第1章 12話 異世界の英雄
「さぁてと、まずこの事件について洗いざらい吐いてもらうぜぇ。俺に隠し事してもバレるから、気ぃ付けな」
スチュワートは、二っと笑って男たちに質問した。
「わ、我らは、緊急を要する程に危険な人物がいると言われて、排除を区長から直接頼まれただけだ。そしてその子供をばれないように、その異世界の男ごと殺せと言われた。驚いたが、区長は緊急事態だから急げと言って。火事を起こすのを提案してきた。我らはそのまま行動しただけだ」
男の一人が答えた。
「ふ~ん、あんさん方どう思うよ」
スチュワートは男の答えを聞いたと思うとこっちに振ってきた。
「この人たちは、確かに急に呼ばれた人たちって感じはしますね。この人たちはただあのアンドリューさんの後ろについてきたとこしか見ていない、自分で何か行動をしているといったとこは見ていません。それにこの人たちは、今までに人殺しなんてしたことはありませんってそんな顔をしています。大方、アンドリューさんに脅されたかなんかで、仕方なく仕事を引き受けた口じゃないんですかね。第一人を殺すにしては、存在感というか気迫がなさすぎる」
僕は答えた。男たちはショックを受けているような反応を見せた。
「ほぉ、あんさん中々に鋭い感性持ってんなぁ。俺も、こいつらの話を聞いた限りじゃあんたと同じ答えだ。こいつらからは、情報はこれ以上引き出せねぇだろうな。で、こいつらはどうすんだ?刑務所にぶち込むか?」
スチュワートは僕に質問した。
「そうですね、あくまでも殺人未遂、それに放火もしてますから、警察には突き出すべきでしょうね」
男たちは、そろって肩を落とした。
「そうだな、そいつが一番いいだろう。だけどよぉこんな火事だってのに警察も消防も見当たらねぇんだよなぁ」
その言葉で僕は、ハッと気づいた。火事が起こってからすでに二十分以上時間がたっている。にもかかわらず、放水はおろか、サイレンも何も聞こえない。
「まさかとは思いますけど、消防がここに来れない理由って、火の元が消防署付近なんてことはないですよね」
スチュワートのほうを見たら、大きくうなずいた。
「この町は、消防署と警察は隣り合わせに作ってあってな。そして火事が起きたのは、昼の休憩時間中。署の中には人がいねぇ。全員、離れの食堂に行ってた。そんで休憩中の奴らは避難してきちまった。腰抜けだよなぁ。だから今は、火を消せるのは誰も居ない」
スチュワートは、キリッと断言した。
「ダメじゃん!あー、どうすんのこれっ!こんなでっかい火事、僕の水の魔法を使ってもここまでは無理だって!あっそうだ!ここに水の魔法使える人はいますか!?」
僕は呼びかけたが、周りは動揺するだけで、返事を返す人は一人もいなかった。
「あーっどうしよう。携帯なんかないって言ってたし、公衆電話もなさそうだし~!」
僕が頭を抱えて悩んでいたら、服の裾がツンツンと引っ張られた。僕は、引っ張られたほうを見たら、ダストが何かを言いたそうに僕を見ていた。
「どうしたの?何かいい方法でも?」
彼女は頷き、か細い声で言った
「ひ...けす..」
彼女は、僕の前に出て、袖の長いコートをブラブラさせながら両手を前に出した。その次の瞬間、あたり一帯をとてつもない冷気が襲った。吐く息が白くなるくらいに、気温も下がり、手も顔も寒さで痛くなってきた。
「さむっ!」
僕は震えながら、周りを見渡した。そこは、さっきまでとは別の世界になっていた。彼女より前方にある地面や建物は真っ白に凍り付いた。一面が銀世界となっていた。炎の赤さはもういない。あるのは、白色だけだった。
「やり...すぎた?」
彼女は、僕に聞いてきた。僕は茫然としていた。周りがざわつき始めた。
「今のって、ダストの奴がやったのか?」「冷え~」「まさか、俺たちのために?」「あいつが、火を消したのか?」こういった住人の言葉が聞こえてきた。
「すんげぇな、嬢ちゃん。あんたのおかげでこれ以上、燃え広がらずに済んだ。ほれ、てめぇら、拍手でも送ってやんな」
