見つけた。ワンコとか言っていた人物だ。
「ミカミさん。本当に成し遂げたのですね。我の目には狂いはなかったですよ」ワ
ンコが、僕に近づいてきた。本当に犬みたいなやつだ。やっぱり、彼の後ろには、残りの二人がいた。
「なんでここにいるんです?あなたは自分から警察のほうに行ってたじゃないですか」
僕が尋ねると更に後ろから聞き覚えのある声が聞こえた。
「俺がちょっと連れ出した。こいつの目は、どうしてもあんさんを助けてぇって目つきだったかんなぁ。俺が、命張れるなら来なと言って連れてきた。意外と役に立ったぜ。連携が得意でな、ここに来る途中で遭遇したバケモノ共は、こいつらが前線に立ってやってくれた」
声の主はスチュワートだ。
「スチュワートさん...どうして」僕は尋ねた。
「あんさんの事だから、飛び出たのには訳がありそうだが、早すぎると思ってな、仕方ねぇから援護できそうなやつを片っ端から集めた。アレックスのじじいもせっかちなとこがあるかあらな、只の一般人を、いきなり外に出してしまったとか言って、慌てて魔法族集めしてたぜ。そんで俺はじじいに頼まれての引率者だ。だけど、無駄足になっちまってるみたいだな」
スチュワートはあたりを見回した。
「そんなことないですよ、あなた方がバケモノを引き付けてくれたおかげで、ゼロからいろんなことを聞けました。それに、彼らが救援に来てくれなかったら、僕はゼロには勝てなかった。ありがとうございます」僕はスチュワートに礼を言う。
「へっ、ほめても何も出ねぇよ」スチュワートは、ニヤッと笑う。
「でも、ビーンさんは救えませんでした」
僕は、歯を食いしばった。できることなら助けたかった。
「いや、あんさんはゼロを倒した。ビーンが最も成し遂げたかったことだ。ビーンは自らの死で、あんさんに伝えたのさ。自分が死んででもゼロを倒すってな。あんさんはそれに答えた。ビーンはもう救われてんのさ。こいつはちゃらんぽらんだが、覚悟は誰よりもデカかった。死んでも成し遂げようとするその精神。俺ぁ、ビーン。あんたに敬意を表すぜ。あんたは英雄だ」
スチュワートは敬礼した。姿勢を伸ばし、前を見ている。彼を後ろ姿からしか見えていないが、少し肩が震えていた。僕も、ビーンの死体に向かって敬礼した。グレイシアもフォックスも僕に続いた。
「この場所を、ビーンさんのお墓にしませんか?ここはかつて、世界が一つになるための場所だったんですよね。ビーンさんはこの世界を一つにするために戦い抜いた英雄です。そして、一応ゼロの墓も。彼の負の歴史は残さなくてはいけない。すべてを支配するとか言っていた彼ですが、彼も生き抜くのに必死だったとおもいます。僕からせめて、彼が生きた証を残してあげたいんです。とんだクソ野郎でもね」
僕の言葉にスチュワートは、こう言った。
「あんさんは、本当にひねくれもんだなぁ。普通なら、敵と一緒のところに墓を作るなんて考えねぇだろ、だけどよ、俺は賛成だぜ。ビーンの生き抜いた証。ゼロが生き抜いた証。この出来事は伝えなくちゃいけねぇ。いっそのこと記念館にでもするか?アレックスの奴に相談してみっかな」
スチュワートは笑った。僕も「そうですね」と言って笑う。
「じゃあいったん帰るぜ。凱旋パレードの準備でも、アレックスにさせとくか」
スチュワートは。笑いながら言う。
「そんなのはいりませんよ」僕は、笑いながら返す。
「ところでさ、あんちゃん。おいらもあんちゃんについてっていいかなぁ。おいら他に行くとこないしねぇ」フォックスは、僕についてきた。
「なんだ?そいつぁ。喋る、狐?」
スチュワートは、フォックスを抱きかかえじっくりと見回す。
「あっ、その子?も一応僕の世界から来たみたいなんです。予想ですけど、ここに飛ばされた環境の変化でしゃべれるようになったんじゃないかなと。ここの世界と僕の世界は環境が少し違うみたいでしてね、魔法の原因もそこにあると思うんです」
僕は、自分の知ったことを話した。
「へ~、それにしても気持ちいいな、この毛並み。よし、行くか」
スチュワートは、フォックス抱き抱えたまま、歩き出した。
「グレイシア、行こうか」僕も歩き出した。彼女は頷き、一緒に歩きだした。
「ビーンの遺体はここの奴らに任せる。あんさんたちはこれに乗って帰んな。運転は俺がしてやっからよ」
僕たちは、でかい車に乗り込んだ。
「んじゃ、後は頼んだぜぇ。バケモノの対処は分かってんだろ」
スチュアートの呼びかけに、「了解!」と残る人たちは敬礼した。
「全く、俺は只の引率で、隊長とかじゃねぇっての。よし行くか」
スチュワートは車を発進させた。車はガタガタ揺れて、乗り心地はいいとは言えないが、文句は言わない。ふと隣を見ると、グレイシアもフォックスも寝ていた。
「さすがに疲れただろう。嬢ちゃんに至っては五歳だ。ゆっくり休みな。あんさんも寝てていいぜ」
スチュワートは、今までにない優しい声だった。
「分かりました。さすがに、疲労が半端ないですから。少し休みます」僕は、眠くなり、寝た。