第1章 18話 異世界の覚悟
高台には、白黒ではあるが時計塔近くに街頭テレビがあり、中継が行われていた。
『ゲンザイ バケモノハ チュウオウヨリ ナンセイジュッキロ ホドマデ チカヅイテオリマス スミヤカニ ヒナンヲ ゲンザイトウバツタイガ オウセンチュウトノコトデアリ...』
テレビからは、相変わらず棒読みなナレーションが聞こえてくる。テレビの向こうでビーンがバイクに乗り雷の魔法で応戦しているのが分かる。
「うぉりぃやあああぁぁぁぁ!」
ビーンは必死に戦っている。遠くから槍に加え、弓と矢も使って応戦しているのが分かる。
僕は、考えていた。」
(なぜ、こんなことが起きたんだ?なぜ、僕はここにいるんだ?なぜ、僕は予言に振り回されているんだ?なぜ?なぜだ?教えてくれ、僕は平和に生きたいのに...)
僕は、周りを見た。疲れ果てて倒れている者、移動途中にけがをしたもの、親を探して泣く子供、いろんな人がいた。だが、それらの人から感じたのは、僕と同じ疑問だった。
(じゃあ、戦っている人は何なんだ?、どうして自分が傷ついても戦うんだ。平和のため?家族のため?これも人それぞれ違うのか?)
僕は考えた。すると、隣から歌が聞こえた。
「らんららら...」
歌っているのはダストだ。きれいな歌声をしている。彼女はその後ぎこちないながらも笑顔を僕に向けた。僕の答えは一瞬で出た。
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(分かった。なぜ人は生きるのか。それは笑顔になりたいからだ。笑顔になるために人は苦しい状況を打開しようともがき生きる。人はそれを生きる喜びと感じているから、だったら僕はやることは何故という疑問じゃない。今やるべきことを行動に移すことだ。それが僕の笑顔にみんなの笑顔に変わるのならやることは一つ)
僕は、王に質問した。
「陛下、バイクってまだあります?」
「えっ?この高台の下は、警備隊のバイクが倉庫に...まさか!」
王はどうやら察したようだ。
「はい、僕も行きます。僕は何者で、なんでここにいるのかもわかりません。でも今やるべきことは分かります。それは、僕があいつを倒すことです。、僕なら出来ます。僕ならあいつを殺せます。自信があるんです。それに、僕の中には、恐怖よりも好奇心がある。あんな奴と戦えるなんてって思っているところがあるんです。行かせてください。後悔する前に」
僕が言うと、王は、口を開けて僕を見た。だが僕の意思は伝わったのか、王は頷いた。
「これを持っていきなさい。警備隊のバイクのカギはすべて同じ形にしてある。どれに乗っても構わない。君を信じよう」
僕は行こうとすると、服の裾が引っ張られた。彼女だ。
「君は残っておいたほうがいい、あいつは少々やばそうだからね」
僕は声をかけたが彼女は首を横に振った。
「いく」彼女は、僕のほうを鋭い目で見てこの一言を放った。僕はこの目で、決心した。
「分かった。いこう」
僕は、王に向かって敬礼した。
「笑顔の為に...」
僕は走った。高台の下にはバイクが数台残っていた。その中にサイドカーの付いたバイクを見つけそれにまたがり、エンジンをかけた。彼女は、サイドカーに乗った。僕は二輪の免許は持っていないが、運転の仕方は知っていた。子供の頃、父が運転するの後ろ座席から見ていたからだ。
「いくぞ!つかまってろ!」僕は急発進した。
町の中を猛スピードで駆けていく。バイクは、町を離れ、荒野に着いた。目の前にバケモノがいる。僕は、スピードを上げバケモノに近づく。
バケモノとの距離が、三百メートル付近で僕は彼女に指示した。
「あいつの足元を凍らせて!」
彼女は手を前に突き出し一直線に氷の道が出来、バケモノの足元は一瞬で凍った。遠くにビーンが肩を落としているのが見える。
「ビーンさん!僕もやります」僕は、ビーンに言った。
「逃げろって言っただろ、それにもう少しで雷部隊も来る、またあんときみたいにやればいい」
ビーンは、笑いながら言った
「しかしそれだと、かなりの犠牲が出る。僕にいい考えがあるんです。三人であいつを殺す」
