第1章 26話 異世界の決戦
「魔法の組み合わせ?」
僕は左手に炎、右手から岩を出した。二つ同時にぶつけてみたが、溶岩になることはなかった。
「なるほどね、あなたは僕とは何かが違うという事ですか。何かは分かりませんがね」
僕は剣を構えた。
「ほぅ、白い刀身の剣か。だがそれでは突き刺す程度しかできないぞ」
ゼロは椅子から立ち上がった。そして僕のほうを向いた。僕はその時しっかりとゼロの姿を見た。見た目は若いのに、貫録を感じる。僕は少し気圧される。
「どちらにせよ、あなたがあの国を乗っ取るつもりなら、僕はあなたと戦うしかないですね」僕の言葉にゼロは笑った。
「お前は何故ここに来た?あの国にそこまで情を移すようなことでもあったのか?」ゼロは僕に聞く。
「言ったじゃないですか。理由は単純。死にたくないからですよ。建前は、あの国をあなたから救う事ですけどね。僕はバケモノになりたくはない。だからここに来た。一緒に来た仲間もだましてね。僕の目的はあなたから情報を引き出すことです。でもあなたは何も知らない。だとしたら、あなたに用はないです。自分で方法を見つけます。あなたがあの国に手を出さないのなら僕は今すぐ帰りますよ。そして普通に暮らしてみせる。だけどあなたみたいな人が、支配するというのなら、僕は戦います。力の差があろうともね」
僕の言葉にゼロはさらに笑った。
「言うじゃないか。私はてっきり、漫画の主人公みたいに『人々が困っているのなら助けたい』とかいうありきたりな理由で、私に挑んできた愚か者と思っていたが、お前はひねくれ者だな」僕は返す。
「もとより僕はひねくれ者です。ですけど一割ぐらいはあの国を救ってみたい気持ちはありますけどね」僕の言葉に、ゼロは敵意を向けてきた。
「私に勝てると思うのか?」ゼロは言う。
「さあ?ゲームでもここまでの縛りプレイはしたことないですよ。初見、低レベル、ノーコンティニューなんてね」僕は冗談を言いながら、ゼロに目線を合わせる。
「では、行くぞ」
ゼロは片手を前に出し、溶岩を波のように飛ばした。僕は剣を地面に立て岩で壁を作り防ぐ。
「こういう場合は、上から来るってのは分かるぞ!」
ゼロは片手を上にあげて、竜巻のようなものを撃ち出す。竜巻はそいつを吹き飛ばした。
「終わりだな」ゼロは手を下した。
「ここだな!」
僕は、前方に剣を突き出し氷を纏いながら突進した。僕は上に行ってない。飛ばしたのは岩の一部。僕は突進して僕の作り出した岩を砕き溶岩を氷ではねのけた。僕の一撃は、ゼロの心臓を貫いた。
「あなたは漫画の見過ぎですよ。僕はゲームをよくやりますが、縛りプレイが好きでしてね、まず相手の攻撃パターンを見るんですよ。漫画みたいに馬鹿正直に避けて飛んで突っ込む真似はしません。あなたが隙を見せたから、僕はそこに攻撃を仕掛けただけです」
僕が言い終わる前に、ゼロは力なく手を下した。が、ゼロはすぐに剣をつかんだ。かなりの力で。まるでダメージが入っていないかのように。
「私はね、他と違うと言っただろう。心臓を貫くだけじゃ死ななくなっているのだよ」
僕はとっさに腰から、銃を取り出し。心臓に向かって炎を撃った。炎はゼロの心臓をえぐり取った。左胸に大きな穴が開いた。だがゼロは生きている。僕は、後ろに飛んだが、ゼロは僕に向かって竜巻を起こした。体が切り刻まれて風によって起こった雷が僕を焼いた。僕は剣を落とし、体は壁に打ち付けられた。
「だから言っただろう。私に勝てるものはいない。私はこれから、アダムス王国に侵攻を開始する。それだけの戦力が十分に集まったからだ。バケモノの子がようやく数がそろった。さすがに、私と残り二匹になった私の部下だけでは戦力が少ない。だからバケモノの子供を作り出した。五百万匹ほどな」
ゼロは歩き出した。
「させませんよ」僕は立ち上がりけがを治した。
「即死がだめなら、粉々にするだけだ」僕は、剣を拾い握った。
「痛っ」
僕が剣を見ると、グリップの一部が外れてボタンのようなものがあった。ボタンを押すとグリップのちょうど掌が当たるところに針が飛び出した。
(なんでこんな機能が?流血光刃ってまさか、自分の血が関係しているのか?魔法は体液の気化したものだとしたら大本は血?)
