第1章 24話 異世界の作戦会議
「作戦は、そうだなぁ。夜明け前ぐらいがいいんじゃないですか?バケモノは知りませんけど、僕が睡眠するなら彼だってするはずです」
僕はまず、決行する時間を提案した。
「あぁ、俺もそれに賛成だ。眠らねぇ生物はいねぇ」
ビーンは賛成した。ほかも同じだ。
「それで潜入する方法だが、あの建物は円形で真ん中は吹き抜けになってる。そこに天井はねぇ、やるとしたらそこが一番なんだが、どうやって上に行くかだな。空でも飛べたらな」
ビーンの言葉で僕はひらめいた。
「二手に分かれましょう。前に言ってた陽動です。ビーンさんは、バイクを全力でふかして突破するように建物に突っ込む。僕は風の魔法で飛び上がり、そこから体を浮かしたまんま潜入する。ちょっと疲れますけど」
ビーンはこの提案には賛成しなかった。
「ちょっ、あんた一人で潜入する気か?確かに、飛び上がったりできるのはあんただけだ。でも一人は危険すぎる!考え直せ!」
ビーンは、真剣な顔で僕に迫った。まぁ無理もない。いきなり一般人が暗殺をするとか訳の分からないことを言っているのだから。でも僕は引き下がれなかった。
「仮に、ゼロ、神崎が僕同様に聴力がかなり発達してしまっているなら、数百メートルも近づけば、誰がどれだけの人数でいるってことがはっきりわかります。だったら、でかい音でかく乱すれば、僕が飛び上がる音もかき消せる。僕なら必ずやれます。いや、僕にしかできない」
僕は、押し返すようにビーンに迫った。少し自信過剰かなとも思うが、これは譲れない。ビーンは引き下がった。
「くそっ、でもこれ以外いい方法が見つからねぇ。こうするしかないのか。ほかに意見はあるか?」
ビーンはグレイシアとフォックスに聞いた。だが、二人とも何も思い浮かばないようだ。
「じゃあ、グレイシアはこれ持って」
僕は、充電しておいたスマホを取り出した。
彼女は、どうしろと?と言った顔で僕を見た。
「バイクに乗ったら、これを押して、ここを押せばいい。大音量で音が流れる。昔祭りの様子撮っておいた奴なんだけど、音だけ聞けば掛け声を上げて走ってくるように聞こえなくもない。危なくなったらこいつを投げ捨てればいい」
僕は彼女に手渡した。
「だい..じょ...ぶ?」彼女は僕を心配した。
「問題ないよ」僕は笑いかけた。
「はぁ。ゼロの奴はどうやら、会場の王の椅子に座るのが好きらしい。吹き抜けのちょうど真ん中にある署名用に拵えた椅子がな、あそこにいるなら一気に片付けられるはずだ。上から来るなんてのはさすがに考えられないはずだからよ」
ビーンは作戦の続きを考え始めた。
「それにかけるか」僕は、相槌を打った。
「仕方ねぇ。作戦会議は終わりにして休もう」ビーンは、頭を掻きながらゴロンと地面に寝転がった。
夜になった。夜明け前の作戦なので早めに寝た。今は僕が見張りをしている。
「なぁ、ちょっといいか」ビーンが起きてきた。
「どうしたんです?交代するには早すぎますよ」僕はビーンに言う。
「ちょっとあんたに聞きたい事があってな、あんたは、『神様』って信じるか?因みに俺は信じてる。正しき道を行くものには必ず救いがある。俺はこの戦争を終わらせることは正しき道だと思ってる」
ビーンは唐突に僕に聞いてきた。
「神、ですか。正直言うと信じてないんですよね。全ての者の言葉、心を聞き、それぞれに裁き、救いを与える存在。僕の中で神様はそういう存在なんです。でも世の中は、いくら神を信じ、正しく生きようとしても救われないものは救われない。逆にいつまでもふんぞり返って生き続ける奴は生き続ける。他の人間を、おもちゃのよう扱い捨てる奴もいる。だから僕は、僕の中にある心を信じてます。僕が今一番正しいと思ったことを行動に移す。それは善悪の区別なんかない。いくら正しいと思ってても間違っていることもある。ボーダーで、アンドリューを追い詰めましたが、彼も多分同じだったんじゃないですかね。彼は、彼なりの正義を貫いた。神様なんて、自分の行動がもたらす運命だと思いますよ。それに神様がいたら、僕たちは下らない争いなんてやってないですよ」
「なるほどな、あんたらしいと言えばあんたらしいな。あんたと会ってから、国が変わり始めているように感じたんだ。あんたが現れてからたった数日で、いろんなことが起こりすぎた。だがあんたはそれをほとんど阻止した。そして変えた。周りには、あんたを神とかいうやつもいた位だ。だけどそれは全部あんたの正義を貫いた結果ってだけなんだよな」
ビーンは僕の肩に手を置いた。そして彼は頭に?を浮かべた。
「ん?あれ?」
ビーンが僕の顔をジロジロ見ている。ちょっと気持ち悪い。
「どっどうしたんですか?」僕は、ビーンに聞く。
「あんた、そんな幼い顔してたか?初めて会った時、もうちょっとおっさん顔してたような...あんた二十歳って言ってたよな。あんたの顔、さすがに盛っても十四ぐらいの顔してるぜ。下手すりゃ小学生にも見える」
僕は慌てて鏡を探した。案の定バイクの袋に手鏡が一個出てきた。もしかしたらグレイシア用のかもしれない。僕は顔を見た。今まで気づかなかったが、確かに二十歳というには若すぎる顔をしている。それにこの世界に来てから僕はひげも剃っていない。だが僕の顔にはひげが生えていない。またこの世界で分からないことが増えた。
「もう僕という存在が訳が分かりませんね」
僕はもう笑うしかなかった。
「そろそろ交代の時間ですね、じゃ、僕は休みます。二時間後起こしてくださいね」僕は寝袋に入った。
「おう」
ビーンは、それだけ言った。
その後、見張りを交代し続け朝を迎えようとした。
「じゃあ。行きますか」僕たちは、バイクを押して歩き始めた。