第1章 21話 異世界の異端者
『ガサガサッ!』
目の前の草むらが揺らめいた。そして僕は前方に炎を打ち出そうとした。が、飛び出したものと、声に僕は驚いて反応が少し遅れてしまった。
「食べもんなんかくれ~!」
そいつは確かにそう言った。僕は、そいつと顔面でぶつかった。
「んごっ!」
僕は、しりもちをついた。柔らかく温かいふかふかした毛が僕にのしかかっている。僕はそいつを両手で引き離した。そして見た。
「あんちゃん。なんか食いもんない?」
そいつは喋った。見た目は、どこからどう見ても薄茶色の毛におおわれた、狐だった。
「狐が」僕が言う。
「喋った」ビーンが続く
。
「ねー」グレイシアが言った。僕たち三人は、呆気にとられた。
「食べ物なら、ちょっとはあるけど...」
僕は、保冷バッグから、肉をちょっと出した。
「お~!、肉だ肉だ~!そいつおいらにくれんのか?」
僕は、無言で頷き、豚肉を差し出した。ビーンが若干僕を睨んだように感じた。
「んじゃ、さっそく」
喋る狐は、大きく息を吸い、口から炎を吐いた。僕達はさらに口を開けて見ていた。こんがり焼けた肉のにおいがする。
「中までしっかり焼いたこの肉の味、久しぶりだぁ~。ニヒルおねぇちゃんにもらって以来だ~」
狐は嬉しそうに、食べている。すぐに食べ終わった。
「ありがとねあんちゃん。おいら『フォックス』ってんだ。にしても、外歩いてるヒトを見かけるのなんて、何十年ぶりだろね~。今はあの化け物みたいな奴が出て来ちゃってよぅ、ろくに食いもんも探せないんだ。ところで、あんちゃんたちはどこから来たの?」狐が言う。
「アダムス王国...」僕は言った。
「あ~!あのでかい壁の中から来たの?何しに?」狐は僕に聞いてきた。
「ちょっと、答えられないな」僕は返す。
「まぁいいや。でさ、あんちゃんたち、ニヒル アダムスって人知ってる?おいらを助けてくれた人なんだけどさ、急にいなくなっちゃったんだ。かなり昔だから、もう死んじゃってると思うけど、あの国の人ならなんか知ってんじゃないかと思ってさぁ。何か知ってるぅ?」
狐は、元気に聞いてきた。
「アダムスと言えば陛下の苗字だけどよ、ニヒルって名前は知らねぇな」
ビーンは何も知らないようだ。
「そっかぁ、やっぱり中の人でも知らないのかぁ」
狐は、ショボーンとした。僕は考えていた。
「ニヒル アダムス...なんか聞き覚えのあるような...」
僕は、頭を抱えて悩んでいた。どっかでその名前を聞いたことがある気がする。確か...
「思い出した!」
僕は急に思い出して叫んだ。
「知ってるの?あんちゃん!」
狐はしっぽを振って、期待のまなざしを向けた。
「うん。僕がこの世界に来る前にやってたニュースで、確か五十年前に行方不明になっていた人が、遺体で発見されたって。その名前がニヒル アダムスって名前だったはず...」
僕は色々思い出し、考えた。
「やっぱり死んじゃってたのかぁ、ねぇ、その人のお墓ってある?できることなら、感謝伝えに行きたいんだけど」
狐は僕に聞いてきた。
「いや、あれは僕の世界での事だからね。もしかしたら同姓同名かもしれない」
「あんちゃんの世界?」
狐はさらに聞いてくる。僕は別にいいかと思い日本という国から来たと説明した。そしてニュースはそこで見たと。
「日本!懐かしい名前だなぁ。ニヒルおねぇちゃんもそこから来たって言ってたよぉ。やっと、知ってる人に会えたよぉ」
僕はさらに驚き言葉も出ない。
「おいらもさぁ、最初はイナリヤマってとこで生まれてそこでよく遊んでたんだけどさ、いきなりなんかに吹っ飛ばされて気づいたら知らない山に飛んでっちゃっててさ、んでおいらの山に戻ろうと思って数年うろうろしてたらさ、ニヒルおねぇちゃんにあったんだよ、そこで人の言葉がしゃべれるのに気付いたんだけどね。それでさ、おねぇちゃんも同じように吹っ飛んできて、ここは別の世界って教えれくれたんだよぉ。あんちゃんも同じだったんだねぇ」