僕が言うと、ビーンはキョトンとした。僕は、流血光刃を鞘から抜いた。僕は、右手に精神を集中させた。
「ザザァ」思惑通り、剣は魔法を通し、刀身に水を纏った。
「そんな使い方出来たのかよ。どうしてわかったんだ?」
ビーンは、不思議そうにしている。
「これは血を流さなかった、つまり守りの力。すなわち盾になるという事だと思ったんです。これで攻撃を受け流し、左手の魔法で攻撃する。僕なりに考えたコレの使い方です。そして作戦はこうです」
ゴニョゴニョ
僕が言うと、ビーンは納得した様子だった。
「じゃっ行きますよ」
僕は、バケモノに向かって、バイクを走らせた。バケモノは足の氷を砕き、こっちに向かってきた。
「そうだ、こっちにこい」
バケモノは、僕に向かって炎を吐いた。僕は最大限に手元に意識を集中させて、剣を突き出した。水が炎を打ち消しあたりに水蒸気が立ち込める。熱い。だがこれでバケモノから僕たちは見えない。そこで横からビーンが槍を全力で投げた。
「うぉおおおおお!とどけぇぇ!俺の破琉血斬!」
槍は、見事バケモノの頭に突き刺さった。バケモノは、ビーンのほうに向かい、再び炎を吐こうとした。
「おせぇ!」
ビーンは両手で電撃を放ち、槍を避雷針にし電流を流した。電流はバケモノの全身を駆け巡った。
『ぐぐぎやぁぁぁおおぉぉぅ!!』
バケモノは叫び、動きが鈍くなった。その後、我を忘れたようにビーンに突進しようとした。
「やっべ!」
ビーンは、逃げた。
「成功だ!こっちだよまぬけ!」
バケモノが僕の声で反応して、振り返ろうとした。僕は、足元で風を起こしてバケモノの顔近くまで飛んでいた。下では彼女とバイクがバケモノの足元で待機していた。
「いまだ!」
僕は全力で両手に力を込めた。そして彼女も歯を食いしばって力を込めた。
「はぁっ!!」
僕と彼女はバケモノに手を置いた。
『ガキキキィンピキィン』
低い音を立て、バケモノを凍らせていく。上からと下から両方の凍結で、全身が凍るのに一秒もかからなかった。
『ピキィン...』
バケモノは、叫ぶ間もなく凍った。僕は落ちていったがまた風を爆破させて、すんなり着地した。
「さて、もう一発行くよ」
僕と彼女は、バケモノをさらに氷で覆った。何十年たっても溶け出さないように慎重に分厚く、容赦なく凍らせた。
「ふぅ、さすがにすごいね。僕の魔法であいつの頭を凍らせたら、君はもう肩まで凍らせてたんだから」
僕は彼女をほめた、というのも本当に僕の全力の魔法を上回る威力だったからだ。彼女は、照れるのを隠すように、顔をうつむけた。
しばらくして、人が集まってきた。
「なんだあれは」「嘘だろ、たった三人で」「子供もいるじゃないか」いつの間にか僕たちは、大量に人に囲まれた。
「済まないちょっと通してくれ」言ったのは王だ。
「アレックス国王陛下っ!...」
民衆たちは道を開けた。
「まさか、氷漬けにするなんてね。それにしても、こいつをどうするか考えたんだ。ここはちょうど何もない地帯だ。だからここに研究所を立てようと思うんだ。常に冷凍保存して動かないようにね。こいつを研究すればもしかしたら君がなぜここに現れたのかもわかるかもしれない。こいつらが現れたのは、ゼロが現れたちょうどその時だった。奴がニホンから来たなら、何か分かるかもしれないと思うんだ」
王は提案した。
「こいつを研究することには、何も文句はありませんけど、以前倒したっていうバケモノはどうしたんです?」
僕は疑問に思ったので聞いた。
「あぁ、あれは、消えたんだ」
僕はどういう事か分からないので質問した。
「消えた?」
「うん。奴が倒れこんでしばらくしたら、徐々に、足元から何の痕跡も残さずに消えていったんだ。『子』のバケモノはそんなことはないんだけどね。だから『親』のバケモノの生態系は全く不明なんだ。君が氷漬けにしてくれたおかげで、やっと生け捕りにできたってとこなんだ」
王は、説明してくれた。
僕は、しばらく考えた。これからどうするのかを、そして答えは出た。
「陛下。提案があるんです。僕はこれからゼロを倒しに行きます」
