第1章 14話 異世界の鉄道
「ぉ‐ぃ...おーい」
僕を呼ぶ声がする。
(呼んでいるのは、だれだ?あぁビーンさんか、そういえば、異世界のようなところに来ちゃったんだっけ、呼ばれてるのなら起きなきゃな)
僕は意識がはっきりしだして、起きようとした。僕は、目を開けようとしたとき、かすかな声とともに頬に強烈な痛みが走った。
「痛っ!」
衝撃で、一気に意識が戻った。目をこすり前を見るとダストが僕に馬乗りになり、平手打ちの構えをしていた。
「よぉ、やっと起きたかよ。なかなか起きねぇから、ダストの奴、しびれ切らしてたたき起こしてたんだぜ。因みに今の平手打ちは、三発目だぜ」
僕はあたりを見ると、ビーンとダストかすでに身支度を済ませていた。時計を見たら六時十五分を指している。
「やべっ、寝落ちしたのか僕」
僕は、慌てて身支度をした。僕は洗面台でやたらと固そうな歯ブラシを手に取り、歯を磨いた。僕は、歯を磨いているときに、起こされた瞬間の事を思い出していた。
(さっき、ダストにたたかれたとき、かすかに聞こえたあの声、あれは誰だったんだ?あの声は、ダストなんかじゃない、若い男の声だった。あの声、聞き覚えがある気がする。でも全く思い出せそうにない。確かあの時聞こえたのは『行け』って聞こえた気がしたけど...まぁ考えても仕方ないか)
僕は、十分程度で身支度を済ませた。
「じゃあいくぞ」
ビーンは先導して部屋を出た。僕は、忘れ物がないか確認してダストと一緒に部屋を出た。
玄関から出ると、太陽が昇り始めているのが見えた。
「駅は、ここのすぐ裏だぜ」
僕たちは警察署の裏側に進むと、これまたフランス的な少し大きい駅舎があった。線路ではSLが車両の向きを変えているのが見える。さらに奥には、高架にされている真新しい駅舎が見える。改札の付近へ行くと、スチュワートがいた。
「よぉ、よく眠れたかぁ。ほれ、こいつが切符だ。じゃビーン、後はよろしく頼んだぜぇ」
スチュワートは、ささっと歩いて行った。
「はっ!任務を全うします!」
ビーンは元気よく返した。もうスチュワートは、はるか彼方に行っているのに。
「ふぃー、じゃ行くぞ」
ビーンは、改札の駅員に切符を見せた。
「中央までですね、一等車ですので、乗車口、一番か二番でご乗車ください。では、よい旅を」
駅員は、笑顔で挨拶をしてくれた。
「スチュワート隊長、すごいな一等車を買えたのか。どうやって手に入れてことやら」
ビーンは、つぶやきながら、改札を通っていった。
改札を過ぎると、反転フラップ式の表示板に『七時 発 一番線 特急西端 中央』と書かれている表示を見つけた。
「一番線だな、ついて来いよ」
ビーンは先導した。僕はついて行った。ホームにたどり着くとすでに車両は到着していた。ホームには、漢数字で一から十六まで書かれていた。僕達は、一番と書かれた場所に着き、そこから車両に乗り込んだ。
僕達はデッキの仕切り扉を開けると、通路があり三つある扉の一番手前の扉を開けた。
「へ~、こんな客車乗るのは僕、初めてです」
僕は、少しワクワクしながら、客室に入った。
「なんだ、あんたの世界じゃ高速鉄道が主流ってか?一回見てみたいもんだなレイのいる世界をよぉ」
ビーンも少し楽しそうにしている。ダストは、客室に入るとあたりを探索していた。
「じゃあ、見てみますか?、僕のスマホの写真のとこに確か、家族で京都に旅行に行った時のがあったはず」
僕は、スマホの写真のフォルダーから、家族で旅行した時の写真をビーンに見せた。
「これが僕たちのいた世界の高速鉄道です。まぁ新幹線なんて呼ばれてますけどね」
ふとビーンに目をやると、ポカーンと間抜け面になっていた。