僕は物は試しで、ゼロに向かって剣に風を纏い、投げ飛ばした。威力が更に跳ね上がった。ゼロは後ろに吹き飛んだ。壁にクレーターが出来た。
「ほぅ、そいつは魔法の威力を高めるものか。そんなものがあるとはな」
ゼロは無傷だ。(この剣、何か引っかかる。光の刃。ニヒルアダムスはこれで本当に血を流さずに、あの国を作ったのか?)
「いくら威力を上げても、私にはかなわないよ」ゼロは、溶岩を撃ち出そうとした。その時だった。
『ブルルルルゥン!』
部屋にいきなりバイクが突入してきた。そしてゼロに向かって、雷を纏った何かが投げつけられた。ゼロは避けた。
「おい!大丈夫か!」ビーンは僕に言った。
「ビーンさん?なんで?」僕は疑問に思ったが、なぜかは音を聞き理解した。
「まさか、増援?。それにバケモノの足音がしない。たおした?」僕がつぶやくと、ビーンはうなずいた。
「そういう事だ。スチュワート隊長が、ひそかに部隊を結成させていた。中央での倒し方を参考に、氷の魔法族を大量に集めた。俺たちの出た次の日の朝に出たらしい。バイクのタイヤ痕を追ってな。それでグレイシアと協力して、親を氷漬けにできた。あとはあんただけだぜ?ゼロ」
ビーンは、槍を構えた。
「お前は、確か王の護衛とか言ってたガキか。そうかあいつらもやられたのか」
ゼロはまだ余裕の表情だ。
「私は、お前らを見くびりすぎていたようだな。だがそれでもお前たちは私に勝てない」
ゼロは、溶岩の波を僕たちに向かって放った。
『ガキィン!』目の前の溶岩がゼロごと巻き込み凍った。
「大丈夫?あんちゃん」フォックスが僕に言ってきた。
「おいおい、お前たちは外で待機してろって...」
ビーンが言っていたが、グレイシアは僕に近づいてきた。
「だいじょうぶ...じゃない!」
彼女は、僕の顔面に向かってグーの手で全力で殴った。
「どごっ!!」
僕は後ろに倒れた。本当に五歳のパンチか?
