第1章 25話 異世界の作戦
僕たちはバイクを押し続けた。僕は音を聞きながら進む。
「えっと、こっちにはいますね。回り込みましょう」
僕は、バケモノらしき足音を避けて歩いた。小動物であろう足音も極力避けるようにした。建物まで、あと一キロ弱ほどに迫った。
「じゃあ、いきますよ。その前に...」
僕はバイクのマフラーを分解し、エンジン音がうるさくなるようにした。
「静音設計で作ってあったのに、これじゃ意味なくなりますね」
僕は、ハハハと笑った。
「いや、俺は爆音で駆けるこいつのが好きだぜ。なんか、ノリノリになるしよ」
ビーンも笑っている。
「よし、じゃあ作戦開始といきますか」
僕は前に出てしゃがんだ。
「気を付けろよ。絶対無理するな。今更聞くのは変だが、殺れるか?」
ビーンが僕に聞く。
「やれます。足が竦むなんてことはありませんよ」僕は答える。
「よし。じゃあ。行くぞっ!おらぁ!」
ビーンはサイドカー付きのバイクを走らせた。グレイシアは僕の言われた通り、スマホの電源を入れて音を流した。フォックスは、ビーンと一緒に「うおー!」と叫んでいる。
よし、これで一人になれた。僕は飛び上がり木の枝を足場にして、できるだけ気力を温存し、音を少なく走った。建物に数百メートルに近づいたとこで僕は、木の上まで飛びあがり、下に向けて。銃にためた風の魔法でさらに飛びあがった。僕は音を聞いた。遠くでバイクの音とそれに近づく大きな足音が、数体いた。建物の中では、足音が聞こえた。あまり大きくない。二足歩行で歩き、そして腰を椅子か何かに下ろす音。間違いないこいつだ。ちょうど僕は建物の屋上付近まで来た。あとは、こいつでやるだけだ。僕は、上に向かって風を放ち急降下した。
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『ザクゥンッ!』僕は斜め上から椅子に座った人に剣を突き刺した。椅子もろとも貫き、少し柔らかいようで硬いものをさらに貫いた。
(これが人を刺す感触か。気持ち悪い感触だ)僕はさらに銃を頭に突き付けた。異様に落ち着いている。
「ぐっ!」
そいつは唸った。だが...
「ほぅ、そろそろ報復に来る頃かと思ったが、暗殺で来たか」
そいつそうは言った。渋い声がする。僕は顔を見た、が、そいつはまだ十八歳くらいの青年だった。僕はギャップに驚いたがすぐ落ち着いた。
「だがなかなかやるな、音を立てずにいきなり上から来るとはな。あの国もなかなかの人材をそろえたものだ」
そいつは、刺されているにもかかわらず、余裕の感じだ。
「僕はあの国出身ではありませんよ。あなたに質問があってきただけです。あなたがゼロですか?」
僕はまず質問した。
「ゼロ?懐かしい響きだな。『冷徹の零』私の通り名だった」
やはりこいつがゼロでいいようだ。
「じゃあ次に聞きます。なぜあなたはあの国を襲うんですか?」次の質問をする。
「お前も知っているのだろう?私があのバケモノ共をコントロールできることは、私は他と違う。弱者の上に強者が立つのは当然の事だろう?あの愚かな奴らは、私に支配されるべきなのだよ」
ゼロは答える。こいつは弱肉強食主義のようだ。僕は質問を続ける。
「なぜあなたは、バケモノをコントロールできるんです?」
この質問にはちょっと詰まったようだった。
「言っただろう。他と違うからだよ」
ゼロは、肝心なことを言わない。だったら仕方ない。
「僕は日本から来ました。本当の目的を言います。『なぜあなたはバケモノになっていないんですか』これが僕の一番の目的です」
ゼロは驚いたように僕を見た。
「日本から来た?それはかわいそうにな。だが何故あいつらの正体が分かった?お前の身の回りに『なってしまった』ものがいるのか?」
今度はゼロが僕に聞く。
「いや、来たのは僕一人だけです。気づいたのは、あなたが首都にあのバケモノを送り込んだ時です。バケモノは回復し魔法も使う。僕と同じと思いましてね。だから仮説を立てた。バケモノは僕のいた世界から来た人間。そして何かの拍子でその人はバケモノになる。あなたはそれを免れる方法を知っている。僕は、どんな拍子でバケモノになるか分からない。だから準備も何もせず飛び出したんですよ。居ても立っても居られないってやつです」
僕は質問に答えてやった。
「お前はすさまじい洞察力を持っているようだな。仕方ない、じゃあ答えてやろうか」ゼロは答え始めた。
「一か月だ。ここに来たものは一か月ほどでバケモノに変わるのだよ。ここに飛ばされたとき私のほかに部下が三人いた。だが私以外はすべてああなってしまった。お前の知りたいことは何故私が操れて、バケモノにならないのかだったな。残念だが分からない。私はなぜか動かせたんだ。変わってしまったあいつらをな。だがあいつらは、今まで以上に私に忠実になった。そして、とてつもない力を持っていると知った。だから私は支配しようと思った。ちょうどいい機会だったのさ。私はエイドの軍を襲った。するとどうだ?あいつら我々に手も足も出ない。
そして私も戦ってみた。人間が虫に見えた。私はここまでの力を手に入れていたのだ。ならば支配するしかないだろう。誰も私には勝てない。私は他と違いバケモノになることもない。天は私にこの世界を支配しろと言っているかのようだった。残念だが、お前もいつかはバケモノとなるだろう。そうだ、いっそのこと私に付けばいい。世界を支配しようじゃないか。もしかしたらお前も私と同様に変わらないかもしれない」
僕は理解した。こいつは只のクズだ。無駄足だったようだ。
「ちっ、僕はあなたみたいなやつに期待してしまっていたのか。わざわざ、一緒に来てくれた人たちを危険にさらしてまで来たというのに、とんだ無駄足だよ」
僕は、魔法をため込んで銃で頭を吹き飛ばそうとした。が、椅子から熱が伝わるのを感じ僕はとっさに剣を引き抜き後ろへ飛んだ。椅子から溶岩が飛び出した。
「お前は私を見くびりすぎだ。お前が日本から来たのなら魔法を使ってくるのは必須。だが魔法を組み合わせることはやれないだろう?これが私とお前との差だ」
ゼロは余裕の表情だった。