「あんた当たり前のようにそれ出すけどよ、写真まで撮れんのかよそれ、ってかカモノハシみてぇな顔してんな。その車両」
ビーンは、「ハハハ」と笑っていた。そんな雑談をしていたら、列車が発車した。少しすると、オルゴールのメロディが鳴りアナウンスが入った。
『本日も、アダムス国立鉄道をご利用いただきありがとうございます...』
アナウンスによると、午後四時半ぐらいに中央駅に到着するらしい。
「四時半か、スチュワート隊長は五時十五分に会えるようにしてくれたらしい。ちょうどいい時間になりそうだな。あっそうそう、あんた昨日からなんも食ってなかったろ。さっき買っといた弁当だ、食べていいぞ」
ビーンは袋から焼肉弁当のようなものを取り出した。僕はそれを見て、急に空腹感に襲われ、腹の虫が鳴った。
「あっすいません、わざわざ買ってきてもらって」
僕は照れ臭く礼を言った。
「いいって、俺たちは、あんたが寝てる間に食べたしよ。それにあんたはこの国の金は持ってねぇだろ。しばらくは奢ってやるよ、こう見えて稼ぎは良いんだぜ」
ビーンは自慢げに言った。
「ほんと、何から何までお世話になりっぱなしですね」
僕は、弁当を食べながら窓を見た。遠くに工場地帯が見えた。
しばらく列車に揺られて、僕はリュックサックを取り出した。少し荷物を整理しようと思ったからだ。
(一旦中身を全部出そう)そう考えて机の上に荷物を出した。
「なんだ?忘れ物でもしたのか?」
ビーンが聞いてくる。
「いや、何かこの世界で使えるものはないかな~と思いまして、今中身を確認しているんです」
僕が答えると、ビーンはちょっとうれしそうにして言葉を返した。
「じゃあちょっと手伝わせてくれ。俺も、あんたの世界の物見てみてぇしよ」
ビーンはノリノリだった。
僕のリュックから出てきたのは、太陽光でも発電できるスマホ用充電器、USBケーブルが二本、ハンカチ、ポケットティッシュ、水2リットル、着替えが一着、電池、絆創膏、軍手、レインコート、防災頭巾、懐中電灯、ガス式ライターとそれ用のガスボンベが出てきた。そして、リュックサックの奥に箱のようなものがあったのでなんだ?と思って取り出したら、昔買って忘れていた、ガス式のエアーガンが出てきた。僕は、こっそりリュックの中にしまおうと思ったが、ビーンは見てしまっていた。
「なんだその変なやつ、アンドリューの持ってた拳銃に似ているような...」
僕は、どうしようか迷った。
「あ~、これはおもちゃですよ。小さな丸い球をこれから発射して、相手にあてたほうが勝ちという遊びがありまして、特に使えそうになさそうですからこれはしまっときますね」
僕は、何とか理由をつけてガスガンをしまった。
(あぶねー、これはおもちゃと言っても、かなりリアルに作られてるからなぁ改造したらそれこそ、軍事技術の発展につながりかねない、これはしまっておこう)
ビーンを見たら、今度は懐中電灯に夢中になっていた。よかった。
「この灯り、滅茶苦茶明るいな、どんな電球使ってんだ?」
僕はビーンにLEDについて説明した。
しばらくリュックの中身を見ていたらいつの間にか時計が正午を指していた。
「食堂車行こうぜ、もうやってるはずだしな」
ビーンが先導して、食堂車に向かった。車両を二つ越したら食堂車があった。
「俺たちは、一等車だからかなりいいものを、只で食べれれるんだぜ」
ビーンが、嬉しそうに切符を待ち受けに居た人に見せた。
「はい、こちらのテーブルでお待ちください」
ウェイター服を着た人に僕たちは案内された。机には、ナイフとフォークが置かれている。ビーンは、「ただ飯 ただ飯」
と歌っている。(多分、切符代にここの料理分も入ってるからだろうな。これはスチュワートさんの奢りだと思いますと言ったらビーンさんはどんな反応するかなぁ?)
