第1章 22話 異世界の修行
僕は少し歩いた。そして開けた場所に出た。体を動かすにはちょうどいい。僕の聴力は多分一キロ先ぐらいまでは聞こえている。ここなら、グレイシアとあの狐の寝息も聞こえている大丈夫だ。
僕はまず、剣を取り出した。そしてわずかに風を纏わせて、軽く振った。すると前方数メートル程、草むらが耕された。
そして今度は、剣を持ってない逆の手で同じことをした。風が、草になびいただけだった。
(やっぱりか、あのバケモノと戦った時、あのでかい炎を消せたのは、この剣が僕の魔法の威力を高めたからか、もしゼロと戦うなら、これほど頼りになる武器はないな。でも血を流さず光をもたらした。なんか引っかかるなぁ)
僕は、剣をしまった。そして僕は、リュックの中からガスガンを取り出した。僕が一番試してみたかったことだ。僕は、意識を集中させ、ガスガンのマガジンにあるガス注入口に手を触れた。そして右手でグリップを握り、左手でマガジンを抑えながら前方に向かって引き金を引いた。
『ズバァン!』
水が勢いよく噴出した。巨大な水の塊は木にぶつかりはじけた。木の表面が少しえぐれた。
(ライターから炎が噴き出したとき、まさかなとは思ったけど、魔法の正体はガスに近いものだ。そして手がむずがゆくなるのは、手から体液か何かが出ているんだ。それが気化したのがマガジンの中に入った。それがマガジン内のタンクに魔法をチャージした。それで引き金を引くことで、魔法を撃ち出したんだ)
ぼくは、それからあることを思いついた。僕は、バイクに戻りサイドカーの中を探した。なかったら仕方ないと思っていたが、それはあった。工具セットだ。
僕は、ガスガンをいじった。
「お~い、何やってんだ?交代だぜ、寝なくていいのかぁ?」
ビーンはあくびをしながら聞いた。
「あっもうそんなに時間がたってました?すみませんちょっとこの作業を...」
僕は作業をつづけた。
「あっ、そいつおもちゃって言ってたやつじゃねぇか。何してんだ?」
ビーンは眠そうだが気になる様子だ。
「魔法の正体が分かったかもしれないんです。どういう原理で発動するのか...」
僕は、僕の予想をビーンに話した。ビーンは、一気に目を覚まして聞いた。
「ガス状になった自分の体液が魔法の正体っかぁ。で、あんたは何してんだ」
ビーンはもう完全に起きたようだ。
「よしっ、これでいいはず。ビーンさんちょっとついてきてください」
僕はさっきの開けた場所に案内した。
「で?どうすんだ?」
ビーンは分からない様子だ。僕は、片手でガスガンを構えた。そして引き金を引きつつけた。
『どどどどどおおぉぉぉぉぉ』
今度は、消防車の放水のごとく水が出続けた。
「おいおい、なんだこりゃ」
ビーンはあっけにとられている。
「これの中に、僕の魔法をため込んで今撃ち出したんですよ」
「僕はこれを剣と一緒に使えるように、ガスの注入をグリップから入るようにチューブ的な奴をねじ込んで改造して、それから引き金を引いている間、バルブが開き続けるようにして、連続して魔法が撃ち出せるようにしてみました。我ながら結構うまくいきました。どうですこれ?」
僕は自慢げに言った。
「すげぇ。しか言葉が出ねぇ。ってか途中、何言ってるのか分かんなかったぜ。ぐりっぷが何とか、から訳が分かんなくて、とりあえずすごい、って言葉しか頭に浮かばなかったぜ。あっ、そうだ。ちょいと手合わせしてみるか?」
ビーンの言葉に僕は驚きと、なぜか興奮が起きた。
「そうですね。周りバケモノの気配は全くないです。よろしくお願いします」
僕は、さっそく腰に銃をしまい剣を両手で構えた。
「へぇ、中々にいい構えしてるじゃねぇか。よし」ビーンも槍を構えた。
「これでも、剣道は二段までは取れてるんですよ。槍と戦ったことはないですけど」
「へぇ、けんどーってのはよく知らねぇが、あんたがそこそこの剣の使い手だってのは、あんたの目から伝わってくるぜ!」
