第1章 16話 異世界の国王
「そんな、かしこまらなくていいって。あんまり堅苦しいのは好きじゃないからね私は」
王のイメージと結構違っていたので僕は困惑していた。
「あっそうそう、今朝スチュワートから連絡があってね、君たちにはまた感謝しなきゃいけないことがあるんだ。昨日の火事で、ダストちゃんが建物を氷漬けにして、鎮火させたらしいじゃない。それで氷が解けてから、被害の確認をしたら建物の内部は凍らずにいたらしい。そのおかげで、電化製品や建築そのものへの被害はほとんどなかったらしいよ。被害は、あなた方の住居になっていた建物が一部消失しただけで済んでたらしいんだ。これはほんとにすごいことだよ。この歳にして、これほどの魔法とそれを操る技術。ダストちゃん、君には本当に感謝しているよ。ありがとう」
王は、しゃがんで彼女に頭を下げた。ダストを見ると、目を真ん丸にして口を開けたまま固まっていた。
「それから、そんな彼女を殺そうとしている輩から彼女を守り、更には彼女を恐れていた人たちの考えそのものを変えさせた。これは一種の革命のようなものだよ。それを、この国に来てたった数時間でやり遂げた。レイ君。君は本当に何者なんだろうね。もしかしたら予言というのは本物なのかもしれないね...あっそうだった。君の国について聞きたいと思ってたんだ。君も聞きたいことがあったら聞いてくれ。話によると、君の世界じゃ技術が五十年近く進んでいるそうじゃない。なんでも小型の録音機も付いた電話もあるとか」
王は、興味津々に聞いてきた。これじゃ王というより社長に見える。
「あ~、これですね。これはスマートフォンっていうんですけど、元々は電話機でそれが小型化してそれで更に、色々な機能をつけていった結果、僕の世界ではこうなっていったって感じですね。それにこれは、電話というよりコンピュータ的なものなんですよね。計算機能はもちろん、他にも写真に、ライトも点けれます」
僕は、ちょっと自慢げに語った。王はスマホを手に取り、じっくり見ている。
「ですが、これの欠点としては電池は普通に使えば一日しか持ちません。充電する必要があるんです。それにこれは、インターネット回線があって初めて効果があるんです。今のこいつだと、録音とか、写真とかそういったことしか使い道がないんですよね」
僕は、欠点について語った。
「済まない『いんたーねっと』とは一体何なんだ?」
王はキョトンとして僕を見ている。僕は、インターネットについて、電話回線の事やWi-Fiについてなど僕がが知っている限りの情報を教えた。
「へ~、正直言うと専門用語が多すぎて訳が分からない。だけど、君たちの国がとてつもなく発展しているということは分かったよ。電波とかについては、少しわかるんだ。数年前に中央タワーというのが完成して、電波放送ができるようになったんだ。君のはそれの、かなりの発展を積み重ねた結果という事、でいいかな?あっ、私ばかり質問してしまっていたね。君も何か質問はあるかい?君の世界に無くてこっちの世界にあるものとかはあるのかい?」
王は僕に質問するように求めた。
「あっそうだ。この世界には魔法があるらしいじゃないですか。あれって一体どういった原理で発動しているんですか?僕はここに来てから急に使えるようになっていたんです。それもこの世界からしてみたら異質と言われるほどのものでした。ですから、魔法の事について教えてもらえると嬉しいです」
僕は疑問になっていたことの一つを聞いた。
