第2章 中央決着編 15話 全ては平和の為に。
なんてこった...これは必然か?偶然か?前に会った人魚にまた再会した。
「まさかこんな形で再開する事になるなんて思わなかったのですよ!」
「いや~、俺もまさかッスよ。でもあなたたちが本当に彼らに対抗する手段なんスか?」
俺の質問でシレンは真剣な眼差しになった。
「はい、そうなのですよ。一年前の事、私たちの住まう国に一人の人間がやって来たのです。そのお方が私たちにこの世界の真実を教えて下さいました。彼らと呼ばれる存在の事。そして、私たち人魚を長年苦しめてきたクラーケンの正体。クラーケンはバケモノと呼ばれる存在で、それを操るのは彼らみたいなのですよ。私たちはそれを聞きその人間と手を組む事にしたのです。彼らは私たち人魚が存在するという事は知らないようなのですよ」
「その...人間ってまさか、三上?」
「はい!そうなのです!お知り合いなのですか?あの方が言っていた世界を救うものって言うのはあなたたちだったのですね!」
三上の野郎、ここまで手を打っていたなんてな。彼らの知らない存在。確かにあいつらに立ち向かえるのかもしれない...って、あれ?
俺は普通に会話していたが、他の全員が固まっていた。
「に...人魚でござる...」
「えっと...夢じゃないですよね?人魚さんですよね」
「ほへぇ~~」
あ、そうか、みんなは会うの初めてなんだよな。そりゃそういう反応になるわな。
「あっ!申し訳ないのです!私の名前はシレンです。よろしくなのですよ。そしてこのおかっぱ...じゃなくて、この方は私たちの国の姫のワダツミです!」
「いま...おかっぱって言おうとした。まぁいい、わたしはワダツミ、今、この瞬間を待ってた。桜蘭、零羅、弾、グレイシア、そしてエルメス。あなたたち五人はこれからそれぞれ更なる戦いの中に入っていく。それでも闘う?決めるのはあなたたち次第...」
相変わらずの意味深な様な発言だ。だけど俺はもう決めたからね。
「俺は闘うッス。どんなに辛くなっても、三上の決めた意志に比べたら簡単な事ッス。俺は三上の意志を継ぐ。俺達の世界もこの世界も、あいつ等の好きにはさせたくないんス」
「それは、わたしたちも同じです。別の世界を只の実験場と考えてる彼らは許せませんよね」
みんなの意志は一つだ。俺たちの闘いはこれから始まる。それを覚悟している。グレイシアも、エルメスも、あれ?エルメス?
「ほぇ~~~~~~...」
俺がエルメスに視線を向けた時、エルメスはまるで上の空の様だった。なんだか酔っ払いみたいな感じでぽや~んとしてる。頭に花が咲いたみたいだ。
「あ...」
グレイシアが何かを忘れていたように声をこぼした。
「エルメスに耳栓渡すの忘れてた...」
「へぇあっ!?」
シレンがびっくりして水面から飛び上がった。
「だ...だだ大丈夫なのですか!?」
「グレイシア...やっちゃったね...」
シレンはあたふたしている。エルメスは立ち上がってフラフラと歩きだした。
「な、どうしたのでござるか?エルメス殿?」
麗沢の質問にワダツミが表情一つ変えずに答えた
「人魚の声はこの世界の人間に催眠効果をもたらす。中でもシレンの声は男女問わず魅了して骨抜きにする。そしてその声を聴いたものは海に吸い寄せられて死ぬ」
とんでもない事を平然と述べる。
「君たちは覚醒してるから、この声は効かない。グレイシアは耳栓をしてたから効果はなかった。だけど、エルメスはしてなかったからこうなった」
「えっと、どうすりゃいいんスか?」
俺の質問にワダツミはしばらく黙って、首を横に傾げただけだった。
「対策なし!?」
「そうなのですよぉー!!どうしましょうー!!」
駄目だ、当の本人のシレンが完全に混乱している。えーーっと、だったら...そうだ!
