第1章 17話 異世界の非常事態
僕は、ホテルのエントランスを出て、七階の専門店街でビーンを探した。しばらく探すとビーンは、服屋みたいな店で服を見ていた。
「あっ見つけました。ビーンさ~ん」
僕が呼ぶと、ビーンも気付き手招きした。
「何やってたんです?」
「なにって、服見てたんだよ。明日の高速鉄道の出発式に行ってみようかと思ってな、俺も明日だってすっかり忘れててよ、ちょうどいい機会だから行ってみるかと思ってな、んでいい服ないか探してんだ。あんたも行くか?ってか話し合いはどうだったんだ?」
ビーンは、ちょっとうれしそうに服を選んでいた。
「そういう事ですか。あっそうそう、今日と明日はここのホテルに泊まっていいらしいですよ...」
僕は、王に言われた事をビーンに説明した。
「んで明後日に話し合いか、明日は陛下、出発式に出るみてぇだからな、忙しいんだろうな。ちょっと待ってろ。今これ買ってくっから」
ビーンは服と帽子を持ってレジに向かった。
「お待たせ。出発式が明日の六時三十分だからな。さっさとホテルに行くぞ」
ビーンは、ちょっとルンルンしながらホテルのエントランスに向かった。ビーンは服を買うと、テンションが上がる人なのかもしれない。
「部屋はここの四十四階の361っていう部屋らしいですね」
僕は、エレベータに乗り込んでボタンを押したときボタンに奇妙な数字があった。ちょうど10にあたる数字の階が1に/を入れた感じになっていた。
(あっ。そういえばビーンさんはゼロってなんだ?とか言ってたっけな.さっき上ったときは気付かなかったな)
エレベータが止まり、僕たちは下りた。そこのすぐ近くに361と書かれた部屋があった。僕は鍵を開けてドアを開けた。
「広っ、」
部屋が予想以上に広かったので、僕は思わず声を漏らした。でっかいベッドが二つ並び、リビングも別にあった。僕はゆっくりダストをベッドに乗せた。
「なんかここに来てから至れり尽くせりな生活になってきてるような、今までこんなホテルは入ったこともなかったんですよ」
僕は感想をビーンに言ったが、ビーンは...
「ふーん、良かったじゃねぇか。じゃっ風呂入れんぞ」
軽く流されてしまった。
「服着てみよ~っと」
ビーンは鎧を脱いで、鏡の前でさっき買っていた服を着てみていた。ポーズまで決めている。
(女子か!)と僕は心の中で叫んだ。
「んでよ、明日出発式見たらやることねぇんならここの町見て回ってきてもいいぜ。俺は一応警備隊の人間だから、こっちでも見回り程度はしなくちゃいけねぇからよ。あっ風呂が入ったな、先入るぜ」
ビーンは、風呂場に消えた。
(この人ってギャップが激しいな)僕は思っていた。
荷物を置いてしばらくしたら、ダストが目を覚まして目をこすりながら僕のほうへ来た。
「ねて...た?」彼女は僕に聞いてきた。
「途中からぐっすりとね」
「あり...がと」
彼女は僕に礼を言った。
「礼なんかいいよ」
僕は返す。そしてしばらく沈黙した。
「レイ...おね..がい...ある」
彼女はまた唐突に僕に言った。
「おねがい?なにを?」僕は、聞き返す。
「なま...え。ダス.トは...やだ...わた.し、ほんみょう...ない。だか...ら.なま...え...つけ...て」
彼女はどうやら、僕にダスト以外の名前を付けてほしいみたいだった。
「あ~、名前か、ダストってのは本名じゃないんだよね、でも、ダストって名前も悪くないと思うよ。ゴミの中でも強く生きてるって意味だって聞いてるけど...」
僕が話を続けようとしたら、彼女は頬を膨らませて、睨みつけてきた。どうやら彼女は、この名前は気に入ってないみたいだった。
「あっごめんごめん」
僕は、すぐに謝った。
「でも名前か~、すぐには思いつかないな」
そんなことをしていたら、ビーンが出てきた。
「はいる」
彼女は、足早に風呂に入った。
「ビーンさん。彼女、ダストって名前嫌ってるみたいなんですよね。さっき名前を付けてくれって頼まれましたよ。何かいい名前あります?」
僕は、なんとなくビーンに聞いてみた。
「へ?、名前ってのは国から授かるもんだろ」
ビーンの口からとんでもない言葉が聞こえて僕は聞き返した。
「え?名前って普通、親が子に自分の願いを込めてつけるものでしょ?」
僕は、反論した。
「へ?」
「え?」
僕は、ビーンから詳しく話を聞くと、この国では現在の人口の把握や、偽名を使った犯罪防止の為に産まれた約二年後に、政府の専門機関から名前を交付され、それを本名としているらしい。どうりで、この国では、国王と魔法族の人たち以外に苗字がないわけだ。
