第1章 23話 異世界の決戦前
「お~い!起きろよ」
ビーンが、僕を揺さぶった。僕はすぐさま準備をした。
「みんな準備はいいかぁ。じゃあふぉっくす。道案内たのむぜ」
ビーンは、狐に指示した。
「お~け~、じゃ、まずここ道まっすぐいってねぇ」
僕たちは、バイクに乗り発進した。狐はグレイシアと一緒にサイドカーに乗った。彼女の膝の上に、狐は座った。彼女は、狐をもふもふした。
「お~、こんな早い乗り物があるなんてねぇ。これなら昼過ぎにはつけるんじゃない?」
狐は、道案内をつづけた。ちょくちょく休憩して、今がどこのあたりかチェックを入れながら走った。
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「んでさ、この道をず~っと行けば着けるよぉ。近くにあの化け物達はいないみたいだからさ、一気に行けると思うよぉ。このスピードならねぇ、あと二時間で着けるかなぁ」狐は道案内を終えて、グレイシアと遊びだした。僕達はひたすら走り続ける。
「ねぇグレイシアはなんで、喋るとき、詰まった感じになるのぉ?病気?」
狐は、グレイシアに聞いている。
「あぁ、それはね...」説明が長くなるから僕が狐に今までの事を説明した。
「へぇ~、大変だったんだねぇ。でもさ、おいらたちに聞こえてるなら、そのうちちゃんと話せるようになるんじゃない?」
狐は、ぽんぽんと彼女の頭に手を乗せた。すると彼女は思い出したかのように歌いだした。
「らんららら」
最初のフレーズを全く詰まることなく歌っている。ぼくは痺れた。彼女の歌声はとても澄み渡っている。それでいて力強さも感じられる歌声になっていた。ビーンが急ブレーキをかけた。僕も急いで止まった。
「ちょっ!、今の何!?グレイシアの声だったのか?今の」
ビーンが、バイクを降りて彼女に聞いた。彼女は頷いた。
「いっ、いつの間にここまで...」僕はつぶやいた。
「おふろ...とか..ひま.な...とき...に..れんしゅう...した」彼女はこういった。
ビーンに歌以外の声は聞こえていないだろうが、どうやら口の動きで何を言ったのか分かったみたいだ。
「ほへぇ~、帰ったら歌手にでもなったらどうだ?」
ビーンの提案に彼女は、首を縦には振らなかった。
「きれ~なこえだね~。その歌って君の国の曲なの?」
僕たちは再びバイクを走らせ、そこで僕が説明した。
「この歌はアメリカの歌でね、確か七十年代にはやってたと思うけど...」僕は説明した。
「七十年代?おいらがここに来る前は確か五十何年ってヒトたちは言ってたねぇ。ねぇあんちゃん。おいらもその歌うたいたいなぁ。教えてくれるぅ?」
僕は拒否する理由もなかったので、走りながら歌った。ビーンは、僕の歌っている歌詞が分からないのか、ちらちらこっちを見てくる。
「ら~んら~ら~」
狐は、途中から適当に歌いだした。正直言うと下手糞だ。隣が美声のせいでそのギャップからか不協和音している。僕は、なんだかその光景が笑えてきた。
「楽しそうなとこわりぃけどよ。レイ。あんたさっきから変な言葉連呼してるけどなんだそりゃ」
ビーンが僕に聞いてきた。
「英語はこの世界にないですからね。でもちらほらこの世界でも英語は混ざってましたよ、テーブルとか」僕は答えた。
「俺にも教えてくれねぇか」
ビーンは、仲間外れになっていると思ってか、僕にお願いしてきた。
「別にいいですよ、少しでも気分がいいほうがいいですからね。これからの事もありますし」
僕たちは歌いながら走り続けた。ちらほらバケモノらしき足音は聞こえるが、かなり遠くこちらに気付いているわけでもなさそうだ。敵の拠点は近いようだ。
しばらくして遠くに大きな建物が見えた。僕達はバイクを止めて、降りた。
「ここからは、歩いていきましょう。フォックスさん。ありがとうございます。君は行ってください」僕は言った。
「やだよぉ。途中からなんとなく気づいてたんだけどさ、あんちゃんたち、『神崎』を倒しに来たんだよねぇ。おいらもあいつには困っててさ、あいつが化け物を解き放っちゃってさ、おいらはそいつらから逃げ回る日々だよぉ。だからさ、ここの支配者とか言ってるあいつを倒すってんなら、協力するよぉ。いや、協力する」
狐の目からは、強い意思が伝わった。どうやらゼロを倒すのは、本当に世界を救うことに直結しているようだ。僕はこの目を見て、うなずいた。
「カンザキってなんの事だ?」
ビーンはフォックスに質問した。
「あいつ自分の事を神崎 零って言ってたんだよぉ?ビーンのあんちゃん。しらないのぉ?」フォックスが答える。
「レイね。僕と同じ名前だったのか。癪に障るな」
僕は、支配者がうんたらかんたら言ってるやつと名前が同じと知りむかついた。
「ちょっと今日はここで休みましょう。今は夕方前ですが、疲れもあります。それに作戦ぐらいは立てておいたほうがよさそうですしね」
僕は提案してみた。
「それのほうがいい。こっからあそこまでは八キロほど離れてる。さすがに音は聞こえないだろ。まっ、火を使うようなことをしなければよっぽど大丈夫だ。だけど食い物は。何か火ぃ使わねぇものあるか?」ビーンは僕に聞いた。僕はバイクの中を探った。クッキーのようなものが出てきた。小腹満たしとかに出てくるやつだ。なんでも出てくるなこの袋。
「これでいいんじゃないですか」
僕はみんなに分けた。ちょうど人数分あった。もちろんフォックスの分もだ。
「これおいしいねぇ、どうやって作ってんだろうねぇ」
フォックスは、両手で持って食べている。
「ところで作戦ってどうすんだ?正面突破ってわけじゃねぇだろ」
ビーンは、どう動くか悩んでいるようだった。