俺はフラフラと歩くエルメスに後ろからこっそりと近づいた。そして首の後ろに当身だ。
「桜蘭、殺す勢いでやった方が良いかもね。多分」
近くでワダツミが自信を無くさせる助言をしてくれた。どうも!
俺はいっそのこと強烈な一撃をと思って壊れた銃を取り出し、マガジンを抜き、そしてそれを手に持ち電気を溜めた。
「ふん!!」
今にも海に落ちそうなエルメスに俺は電撃を纏った当て身をかました。
「ふぇあっ!」
情けない声を出してエルメスはその場に倒れた。そのままだと海に落ちそうだったのでなんとか受け止めた。
「な~いす。それが正解みたいだった。主人公補正は伊達じゃない」
何を言ってるんだ?ワダツミは...まぁいいや、俺はエルメスに耳栓をして再び会話を再開した。
「はぁ~~~...一時はどうなるかと思ったのですよぉ...グレイシアさん忘れないで下さいよ~、てっきりみんなつけてるものかと思ってたのです...」
「ごめん...他事考えてたら、忘れてた。結構重要な事だとは知らなくて...」
「まぁいいのです、それでは気を取り直して行きましょうか」
シレンが壁に向かって指さした。
「行くってどこにッスか?」
「私たちの国です!ここは入り口なのですよ!!では、オープンセサミー」
シレンの昔懐かしの掛け声で地面が揺れ始めた。そして、岩が徐々に下に下がっていった。
「では、ようこそ私たちの国!海底王国、アトランティスへ!」
そこには珊瑚や貝などで出来た建物が建ち並び、いろんな人魚や魚たちが行きかっている。少し先に巨大な城のようなものが見える。そこまではガラスのトンネルで繋がっていた。
「このトンネル、人間たちとの交流も考えて造ってみたのです。では私たちはあの城で待っていますので、まっすぐ行けば着きます!詳しい事はそこでお話ししましょう!国王陛下が待っておられるのです。それでは!」
シレンはワダツミを連れて海に洞窟の海に入った。さてと、俺たちはこの通路から行きますか。
俺はエルメスを担いでトンネルを歩く。海の中を泳いでいた人魚は興味津々でこちらを見ていた。
「見て!人間だよ!」「あれが地上の我らか...」「人魚の『魚』は分かるけど『間』ってなんなの?」
様々な声が聞こえてくる。なんだか有名人になった気分だ。
しばらく進んで大きな門の前に着いた。ガラスの外にシレンがいて扉を開けた。
「陛下ー!お連れしましたー!」
扉がゆっくりと開いた。扉の奥にはドーム状の広間がありその外側の正面に大きな椅子にひげを携え、体つきの良い貫録のある人魚が座っていた。
「ご紹介します!彼らは世界を救う、この世界で戦う者たちです!」
「ど...どうもッス」
「そしてこちらにおられるのが我らの王、トリトン陛下であらせられます!」
シレンの紹介した人物、今、トリトンって言った?あれって...確か神話かなんかの...
「と...トリトン!?神話に出てくるあのトリトンでござるか!?」
麗沢の眼鏡が輝いている。そういえばこいつファンタジーも大好きだっけ。
「あれ?ご存知なのですか?」
「初めまして諸君、儂の名はトリトン、君たちの事はミカミ君から話は聞いておる。ここまでの旅、ご苦労であった、しばしの休息ではあるが、ゆっくり休んでいくとよい。この国はそなたらを歓迎しよう」
威厳のありそうな姿とは裏腹に、トリトンは優しい声で俺たちに語りかけた。
「しかし、ミカミ君はどうしたのかね?彼も一緒なのでは?」
トリトンの質問、そうか。三上は自分が死ぬことを伝えていなかったのか。俺たちが全てを伝えろって事か...
