第2章 中央決着編 10話 僕は君の隣にいることは出来ないけど、君の中にいることは出来る。
『バン!!』
後ろでドアが勢いよく開いた。グレイシアだ。
「倒した...の?」
「あぁ...殺したッス」
「そう...」
グレイシアはそれ以降黙ったまま、三上に近づいてジッと眺めていた。
「サクラ...ありがとう...」
「いや、本当なら、俺はあなたに謝らなきゃいけないはずッス。あなたは三上を救いたかった。でも俺に出来たのは結局、俺自身の目的に為に三上を殺した。それだけッス」
グレイシアは俺の方を見て首を横に振った。
「それは違う。レイを殺す事、レイが殺されることが一番の救いだった。レイはもう...助からなかったのだから...」
俺はグレイシアの言っていることが分からない。助からなかったってどういう事だ?
俺が考え始めた直後、後を追って麗沢たちが来た。
「先輩...三上殿を、倒したのでござるな...先輩を信じてよかったでござる~」
「それでも、一人で三上さんを倒すなんて...」
「これで...終わったのか?」
みんなそれぞれ思っていることを口にした。そうだよな...終わったんだ。全部...分からないことが多いけど、丸く収まったんだ。
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「いや...終わってない。全てはここから始まる...」
グレイシアが突然、周りに水を差すかの様に呟いた。
「みんな...私と来て!」
グレイシアはなんだか慌てた様子だ。
「ど...どうしたの?グレイシア?」
「何事でござるか!?」
「グレイシアさん?一体どこに行くのですか?」
みんなも突然の事でよく分かっていない。俺もそうだ。終わってない?
俺の中でいやな予感が生まれた。
「私も知らない、全ての真実を知りに行く。レイサワ、ちょっと来て」
グレイシアは麗沢を呼んだと思ったら屋上にあったダストシュートにポイッと投げ込んだ。
「NOOOOO...」
麗沢は情けない声を上げて下に落ちていった。
「時間がないから...みんなも早く!大丈夫、下にクッションはあるから!」
グレイシアはすごく急かしている。
「よ...よく分かりませんが、あなたを信じます」
零羅も飛び降りた。
「真実...訳はあとでしっかり聞くからね」
エルメスも少しグレイシアを睨んで滑っていった。
「サクラも!」
グレイシアはどうやらかなり急いでいるみたいだ、早く行かないとな。そう考え動こうとしたが、俺は一歩歩いた瞬間めまいがしてその場に倒れた。
動けない。全く、さっきの戦いのせいか...意識はまだあるけど、駄目だ。今度こそ力が入らない。
「サクラ...ちょっとゴメン」
グレイシアは俺をひょいと持ち上げ脇に抱えあげられたと思ったら、グレイシアごと俺はダストシュートにダイブさせられた。
俺はグレイシアにしっかりと掴まれながら滑り降りる。正直少し苦しい。
そして外に放り出された。衝撃でグレイシアが掴んだ腕が離れた。
「痛ッ!!」
俺は成す術なく投げ飛ばされたが、何かがクッションになって助かった。
「サクラ...相変わらずだな...」
クッションになったのはエルメスだった。またか...
「NOO...さっきから何でござるか...」
「レイサワ、ゴメン」
グレイシアはレイサワに乗っていた。グレイシアはそこからひょいと飛び起き、ゴミ置き場のすぐ裏手にある地下駐車場にみんなを誘導した。
「なんだか慌ただしいね。サクラ、肩貸すよ。私に捕まって」
俺はエルメスに肩を借りて、なんとかグレイシアについていった。
地下駐車場には、一台、色々改造されてそうな車があり、グレイシアはそれに乗り込んだ。
「乗って、なんとか五人は乗れるから」
「ちょ、下ならシィズさんはどうするんスか?」
「彼女は多分大丈夫、それにシィズの所に行ってる余裕がない」
俺たちは車に乗り込んだ。グレイシアは運転席に乗り込み、エンジンをかけた。駐車場に重たい音が響き渡る、というか、この車、グレイシアのなのか?普通に鍵を取り出してたけど...
待てよ?グレイシアの運転って確か...