ダストは、名前を交付される前に両親を殺してしまい、彼女自身もその後、一旦行方不明となったので、本名が無いままとなっていたらしい。
「へ~、それでも僕は、親に名前を付けてもらったほうが嬉しいですね。なんかこれだと、自分が統制されてるみたいじゃないですか。僕の名前も、常に礼儀を重んじろって意味が込められて付けられた名前ですからね」
そうすると、彼女が風呂から出てきた。相変わらず早い。
僕は、風呂に入ってちょっと考えた
(名前について国王に提案してみようかな)僕はそんなことを考え彼女の名前も考えつつ、風呂から上がった。
「もう九時か、明日は早いから今日はさっさと寝るか」
僕たちは、ベッドに入った。今度はさすがに瞼が急に重くなることはなかった。
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夜が更ける直前、朝の四時くらい、空が白んできた時に事件が起きた。
『ジリリリリリリリィ!』
僕たちは、サイレンの音とベルの音で急に目が覚めた。ビーンがラジオを左手に、黒電話を右手に持ちながら何かお叫ぶように話している。
「で?状況は...くそっ!」
ビーンが受話器を投げ捨て、ラジオのダイヤルを回した。
『ココヨリ、ナンセイ、二十キロサキニアラワレタ、キョダイナ「バケモノ」ハ、ゲンザイチュウオウニムカイ、シンコウシテオリ...』
僕はこの放送で、状況をつかんだ。近くであの「バケモノ」が出たらしい。急に部屋のドアが開いた。王が息を切らして僕の部屋に来た。
「レイ君たち!すぐに非難を、現れたのは親のほうだ!防衛部隊も出ているが、手も足も出ない状況だ!早く非難を!ビーンも早く」
王の言葉に、ビーンは止まった。
「陛下、俺は二度とあいつらから逃げるようなことはしたくないんですよ。あいつらのせいで、友を亡くしスチュワート隊長も現場に戻れなくなってしまった。俺のせいだからです。だから今、国境警備隊となりあいつらを次々と殺している。そしていつか、ゼロもバケモノ共も全滅させると二十年前に誓ったんです。そしてバケモノのしかも親が出たってんなら、俺はむしろ行きたい。行きます。なんとしてでもあいつを殺します。レイ!陛下を連れて逃げろ。俺は行く!あいつを殺してくる!」
ビーンの顔は、今まで見たことない凛々しい顔になっていた。
「分かった。魔弓部隊もすぐに向かわせる。今ここで一番実力のあるのは君だったね。国境警備部隊隊長、ビーン・ムゥ通称、『雷鳴の一撃』君の実力をあいつらに思い知らせてやれ!」
「はっ!」
ビーンは敬礼して、走り出した。
「君たちは、こっちへ!」
僕たちは、急いで荷物をまとめ避難を開始した。僕はダストを抱えて走りながら、王に聞いた。
「今聞くべきかはわかりませんけど、親ってのは?」
王は、すぐに答えた。
「君を、最初に襲っていたのは、子と呼ばれるバケモノ、親はその子を生み出す能力を持っているんだ。それに子と違って親の実力はケタ違いに強い。二十年前の調印式の時、ゼロが操っていたのは親たちだった。ついこの前、親の討伐に成功したことはあるんだが、その時の死者数は二百人を超えた。あいつは、攻撃してもすぐに回復してしまうし、何より強大な魔法も使ってくる。そこでビーンたちは、電気の魔法を扱う人物を集めて、魔法を纏わせれる鋼の矢で一斉に放ち、全身を焼き尽くして辛うじて勝利したんだ。それにしてもなぜだ、国境にも一切姿を見せず、何故ここに急に表れた?」
王は疑問を受けべていた。僕は、まさかと思って王に聞いた。
「陛下、壁の下ってどうなっているんですか?」僕は聞いた。
「下は、二十メートルの杭が大量に...まさかッ!地面を掘り進んだのか!」
王はひらめいたようだ。
「それしか考えられません。それにいきなりここに出現したのは狙っての事だとしたら...」
僕は考えた...
「ゼロの...宣戦布告...」
王はそうつぶやいた。
「くそっ!なんでこうなるんだ?、予言がそうさせるのか?ゼロは、何か知っているのか...」
僕は走り続けた、
かれこれ四、五十分走り高台に着いた。僕は、遠くを見た。そこには、二足歩行で歩く巨大なトカゲのようなバケモノがいた。バケモノは巨大な炎を吐き歩いている。
「ハハッこれじゃまるで怪獣映画だな」
僕は、冷や汗とともに笑いと興奮が心の奥で生まれた。