俺はトリトンにこれまでの事を全て話した。
「そ...そうであったか。彼らしいのぉ、決して誰にも本心を悟られないように常に笑顔で振る舞う。実に彼らしい事じゃ...いつか手向けの花を持っていかねばな...冥福を...」
トリトンは手を合わせて合掌した。
「話は変わりますけど、俺たちこれからどうしたらいいんスか?ここには彼らに対抗する手段があるって...」
「そうであったの、我々人魚は彼らにはまだ知られていない存在じゃ。我々としても彼らに対抗する軍は揃えておる。しかし、それでも我々は海の生物、地上では戦えぬのじゃ。この場所はそなたらを彼らから匿う為に造った。そして彼らは君たちを追う手段を失ってしまったはずじゃ。
そなたらが彼らに対抗するにはそなたら自身が戦うしか手はないのじゃ、済まんのぉ、力添えはこの程度しか出来んのじゃ」
いや、十分だ。俺たちの世界の事は俺たちが片付けなければいけない。あとは、自分で考えるしかないんだ。俺たちがやるべきことを。
「あなたたちはこれから、それぞれ別れる事になる...それぞれがそれぞれの道を行く...」
いつの間にか目の前にワダツミがいた。
「ワダツミよ...また見えたのか?」
トリトンが心配そうにワダツミに聞いていた。見える?何を?
「見えたとは、どういう事なのですか?」
零羅は不思議そうに尋ねた。
「姫は少しではあるのですが、未来を予知する能力があるのですよ。今のは多分あなたたちはこれから分かれて行動することになるって事だと思われるのですよ」
なるほどね、アオシラでのあの言葉、壱を創った先には苦悩があるってのはこれからの戦いの事だったのか。やっとわかった。
「うーむ、まずやる事と言えばジョシュ殿でござるか?拙者たちには彼らの手掛かりはそれ位しかないでござるからなぁ」
麗沢は案外切り替えが早い。こいつの取り柄の一つだ。
「そうですね。それが一番いいでしょう!」
零羅も乗り気だ。確かにそれが一番いいかもな。でも
「だけど俺と麗沢には武器はないッス。彼らに対抗するには武器がなきゃ始まらないッスよね」
俺はセブンスイーグルの効果があってようやく魔法が上手く操れた。覚醒した今でもそんな感じだ、俺にはあれが必要だ。麗沢もあのフライパンを無くしたみたいだし。武器を持っているのは零羅の炎神だけだ。
よし、まずは武器を調達だな。そこから先はジョシュとの接触。あいつを押さえれば...
「それだけではダメ...」
ワダツミが横槍を入れた。
「ダメって?」
「あなたたちはここで別れる。一つは彼らを探す。一つは仲間を探す。あなたたちだけでも、あの国の人間だけでも、彼らには勝てない。仲間がいる。それは桜蘭、君にしか出来ない」
俺にしか出来ない?俺が少し考えていたらエルメスがめを覚ました。
「あ、あれ?私は一体何してた?って此処どこぉ!?」
混乱しているエルメスに一通り説明した。まだ混乱しているがまぁ、なんとか納得した感じだ。
「にしても、俺にしかできないって、動物たちの事ッスか?」
「君の力は彼らにとってもかなり強力な力に入る。君は動物たちの支配者。君の命令は何でも聞く。だけどそれでも彼らの力は上にいる...だから君は探さなければいけない。この世界の力で生まれた存在。自然を司どる四精霊、炎のサラマンダー、水のウンディーネ、地のノーム、風のシルフ」
「よ、四精霊!?あれって大昔に滅んだって聞いたけど!?」
エルメスが驚いてワダツミに詰め寄っている。というか、この世界に昔いたのかよ。
「あの子たちは消えてない、隠れているだけ。海はクラーケンに支配されている。空も彼らに支配されている。だからあの子たちは姿を隠した。それを呼び覚ますことが出来るのは桜蘭だけ...」
四精霊って動物なのか...だけど、サラマンダーって見てみたいな。それを俺が操れるって、凄くないか!?