狐はニコニコしながら、とんでもない言葉を連発してきた。
「ちょちょちょ、ちょっとまてぇ!それじゃあよ、レイとゼロ以外にも予言にはない、二ホンから来た奴がいたって事かぁ!?どうなってんだよ~!レイ!あんた何かわかるか?」
僕は、ビーンの言葉で我に返った。
「そのニヒルさんも日本から来たんでしょうね~」
だが僕は整理が追い付かず、必死で考えてもこの程度しか考えられない。狐は話し続ける。
「そんでさ、そん時はさぁ、いろんなとこが戦争してたから、おいらはおねぇちゃんと一緒に、それを止める旅をしてたんだぁ。そんでやっと落ち着いてきて、アダムスって国を作ったと思ったらさぁ今度は急にいなくなっちゃったんだよぉ」
狐は、言葉という名の大砲をマシンガンのごとく発射する。考えどころか、僕の中では何もまとまらなくなった。
(えと?えと?まとめると初代国王はまさかのニヒル アダムスって事?それであーなってこーなっていまこーなって?あっそうだ、明日の朝は何食べようかなぁ)
僕はもう駄目のようだ。
「なっなぁ、ふぉっくすだっけあんた今何歳なんだ?」ビーンが聞く。
「ん?おいらも途中から数えてないけど、数百何歳位じゃない?ところでよぅあんちゃんたち、どこかに行くつもりなの?ここの森には結構詳しいんだぁ。お礼に道案内してあげるよ」
狐は元気にしていた。
「ふぇ?、じゃ、じゃあよここに行くつもりなんだが...」
ビーンは地図を広げて説明していた。バケモノの少ない道はどれかとか、他に調印式の会場への近道はあるかとかだ。
「あぁ、ここねぇ。ここならあそこの山超えればいいよぉ。朝早く出て常に駆け足で行けば夕方になる前に着けるよぉ。でもさ、ここ妙に強そうな化け物がいるから気をつけてねぇ」
狐は前足を上げて、それほど高くない山を指した。
「へぇ、そんな道があるのかぁ。助かったぜふぉっくす。俺は、ビーンだよろしくな。んでこいつが。あれ?」
ビーンは僕が停止して動かないのにようやく気付いたようだ。グレイシアは何とかしようと僕の頬をひっぱたいたり、つねったりしている。
「あ~、これがレイで、たたいてるのがグレイシアだ。お~い。いつまで固まってんだ」
ビーンは僕に向かって、電気を走らせた。
「いだだだだっ!」
僕はようやく我に返った。もう考えが追い付かないから、さっさとゼロを倒してから国に戻ってじっくり調べてみようと思った。もしかしたらゼロも何か知っているのでは、とも思った。
「んじゃよ、明日は夜明けとともに出発して、ふぉっくすの言う道で行く。じゃ寝るぞ。あっグレイシアは寝ててもいいけどよ、俺とあんたで二時間ごとで、見張りを交代するぞ」
ビーンは、寝袋に入ってしまった。
「分かりました。おやすみなさい。グレイシアも寝たら?」
僕が言うと彼女は頷いた。そして彼女は、狐を抱きかかえて寝袋に入った。
「いっしょ...ねる?」グレイシアは、狐に聞いた
「いいよぉ、一緒に寝よぉ」彼女は、狐をしばらくもふもふして寝た。(あっ、フォックスには声が聞こえてるんだ)。
「あははぁくすぐったいよぅ...zzzzz」
狐は、気持ちよさそうにしてすぐ寝た。
僕は耳を澄ませた。虫や、風で揺れる木の音以外は聞こえなかった。
「ふぅ、国の中での分からないことが一気に分かったな。その倍近く疑問が膨らんじゃったけど...うーん、何も聞こえないからどうしよう。あっそうだ。修行ってやつをやってみよう。気になってたこともあったし」
僕は、少しだけ離れたところで、修行をやってみることにした。