第1章 11話 異世界の異能力
僕は、左脇腹の痛みに耐えられず、その場に倒れこんだ。ビーンとダストが僕のほうに走ってくるのが見えた。
「おいっ!大丈夫か!」
ビーンがいつもの軽いノリをせず、真剣な顔で僕に言った。僕は顔を上げて、
「はい。何とか大丈夫そうです」
と言って立ち上がろうとしたがビーンは、これを制止した。
「無理するなって、お前腹に穴空いてんだぜ、とりあえず医者を呼ぶかんな!」
ビーンが人を探しに行こうとしたのを僕は止めた。
「ちょっと待ってくださいビーンさん、それよりもそこに倒れている人たちを拘束してください。僕はもう大丈夫です」
僕はゆっくり立ち上がり、怪我のしているところに、精神を集中させた。
(ここに来たときは、もっと酷い怪我だった。だったら治せるはず!)僕は、僕にそう言い聞かせた。すると、大量にあふれ出てくる熱い血が徐々に少なくなっていった。十秒もすると、傷口は完全にふさがった。
「やはり、出来ましたね」
僕は、周りに笑顔で言った。すると、ビーンはおろか駆け寄ってきたダストも、立ち尽くして周りの民衆も口をあんぐり開けて僕を見ていた。
「えっ?どうしたんですか?この世界には回復の魔法もあるんですよね?」
僕が質問したら、ビーンが慌てた顔して僕に言った。
「いや 回復の魔法はあるけどよ、軽い擦り傷を治す程度のもので、空いた穴をふさいだりするような魔法じゃないんだぜ?しかも数秒で治せるなんて聞いたこともなねぇ。それにさっきあんた当たり前のように足から風の魔法出してたけどよ、そんなん出来んの国王の護衛できるあたりの芸当だぜ?基本魔法は手からしか出せねぇ、ほんとあんた何者なんだ?」
僕はあたりを見渡すと、僕に対する視線は恐怖交じりになっていた。
「う~ん、何者って言われても僕自身も訳が分からないんですよ。さっきからやってる魔法も、なんとなくでやったらなんかできたって感じですし、第一なんで僕がこの世界にいるのかもわからない。ただ自分の正義感について行ったらこうなってたってだけです。聞きたいのは僕のほうなんですよね。僕は何者なんですかね?」
僕が逆に聞き返したら、ビーンが肩を落とした。
「はぁ...質問を質問で返すなよな。とりあえずあんたのことで分かったのは、敵ではなさそうってことぐらいだ。あとは知らねぇ」
ビーンが頭を掻いていた。僕は、アンドリューの走っていったほうに目をやった。そこで奇妙なものを見つけた。近づいてみると、それはフリントロックピストルのようなものだった。
「ビーンさんこれって...」
僕は、ビーンに尋ねた。
「こいつぁ、拳銃じゃねぇか。なんでこんなものを持ってるんだあいつは?こいつはまだ、試作の域を出てねぇ最新の武器だぜ?」
ビーンが、不思議そうに見ていた。
「これが、最新?」僕は驚いてつぶやいた。
「あぁ、弓矢に代わる武器として、最近研究されていたんだ。持ち運びに便利で、なおかつ素早く放つことができる遠距離武器としてな。それで試作で作られたのがこいつ、だけど、小さくて持ち運びには便利だが、それとは別に湿気らないように火薬を持たなきゃいけねぇし、弾を込めるのに時間がかかる。それに、遠距離だと命中精度はすげぇ落ちる。中距離くらいで、一人相手にしか使えない代物なんだよな。あれ、どうした?」
僕は、ポカンとしていた。ビーンに言われて、我に返った。
「いや、ここまで町が発達しているのに、まだ拳銃が作られていないなんて...」
僕は、驚きと少し安心を覚えた。
「どういうこった?」
ビーンは、頭に?を浮かべている。僕は、説明しようかと思ったが辞めた。
(軍事技術が発達していないのなら、伝えないに越したことは無いな)僕は、そう思った。
「いや、すいません気にしないでください」僕が言うと。「あっそう」と、ビーンが特に関心もなく流してくれた。
「それよりも早く、その倒れている人達を拘束して...あっ」
僕が倒した人達の方を見たら、既に ロープで縛られていた。
「敵からは目を離すなって教えといたはずなんだがなぁ、ビーン?そこの異世界のあんさんのほうが、ほとんど目を離してなかったってのによぉ」
そこには、ボロい作業服を着た、白髪交じりの男性が襲ってきた残り三人をまとめて電柱に縛り付けていた。ビーンはその人を見ると、急に冷や汗を出し慌てて敬礼しだした。
「もっ、申し訳ありません!以後、異常事態が起きようと、敵から目を離すようなことは、一切いたしません!」
僕は、唖然としてビーンを見つめた。
「別に、敬礼なんかする必要はねぇよ。俺ぁ、只の工場作業員なんだからよぉ。で、あんさんが最近噂の異世界の勇者なのかい?」
男は、僕にそう尋ねてきた。
「は、はい、勇者って器ではありませんが、日本から来たことは確かです。あの、あなたは?」
僕は男に質問した。
「おっと、こりゃ失敬、俺ぁスチュワートってんだ。元、国王護衛部隊の隊長、今は、只の工場作業員のおっさんだ」
それを聞いて、僕は自己紹介した。
「はぁ、僕は、三上 礼です。ここに飛ばされる前は、町工場で働いてました。」
そこで僕は、ハッと気が付いた。(この人今、国王の護衛部隊の隊長って言わなかったか?...ということは、ビーンさんの上司って事か...やばい、今、結構失礼な態度で返事しなかったか?、僕...)
「別にかしこまる必要はねぇよ、俺ぁあんまりそういうのは好きじゃねぇからなぁ」
僕は、驚いた。そして心の中でこう思った。(かしこまられるのが嫌いなら、そこまで自己紹介する必要ないんじゃないかな?)その次の瞬間、僕はまた驚いた。
「俺ぁ、隠し事も嫌いでな、基本自己紹介するときは、全部言うようにしている。だからよくカチコチになってあいさつされる。困ったもんだよなぁ」
スチュワートは、薄っすらと笑った。(この人、読心術でも使えるのか?言ってもいないのに僕の考えに正確に答えを出してくる)僕はそう思って、先に質問しようとしたが、
「うっ...」縛っていた男たちが目を覚ました。
「質問は後で聞く。とりあえずこいつらの尋問が先だなぁ」
スチュワートは、口角をニィッとあげて笑った。(ビーンさんがあんな反応した理由が分かった気がする。この人怖い)