「みんなシートベルトはつけたみたいだね。じゃあ行くよ!」
グレイシアはギアを入れた。その瞬間、車は爆音を上げて急発進した。俺の体はあまりの速さについていけず、しばらく体がのけぞったままだった。
車は、誰もいない街の中を猛スピードで駆け抜けていく。右に曲がったと思ったら今度は左、体に凄まじい遠心力がかかって来る。
「ギャアアアアア!!」
振り回されて窓ガラスに顔が張り付いて取れない。後ろからエルメスと零羅が押してくる。麗沢は助手席に座り無言だ。気ぃ失ってんじゃないか?
「ちょっ...!!グレイシア、一体どこに向かうつもり!?」
「まずは、南オーシャナと南ウィートの境にある森に行く。みんなにはあの人に会わなきゃいけない。それが私の役目」
「役目?あの人って一体誰なんスか?」
「とにかく今は私を信じて、五時間で到着させるから...」
俺たちは言葉を信じて黙った。しばらく走り続けると街から何もない原野に出た。遠くに何やら巨大な施設が見える。
「なんだあれ?」
「あれはバケモノの研究所、前はあそこにレイが捕まえたバケモノを保管してたけど、今はもうもぬけの殻。『自由にしてあげた』ってレイは言ってた...」
更に車は猛スピードで走った。ようやく長い直線道路に出て体勢を戻した。体も大分動く様になってきたな。ほんと、怪我の治りがはやい。普通なら即病院に運ばれてももおかしくないのに...
俺はふとスピードメーターを見る。既に振り切れている。
「ねぇグレイシア...今、何キロで走ってるの?」
「三百...」
グレイシアが呟いた直後に、後ろの方からサイレンが鳴り響いた。
『そこの車!!今すぐ止まりなさい!!』
パトカーだ。そりゃ、こんな早やさで走れば警察も動くわな...
「ちょっ!警察に目つけられたじゃない!!どうすんの!?」
「ナンバープレートは別のに切り替えたから、問題ない。にしても、早いね...あの車。この先は直線しかない...ぶっちぎる...」
グレイシアは何やら、色々なスイッチを入れたかと思ったら最後に赤いいかにも危なそうなスイッチを押した。その直後、車は更にスピードを上げパトカーを一気に突き放し、すぐに見えなくなった。
「に...ニトロってやつでござるか?」
「ニトロじゃない。これは酒...西ボーダーで一番強いのを前に私がもらった。飲みたいの?」
「い...いや...」
もう早さがどうなってるのか分からない。とりあえず何か見えたと思ったら既に通り過ぎた後だ。
しばらくそんな状態が続いた。だが、そのうち目がおかしくなってきてそのまま気を失った。多分、戦いの疲労とこの運転のせいだ...
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「サクラ!大丈夫か!?」
俺はエルメスの声で目が覚めた。辺りの景色は止まっている。どうやらここは森の中だ。外では麗沢が地面に這いつくばっている。零羅も千鳥足で歩いている。普通に立ってるのはグレイシアだけだ。
俺も外に出たが、足元がおぼつかない。だけど、なんとか踏みとどまった。
「エルメスは大丈夫なんスか?」
「私も何とかね...ゲロインになってたなんて言えない...」
「ふぇ?」
後半グレイシアがなんて言ったのか聞き取れなかったが、まぁ、聞かない方がよさそうだな。
「みんな、こっち」
グレイシアが案内した方向には先端の尖った筒のような家があった。
「ここに...この世界の全てがある。何故レイがああなったのか、何故あなたたちがこの世界に来たのか...全部教える」
グレイシアの言葉の意味、やはりグレイシアは知っていたんだ。隠し事...これで全てが分かるのか...
俺たちはグレイシアに導かれ、家の中に吸い込まれていった。
「よぉ、久しぶりじゃねぇか。グレイシアちゃん。ここに来たって事は...レイの奴は...全てが始まるんだな」
家の中にいたのは車いすに乗った。少しワイルドな感じが漂う老人だった。見た目の印象は怖くないけど、何となく嫌な感じだ。
「あんさんたちには初めましてだな。俺の名前はスチュワート。スチュワート ヘリオトロープってんだ。よろしくな。
早速だがあんさんたちには謝らなきゃなんねぇ。まずは済まなかったとだけ言わせてくれ。そしてだ。この世界の真実を教える。心して聞いてくれ」
俺はこれから、真実を知る事になる。