「魔法かぁ。五百年前に現れた人が魔法族の始まりってことは、知ってるんだよね。その人が複数に分かれている国を一つにまとめる立役者となった。それがすべての魔法を操ったと言われる初代アダムス国王。だけどその人には分からないことが多いんだ。一体どこから来たのか、何故魔法がその人から始まったのか、その記述はほとんど残されていないんだ。アダムス以外の名前もわからない。分かっていることは、その初代国王の子供たちが、今の魔法族になっていること。そして、その人が現れた二十年後、突如行方不明となったという事だけなんだ。だけど、君が現れた事で新たな考察が生まれたんだ。初代国王は、君と同じ世界から来たという事。そして、その人が私たちの世界に今の技術を伝えたという事。初代国王が現れて以降、我が国の技術革新が、異常な程の速度で進歩しているんだ。五百年前までには、電気を使うなんて概念すらなかったからね。
あっ、また話がずれた。魔法についてだったね。正直言うと魔法は自分の精神力を使うってこと以外よくわかっていないんだ。たくさん魔法を使えばその分疲労がすさまじくなる。この程度しか分からないんだ。済まないねあまり役に立てる答えを出せなくて」
王が僕に謝った。
「いいえ!そんなことないですよ。この世界についての歴史もより分かりましたし、何より初代国王が僕の世界から来たってことは、もしかしたら隠れているだけでまだ他にも僕の世界から来た人がいるかもしれないって思うんです。僕にとっては、僕以外にもこっちの世界に来た人がいたってだけで大分安心できたんですよ」
僕は慌てて礼を言った。王は、何か思い出したようにいきなり指を鳴らした。
「そうだった。初代国王について分かってる事がもう一つあるんだ。お~い!」
王は、誰かを呼んだ。すぐにいかにもSPみたいなごつい人が、何やら長細い箱を持ってきた。
「これは、初代国王が使っていた武器とされていてね。開けてみて」
僕は言われるがまま箱を開けた。中にはレイピアのような物が入っていた。
「それの名前は『流血光刃』一切の血を流すことなく、世に光をもたらした刃という意味の剣なんだ。まっ、それを抜いてみてくれ。名前の由来が分かるだろうからさ」
僕は、剣を手に取り鞘から刀身を引き抜いた。刀身は純白で、刃はついていない切っ先だけが尖っていて、突き刺す以外の方法がなさそうだ。この白い刀身は血を流していないことを物語っているように見えた。僕は剣をよく見てみるとあることに気づいた。
「この刀身、金属じゃない。これって、石?」
僕は質問した。王は嬉しそうに反応した。
「御名答!この剣の刀身は、天上金剛水晶石っていう、東ファーヘスト地区にある白針の洞窟っていうこの剣が針のように大量に突き出ている洞窟があってそこの鉱石でできているんだ。略して天石って呼んでるけど、これは異常に硬くてね、どんな機械を使っても切ることも削ることすらできないんだ。地元の人は針地獄とか呼んでるね。この剣は、その天石から作られているんだ。例によってどうやって作られたかは、分からないんだけど。それで、君にこの剣を授けようと思う。初代国王と同じくすべての魔法を操れる君にね」
王は、僕にこの剣を持っていてほしいと言った。
「これって、国宝級な代物なんじゃないんですか?僕が持っていていいんですか?」
僕は質問し返した。
「この剣は観賞用なんかじゃない実践向きの形だからね。飾っていたら、そっちこそかわいそうだよ」
僕は、王に気おされて半ば強引に受け取った。そうしていたら、受付の女の人が入ってきた。
「へいか~、時間ですよ~。っていうかエルメス様がここまで来てますよ。今日、エルメス様の誕生日会なんでしょ?」
女の人は王に対して、すごくフレンドリーに会話していた。
「えっ?もうそんな時間?もうちょっと詳しく聞きたかったんだけど、娘の誕生日会に行かなくちゃいけないから、明後日、もっと詳しく話そう。住むとことか仕事とかもあるしね。あっそうそう今日と明日はここのホテルに泊まると良い。ビーンにも伝えておいてくれないか?んでこれ、鍵ね」
と、王はポイッと鍵のようなものを投げ捨て女の人と足早に消えた。
僕は、応接室に取り残された。ダストのほうを見たら、椅子に座ったまま寝ていた。僕は、彼女を抱きかかえ鍵を拾って剣を腰に差して、エレベータに向かい、七階に戻った。