僕の言葉に、王は口を開けたまま固まった。
「何を言っているんだ。さすがに危険すぎるよ。あいつはこのバケモノたちを何体も従えている。それに、あいつ自身が異常なほど強いんだ。あいつも魔法を使う。バケモノと魔法の力で、大規模作戦の部隊が全滅したんだよ。さすがに...」
僕は、王の言葉を止めた。
「分かってますよ。ゼロがやばい奴だってことはね。だからこそ、今行動するんですよ。奴がもし、自分の意思であのバケモノを送り込んだのなら、れっきとした宣戦布告です。だったら今度は僕たちが返答する番です。目には目を、同じ手には同じ手をゼロにやるんです」
王は悩んでいた、どういうことか分からないみたいだ。だがすぐに閃いたようだ。
「まさか、奇襲攻撃」
王はつぶやいた。僕の意思は伝わったようだ
「はい。正確に言ってしまえば暗殺をするんです。目を盗み、ゼロの意表を突く。それしか勝つ方法はないでしょう。それに、バケモノがゼロの統制で動いているのなら、てっぺんを崩せばすぐに崩壊するでしょうからね」
僕は提案した。
「なるほど、それは今までやったことがない。でも誰が行くんだい?」
王は率直に聞いてきた。
「僕が行きます」
僕は即答した。すると、彼女も前に出た。
「君も行くの?」
彼女は頷いた。僕は止めようかと思ったが、さっきの戦いでの彼女を思い出し止めるのを止めた。
「ここまで来たんなら、地獄の先までついていくことにするか。道案内もいるしな」
ビーンも前に出た。この三人で行くことにしよう。できる限り少数のほうが都合がよさそうだ。だがもう一人名乗るものがいた。
「我にも行かせてください!」
声のした方向を見ると、前にアンドリューと一緒にいた男の一人がいた。よく見ると後ろの二人もそうだった。
「あなたは捕まってたはず...」
僕が言い終わる前に、男が口を開いた
「あの後ここに移送されてきたんですが、この事態が起こり逃げ出して、そこであなたを見つけました。そしてあなたを初めて会った時の事を思いだしました。我は、あなたのような人を探していた。勇気があり、行動力もあり、そして何より、全てを見ようとしているあなたのような人を。我は、誰かについていないと駄目な奴です。この二人もそうです。我と同じ、だから、我は心の底から忠誠を誓えるような人を探していたんです。あなたは、我の理想なんです。我は罪を犯しました、償いのためにも、危険でもこの作戦に参加させてください!」
男は、頭を下げてお願いしてきた。
「あの、あなたの名前は?」
「はいっ!ワンコ・ヒィです!後ろの糸目が、ニャンタ・フゥ、小太りなのが、ポンサン・ミィです!」
男は元気に言った。にしてもワンコって、でも確かに犬みたいなキャラしてんのかな?
「ワンコさん?」僕は聞いた。
「はいっ!」ワンコは目を輝かせている。
「こないでください」
僕は、冷静に答えた。男はショックを受けたようだった。
「できる限り、少人数のほうがいいと思うんです。っていうか、罪を償うなら刑務所でお願いします」
僕は流した。男たちは、警察のいる方向へ歩いて行った。
「では、この三人で行きます」僕は、王に伝えた。
「分かった。でもくれぐれも気を付けてね。作戦が失敗しそうだったらすぐに戻ってくるんだ」
王は真剣な顔つきだ。
「了解っ!」僕は敬礼した。下で、彼女もやっているが手が逆だ。
「では、高速鉄道の開通式は、君たちの作戦開始の合図としよう。君たちは、高速鉄道に乗り西ボーダーに行く。そこの国境の門を通り出発。あそこが調印式の会場までに一番近い門だからね」
僕は頷いた。
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日が地平線から顔を出した。氷漬けのバケモノが太陽に照らされている。そこで僕はあるものを見た。
『ダイヤモンドダスト』。先ほどの戦闘で、ここの空気は氷点下十度を下回るような寒さになっていた。それで空気まで凍り、それが太陽の光で照らされてダイヤモンドダストが発生したみたいだ。僕はその美しい光景に、別れを告げるように歩き出した。