「となると、二手に分かれる事になるでござるな。ジョシュを追う者と先輩と四精霊を探す者...」
「いや、それだけでも駄目だ。三つに分かれる。話は大方分かったよ。私は中央に行く。そこで全ての真実を国民に伝えようと思う。国は混乱するけど、これは私たちの世界の問題でもある。それに今は王がいない状況だ。世界を支える柱がいないのはまずいんじゃないか?」
そこまで考えていなかった。三上がいないという事はこの世界の支配下が全くいない状況だ。
「エルメス...それが正しいのかは分からないけど、自分を信じるのは大切。君ならきっと出来るよ」
ワダツミ、なんか俺の時と助言の感じが違くないか?
「そうと決まれば、誰が行くか...じゃな」
俺は仲間を探しに行く。エルメスは中央か...三手に分かれるとなると、誰かは一人で行かなければいけないんだよな。
「私は...ジョシュを追う...私は彼らを許さない」
グレイシアはジョシュを追う、それが一番か?少し心配だ。今の彼女は冷静か?
「拙者はグレイシア殿と行った方が良いのか...先輩か、エルメス殿か...」
グレイシアは強いが、エルメスがもし彼らに見つかったら一人ではヤバいよな...そうだ!
「麗沢!エルメスと行ってくれないッスか?武器なしだと俺は足手まといにしかならない!お前なら戦えるはずだ。それに中央には三上の流血光刃がある!あの武器はかなり強い!」
そうだよ、三上の武器があるじゃないか。そんでもって
「と、言うわけで零羅さん、俺の護衛お願いします...」
俺は情けなく頭を下げた。この組み合わせが一番いいかもしれない。この中で一番弱いのは多分俺だ。武器があって初めてあそこまで戦えた。悔しいが、それが事実だ。だからこの組み合わせを提案した。本当ならグレイシアと零羅を行かせたいが...
「それで行こう...私は一人でいい。心配しなくてももう落ち着いた。復讐心ではレイの意志は継げない...」
グレイシアの目に気合が入っている。これならよさそうだ。ここに来て自分を見つめなおせたみたいだ。
「そうですか...では、よろしくお願いいたします。桜蘭さん」
「決まったようじゃな。じゃが今日は疲れたであろう。ゆっくりと休み、疲れをとったら歩き出せばよい。困ったら戻ってきても良いのじゃ。我々の闘いはまだそなたらの援助しか出来ぬが、いつか共に戦おう。『全ては平和の為に』というやつじゃ!」
俺たちはそれぞれ部屋に案内された。シャワー等もしっかりと完備された客室だ。俺はシャワーを浴びてベッドに横になった
俺はその後すぐに寝た...
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さぁ、新たな出発の時だ。身支度を整える、そして新たに覚悟を決める。
俺はトンネルの中を歩いていた。グレイシアが一人で広間に佇んでいる。
「もう行くんスか?もう少し休んでってもいいって言ってたッスよ?」
「うん、居ても立っても居られない」
「そうッスか...俺もッス!」
そんな話をしていたらみんな同じだったらしい。俺たち全員がここに集まった。
「みんなも行くんスね」
「あぁ、桜蘭、どうか気をつけてな」
「エルメスも。じゃあ、行きますか!地上への隠し通路がこの先にあるんスよね」
昨日、トリトンに教えてもらった隠し通路。アオシラの海岸近くの岩場に出るらしい。
「お!そうだ、最後に円陣でも組むでござるか!掛け声は『全ては平和の為に!』で!」
いいかもな麗沢、これからバラバラになるんだ。それぞれの目的の為に。
「いいですね!」
「じゃあ、みんな!右手を前に出して、いくッスよ!」
みんな手を前に出した。
「あ!私と姫もやらしていただきたいのですが!」
近くに開いていた穴からシレンとワダツミがひょこっと顔を出した。闘うのは人魚たちもだもんな。みんな一斉に手を重ねあった。
「俺たちはこれから新たな闘いに身を投じる!!敵は強大!生半可な覚悟じゃやられるッス!!みんな、生きてまた全員で会おうよ!!そしてみんなで心の底から笑いあおう!!
『全ては平和の為に!!!!』」
俺たちは前に出してた手を上に掲げ、それぞれの向かう方向へ走り出した。
平和を願いし者たちの闘いは...今、幕を上げた。