と僕は思った。しばらくしたら、ウェイターが皿を持ってきた。皿には本格的なフレンチレストランの様に、前菜のようなものから運ばれてきた。
僕はその時気が付いた。僕は、ダストに目をやった。彼女は案の定、ナイフとフォークを手に持ったまま頭に?を浮かべてキョロキョロしていた。
「あ~、っとダストさん?、マナーは僕も全然わからないんだけど、コレの使い方はこうやるんだよ...あれ?前菜ってナイフとフォークって両方使ったっけ...」
僕も曖昧だ。
とりあえず僕は、フォークを使って、前菜を口にした。滅茶苦茶おいしい。ダストもぎこちない手つきで食べ始めた。彼女は目を真ん丸にした。
ビーンさんのほうを見たら、優雅に食事をしていた。鎧を着たままなのにその姿はまるで、タキシードに身を包んでいるように見えた。僕も彼女もポカンとしていた。ビーンは僕たちがポカンとしているのに気付いた。
「なぁに、別にここじゃあ礼儀作法はそんなにいらねぇよ普通に食べればいいぜ。俺は昔から訓練でこういう場合の礼儀作法が教え込まれてんだ。気にすんなって」
ビーンは、にっこりした。
「は、はぁ...じゃあいただきます」
僕たちは食べ続けた。食事がどんどん運ばれてくる。どれも、今まで食べたことない程の美味しさだった。たびたび視界にビーンが写る。それを見るたびに、まるで貴族と庶民が一緒に食事をしているように感じて緊張した。
ダストもそう感じているようで、頑張って礼儀正しく食べようと僕たちは必死だった。
「ふぅ、ご馳走様」
ビーンが食べ終わった。僕達も食べ終わった。だが、ビーンと僕達では纏っているオーラが違った。ビーンは光り輝いているように見えた。
「よし、じゃあ部屋戻るぞ」
ビーンはいつもの軽い感じに戻った。僕達は客室に戻った。
「あと三時間ぐらいで着くらしいぜ、俺はちと昼寝するわ」
ビーンはイスに横になった。僕は窓を見つめた。景色が流れていく。僕は少し考え事をしていた。
(ここに来てから僕は、何か変だ。僕はどちらかと言えば根暗な奴だ。なのに、なんでこんなに行動力が沸き起こるんだ?考えることも、ポジティブに考えていることのほうが多い。急な環境の変化で対応しようと心の内で思っているからか?それに、アンドリューの一軒で余計に訳が分からなくなった。あの時の僕の行動、思い出すとまるで何かの主人公みたいじゃないか。それで上手く事が回った。予言っていうのは、もしかして本当に僕が勇者になって、この世界を救う事なのか?だとしたら、僕はこの後、ゼロを倒すということになるのか?僕は、そうならないために今向かっているのに?分からない、全てが分からない、決められた運命ってこんなに腹が立つものなのか?)
僕の考え事は、徐々に怒りへと変わった。そんなとき服が引っ張られた。気づくとダストが僕をじっと見ていた。
「おこ...て.る?」
彼女は心配そうに、僕を見つめる。僕は何とか笑顔を作った。
「いや、大丈夫。ところでどうしたの?」
僕は、彼女が何か言いたそうにしていたので聞いてみた。
「きのう」
ボソッと彼女が言った。
「きのう?」
僕は聞き返した。
「あり..が.と たす..けてく...れて、れい..いって..なか.た」
彼女は、昨日の出来事の礼を言っていた。
「いいよ、君が殺されるのは防げたしね」
「でも...わた.し。死ぬ...つもり..だた、でも...やめ.た。レイの、おか.げ」
彼女は、また僕に礼を言った。
「あぁ、自殺を防げたのは、ほんと偶然だったからね。礼なんかいらないよ、君が無事でよかったよ
「わたし、たす..け.る」
彼女は、唐突に言い出した。僕は、何のことが分からなかった。
「レイ、なやん...でる から..たす.け.る」
彼女の言葉で、僕はひどい顔をしていたのだと知った。
「ごめん!僕そんなにひどい目してた?」
僕は、彼女に尋ねると彼女は、コクッと頷いた。
「じゃあ、うた..う?」
彼女は、また唐突に言った。そして彼女は、僕が教えた歌を、歌いだした。まだ下手だが大分声が出ているようになった。僕はある事を思い出した。
(歌は、気分を良くする、か。よーし、じゃあやるか!)
僕は歌いだした。
「なんだ?」
ビーンが起きた。僕達はお構いなしに歌った。僕は笑った。彼女は相変わらずの無表情だがうれしそうだ。
ビーンは、何が何だか分からない様子だ。今までの悩みはどうでもよくなった。
(もういいや、今後どうなるかんてわかんないんだし、今悩んでも仕方ない。今は、笑顔で生きることを目指そう)
だが、ビーンの次の言葉で、僕は驚愕した。
「どういうことだ?ダストは、喋れてなかったのに、急に声を出してるなんて。俺は、夢でも見てんのか?」