スチュワートがいきなり、拍手しだした。それにつられて、周りの住人達も少しづつ拍手を始めた。
「すげぇな」「ありがとう」いつしか拍手は喝采になり、彼女を称賛する声が一気に上がった。
(うわ~、ついさっきまで毛嫌いしてたのに、なんて手のひら返しだ)と僕は思ったが、中には謝りだして、泣き出し始めている人もでてきていた。これを見て、まぁいいかと思った。僕は彼女に目をやった。彼女は口をポカンと開けている。彼女はいきなりビクッとして、また僕の後ろに回り込んだ。ここで僕は気づいた。
(まさかスチュワートさん、この火事をいいことに、ダストにこんなことを?だとしたら、なんて人だ)
僕は、スチュワートのいるほうへ目をやろうとしたら、すでに目の前にいた。
「わりぃな、嬢ちゃん。今まで気づいてやれなくてよぉ」
スチュワートは、いきなりしゃがんで謝りだした。と思ったら急に立ち上がり、僕のほうを見た。
「にしてもあんさんよぉ、良く嬢ちゃんの命がやべぇって気づけたんだ?」
スチュワートは不思議そうな顔で僕に言った。
「いや、最初に彼女を見つけたとき、彼女は今にも自殺してしまいそうなそんな顔をしてました」
この言葉を話したとき、僕の脳裏に疑問が生まれていた。
(あれ?なんで?僕はいつから人の目を見ただけで、相手の心の内がわかるようになったんだ?それに、見知らぬ人に自分から話しかけるなんてありえなかったのに、コミュ障だったのに何故だ?でも、気づけるようになったんなら、まぁいっか)
僕の中で生まれた疑問に、強引に答えを出した。僕は話をつづけた。
「そこで、彼女を止めようとして追いかけたら、いつの間にかこんなことになってたんですよ」
僕はこれまでの事を簡単に説明した。
「へぇ~。嬢ちゃんが自殺まで追い込まれていたなんてねぇ。何か悩んでのかな?とは感じたことはあったんだが、それ以上は全然気づけなかった。あんさん、すんげぇな。あんたがここに来なかったら、嬢ちゃんが死んで、住民はそれに喜んで、アンドリューの奴はまた同じことを続けてただろうな。さすがは、予言の勇者様ってか?」
僕はいきなり褒められて、少し顔が熱くなり、何も言えなくなった。
「にしてもビーン。あんたは、この町の警備も担当だろうが。てか、避難が完了したんなら、真っ先に消火に移れよなぁ」
僕はビーンのほうをふと見たら、カチコチに固まって、敬礼して声を裏返しながら、大きな声で言葉を発した。
「申し訳ありません!この度、不測の事態が立て続けに起こり自分自身の行動だけで精一杯になってしまいました!以後、これ以上の事態が起きたとしても、この事件を教訓に適切に、臨機応変に対応してまいります!」
僕は、ビーンが今までにない反応をしていたから、顔が引きつった。
「敬礼はいいって。ま、これからはちゃんとやんな。ところでよぉあんさん方、国王に会ってみたらどうだ?全部の魔法が使えるあんさんに、とてつもねぇ威力の氷を使う嬢ちゃん。国としたら、喉から手が出そうなほどに人材だかんな。平和にのんきに暮らしてぇんならそこに行くことを勧めるぜぇ。またアンドリューみてぇなやつに、狙われる心配もなくなるしな。なぁに、国王には俺から言っておいてやるかんな。国王のじじぃとは、まだ電話でよく話すしよぉ」
スチュワートの勧めに僕は、呆然とした。
「あの、僕にとっては、願ったり叶ったりですけど、彼女はどうするんです?」
「そりゃ嬢ちゃんが決めることだかんなぁ、聞いてみ?」
僕の質問にスチュワートはすぐに返した。
「君は、どうする?ついてくる?」
僕は、しゃがみ彼女に聞いた。彼女はすぐに頷いた。
「決まりだな。よし、中央地区までの切符は買ってきてやっから、そこからは~っと...ビーン。案内してやれ」
急にビーンに振られたことで、慌ててビーンが反応した。
「俺かよ!...あっ」その一言でスチュワートは、ニヤッと笑った。
「文句あんのなら聞くけどなぁ」
「もももっ申し訳ありましぇん!文句ないでしゅ!へい!やります!はい!」
「ならよし」僕は、ビーンに何かツッコんでみようかと思ったが、かわいそうだからやめた。