「レイ...ボロボロ!」彼女は僕にのしかかり胸ぐらをつかんだ。彼女の顔は、怒りに満ち溢れていた。
「ごめんね、心臓撃っても死ななかったんだ」僕は言い訳をした。
「いいわけは...いら...ない!」
彼女は僕をボカスカ殴った。死にそうだ。
「ちょ、ちょっと待てよ、グレイシア、今普通にしゃべったか?」
彼女は、ビーンを見たとき気づいたようだ。彼女は周りにも聞こえる声でしゃべっていた。
「あれ?」彼女は首をかしげた。
「ねぇねぇ、遊んでるとこ悪いけどさぁ神崎出て来そうだよぉ」
フォックスがのんきに言ったすぐあと、ゼロは氷を吹き飛ばし出てきた。
「こいつは、氷漬けってわけにはいかなさそうだ」
ビーンは槍を構える。ゼロをグレイシアもにらみつける。
「こうなっちゃったら、ビーンさんあれをやりますよ」
僕の言葉にビーンは「おう」とだけ言った。
「そこのお嬢さん。なかなかやるじゃないか。私を丸ごと凍らせるなんてね。私の全力レベルだ。だがお前も私には及ばない。私は子供にも容赦しないだから『冷徹の零』と呼ばれていたのだ。私を、なめてると、痛い目を見るぞ」
ゼロの目は怒りに満ちていた。
「今です!」
ビーンは雷の付いたナイフを投げた。ゼロは避ける。僕はゼロが避けた隙に剣に炎を纏わせて攻撃する、ゼロは避け続ける。銃で更に逃げ場を少なくした。遠距離からは、ビーンがナイフを投げる。ここまで来れば避けることができなくなり、僕やビーンの攻撃が当たる。
「ちっ!」
ゼロは視線を別の方向に向ける。グレイシアのほうだ。僕は耳を澄ませた。足音が聞こえる。二メートルほどの大きさの、これは最初に僕を襲ったバケモノだ。
「グレイシア!気を付けろ!バケモノが来る!数は十二だ!」
僕は彼女に注意を促した。少しして、トカゲのようなバケモノが現れた。彼女とフォックスは、戦い始めた。
「本当に、子供に容赦しないんですね。恥ずかしくないんですか?」僕は責めた。
「私は、お前と違い子供すら信用できない世界で生きてきたからな。お前のような、のんきな世界では生きてきていない」
ゼロは、攻撃を食らいながらも、淡々と話した。
「分かりました。もういい。僕はあなたの目指す世界が嫌いだ。勝手に自分の都合を押し付けんな」
僕はゼロを吹き飛ばした。
「いまだ!」
ビーンはゼロに槍を突き刺した。ビーンとその周辺にちょうど、ナイフが突き刺さっている。
「この距離なら外さねぇ。おい知ってるか?俺の鎧は電気を通さないんだぜ?電撃は鎧の表面を通るだけで、俺は無傷だ。消し炭になりな!」ビーンは、鎧のマスクをかぶり電撃をゼロ本人に向かって放った。
「ちぃっ!」
電撃は、周りのナイフを伝達して激しくスパークした。僕はまぶしくて目をつむった。
僕は目を開けた。僕は目の前の光景に言葉が出なくなった。僕の目の前には黒焦げになって、横たわるゼロの姿があった。そして胸に小刀が突き刺さって倒れているビーンの姿があった。
「ビーンさん!」僕は駆け寄った。グレイシアもフォックスも他のバケモノを一気に片付け駆け寄った。
「まだかすかに生きている!」僕は回復の魔法をビーンに送った。ビーンが口を開いた。
「いや...俺はここまでだ。俺はあいつを倒すために生きていた。今まで誰もかなわなかったゼロを俺は差し違えだが倒せた。本望だ。全部あんたのおかげだ。レイ。ありがとうな...」
ビーンは力なく倒れた。全く動かなくなった。小刀を通して電撃がビーンの全身を焼いていた。僕は傷を治すことは出来たが、動かない。代わりに後ろで、何かが動いた。ゼロだ。
「危なかった。あの世が見えるなんてな。あと少しで本当に死ぬとこだった。だが残念だったな。私は
はまだ生きている」
ゼロの体は、見る見るうちに治っていく、さすがに服はズタボロのままだが。
「さてと、残るは二人と一匹か?」ゼロは、僕たちに近づく。僕達は後ろに下がった。ゼロはビーンの前で止まった。
「ちっ、お前のせいで服がボロボロじゃないか」ゼロはビーンを蹴飛ばした。彼のこの行動が、ゼロの運命を決めてしまった。
「私が憎いか?友達を殺されて憎いか?だったらかかってきなよ。あとを追わせてやるからな」僕は立ち上がった。
「ねぇ。僕が今考えていることは何でしょうか?」