ビーンは、振りかぶり攻撃してくる。僕はひきつけ、ギリギリのところで受け止め流す。そこに開いたところに攻撃を叩き込もうとする。ビーンも槍で守り僕の剣を払い飛ばそうとする。
『ガギギギギィン、ガァン!』
僕は、ビーンの一撃で飛ばされた。
「おいおい、あんたなかなかやるじゃねぇか。剣と体にブレもすくねぇしよ、だけどあんたは、相手の攻撃を受け流してからの攻撃、いわゆる『後の先』が得意みてぇだがよ、俺を相手にするんなら、攻めに転じたほうがいいぜ」
ビーンが僕に説教する。
(そんなことは分かってる。自分から出なければ、道が開けない。そうだ。今までのは動きの観察。それにこれは、剣術の競い合いじゃない。真正面の戦闘で勝てるわけない。これは僕の実力を確かめるための、実験だ)
僕は、腰から銃を取り出し、風の風圧でビーンを吹き飛ばす。僕もその衝撃で後ろに飛び体勢を立て直す。
「うおっ!いってぇ。風のパンチみてぇだな。じゃ俺も」
ビーンは、槍に電気を流した。
「鋼ってのはな、魔法を通し、ある程度の距離まで伝達する。しかも手から離れても、数秒効果は続く!」
ビーンは、槍を僕に向かって投げつける。
(いやちょっとやりすぎじゃないか?刺さったら危ないだろ。だからさっきまでみねうちでやってたんじゃないのか?)僕はちょっと焦った。
「おれが、雷鳴の一撃って言われてんのはな、一度に大量のバケモノを仕留めたとこからきてんだ!」
ビーンはどこからか、ナイフを片手に三本づつ取り出し、投げつける。僕は避けようかと構えたが、ナイフはあらぬ方向に飛んでいく。(まさか!僕が魔法で吹き飛ばしたから、魔法でし返すってか!?まずい!)僕は、風で飛び上がる。
「おせぇよ、一発し返さねぇとな!」
ビーンが両手で電撃を放った。いろんなとこに突き刺さったナイフと槍がそれを伝える。僕は、食らってしまった。
「ングッ!」
僕は倒れた。全身痛いが、さすがに手加減しているので僕はすぐに治した。
「これを全力でやったとき、バケモノ共は一匹残らず灰になった。これをゼロにぶち込むことさえできたら、俺は勝てるはずだ。あんたと同じようにすぐに怪我が治せるあいつだったが、さすがに即死級の一撃ならくたばるはず」
ビーンは、僕に手を差し伸べた。
「そういえば前に、前に大規模な作戦を行ったって言ってましたね。そこでは、一応ゼロにたどり着けたんですか?」
僕はビーンに聞いた。
「あぁ、陽動作戦で他のバケモノを分散させて、手薄になったところに一気に攻め込んだ。あいつは一人だけでいた。だけどあいつには何も届かなかった。届いたのは、俺の投げた小石が頬をかすめただけだ。すぐに治しやがったがな。あいつは椅子から立つこともなくふんぞり返って、仲間を魔法で切り刻み、焼き尽くした。俺たちは退却した。陽動に動いた奴らもほぼ全滅した。逃げる間際にあいつは言っていた『私は、全てを支配できる。時が来れば、全てを支配しよう』ってな。俺はこれからそんなやつを相手にするわけだが、安心しな。何かあったら必ず助ける。そして必ず成し遂げる。何故か自信があんだよな」ビーンは僕に笑いかけた。
「そうですね。全く根拠もないんですけど、僕達ならやれる。何故と聞かれても答えられないけど、自信が沸き起こる。まるで、運命が見えているかのようにね。僕はゼロを倒せる。必ず...」
僕は不思議に感じていた。謎の自信に、これまでの出来事。僕はレールの上を走っているかのようだ。しかも、通過地点すら飛ばしているかのように。だが僕は、ゼロについてのみ考えていた。
「そろそろ寝ろよ、あとは見張っててやっからよ。俺は二時間も寝れれば十分に起きていられる。だからあとは任せて朝まで寝てな。それとありがとな、いい練習ができたぜ」
ビーンは僕に礼を言った。
「はい。僕のほうもありがとうございます。では休ませてもらいます」
僕はビーンに礼を言って、寝袋に入った。隣ではグレイシアと狐がぐっすりと寝ていた。