第2章 中央決着編 8話 君がいなくなることを恐れるんだ。
「さて、この爆弾を持ったままじゃやりにくいか...ここに置いておこう」
三上は核をひょいと遠くに転がした。
「行くぞ!三上っ!」
俺は走った。そしてそのまま前に銃口を突き出し引き金を引いた。電撃で三上を撃つと同時に俺自身も突進した。
三上は剣で電撃を弾く。そこに俺は折れた剣で追い打ちをかけた。
(前から来るよ!!)
俺が攻撃しようとしたとき、また声が聞こえて避けた。俺のいたところの地面がいきなりひび割れた。
「フフッ!あと少しだね!あと少しで君は僕のこの力を理解できるようになるはずだよ!」
気が付けば三上は俺の懐に入り込んでいた。また縮地か...いい加減、うざい!!
俺は避けなかった。そのまま剣を振り下ろしてぶつかり合った。銃と剣が分かれたことで大分軽くなったから動きやすい。
「反応速度も上がって来た。僕の縮地を見極め始めているね。そしてその武器。いい選択だよ...でもね、まだだ。僕も早くなれる。僕の中の爆弾がなくなったからね、体が軽くなった。縮地はもういいよね。集中するから疲れるんだ。今度は、純粋な僕の速さだよ!!」
目の前から三上が消えた、後ろにいる!俺は振り返りざまに振り払った。
「残念、僕は更に後ろさ」
「そうだろうよ!」
三上が早いのは知ってる。そして後ろを取りに来るのも、だったら後ろを開ければいいじゃないか。
俺は脇の隙間から電撃を撃った。直撃だ。三上の体は吹き飛ばされ、壁に激突した。
「はぁ...はぁ...ちっ」
三上に一撃を与えたのに、上手くは入らなかったようだ。壁に突っ込んでも、姿勢を崩さずそのまま立ったままだ。
「何でだ?」
? 三上は突然、疑問の言葉を投げかけた。
「今の攻撃は、確実に僕の隙を捉えていた。今の桜蘭君の実力なら心臓を丸焦げにすること位なら可能なはずなのに...ダメージがまるでない...」
三上は俺を少し睨むように見た。その直後、俺に向かって突進してきた。俺は即座に反応して攻撃を捌く。凄まじく早い。だけど、見れないことはない。反応出来る。さっきよりも確実に反応出来ている。
俺は隙を突き、剣を横に薙いだ。頬に少し傷をつける程度だったが、確かに入った。このままいけば...!!
「そんな...」
俺は追い打ちをかけようと考えたが、出来なかった。逆に返り討ちにされてしまった。
俺の剣が弾かれ、蹴り飛ばされ、地面にたたきつけられた。
「がっ!!」
俺は仰向けに倒され、そして胸を踏みつけられた。俺は三上の顔を睨んだ。だが、三上は俺に絶望に満ちた表情を向けた。
「君は...覚醒出来ない...」
三上からとんでもない一言を浴びせられた。
「最悪だよ...僕は君の事を買いかぶり過ぎてたのか...今、君の攻撃でよく分かった。何故君が覚醒出来ないのか。
君は今、半分覚醒状態の様なもの。きっかけがあれば覚醒できるのに、心のどこかで常に冷静な感情を持ってる。君は今、気が付かないうちに『人を殺す』という事を恐れた」
俺が、こいつを殺す事を躊躇った?そんなはずない。俺は三上を倒す為に!
俺は考えた。三上を殺したらどうなるのか、俺は人を殺そうとしている。俺が怒り任せでやろうとしていることは、人殺しなんだ...
突然俺は我に返ったような気分になった。
「君は、確かに腕を上げた。でも成長はまるでしていないんだ。君はそれを成長と勘違いした。桜蘭君、僕と初めて会った時から君はずっと逃げようとしてたね。本当は戦いから逃げたいんだ。そんな自分の感情がくすぶり続ける中、君は僕を恨むことで自分自身から逃げた...逃げたまま幸運だけでここまで来てしまった。自分を見ないままね。
くそ...僕はとんでもないミスをしちゃったね。僕は君の中にある素晴らしいポテンシャルに期待してた。あと少しなのに...君は拒んでいる。だから覚醒出来ない」
俺が...逃げている?そんなはずない、俺はお前が許せないからここまで来た。お前、が?...
俺は今までの事を思い返した。どうしてみんなここまで来たのか、グレイシアは三上を愛していたから。エルメスは誰も殺させないため、零羅は自分を超える為...みんな、それぞれ自分の信念を持ってここまで来たんだ。麗沢にすら
俺は、只三上が許せないから、強いから俺も強くならなくちゃいけない。俺は自分を見てなかった。俺に信念なんてなかったんだ。だからあと一歩を踏み出せなかった。いつでも覚醒に至れたのに...
「とんだ期待外れだよ。世の中上手くいかないね。君を見てよく分かったよ。残念だよ、このゲーム、僕の勝ちだ。
ゲームオーバー」
三上は俺に剣を突き刺そうと構えた。
そうか...俺はずっと周りだけを見て、俺自身を見ていなかった。今までずっとそうやって生きてきた。三上の強さ、零羅の覚悟。俺はそれを見てただけだ。俺自身は憧れるだけで努力をしなかった。俺自身は成長してきているって思い込んでた。俺がここまで来れたのは只、運が良かっただけだ。
そうだよ...俺は運任せでずっと生きてきた。それがたまたま今の今まで幸運が続いてた。だけど三上に、その運は通用しない。
俺はそんな事を思っていたら、勝手に涙が出てきた。悔しかった。自分自身の事なのにそれを敵であるコイツに見透かされたことに、凄く単純な事なのに、産まれてから今まで全く気付くことの出来なかった俺自身の馬鹿さ加減に...
三上は剣を突き出した。
・
・
・
「...っ 動かない...!」
俺は突き出された剣を掴んでいた。そして三上の体を蹴り飛ばした。三上は空中で一回転して体勢を立て直した。
俺はよろめきながら立ち上がる。そして...
「うわあああああああああああああああああああっ!!!!」
ひたすら叫んだ。叫ばずにはいられない。心の中に溜まったモヤモヤは一つに纏まり叫びの中で外に出た。
「だりゃぁっ!!!」
最後に一発。俺自身の顔面を思いっきり殴った。手加減なしだ。額と鼻から血が滴り流れる。めちゃくちゃ痛い。だけど、俺の中の全てが吹き飛んだ。ものごころついてからずっと俺の中にあった雲が、一片も残さず消えた。
全部分かる。俺の中もモヤモヤが全部理解できた。俺が戦う理由も、なんでここまで来たのかも。
「三上...俺があんたを殺せなかったのは、グレイシアがいるからッス。グレイシアは今でもあんたを愛してる。だからこそ殺してでも止めようとしてる。そんな彼女の意思を赤の他人の俺が奪っていいのか、そんな事を考えてたんス。だから今までモヤモヤしてた。
だけど、どうでもよくなった。俺は俺だ。俺の意思はあんたを超えたいと願ったッス。馬鹿で単純な理由だ。だから、俺が貫く信念はただ一つ。今の俺自身を超える事だ!!」
俺は踏み込んだ。逆手に持った剣を振り抜く。弾かれた。俺はすかさず銃に電撃を込める。いや、電撃じゃ不十分だ。炎もだ!!
俺は引き金を引く。電撃と炎が混ざり電撃を纏った炎が三上を襲った。
「っ!」
三上は真っ向から受けて立った。俺は威力を高める。三上は押し負けた。三上は避けようとした。
「させるか!!」
俺は新たに風と氷、そして水の魔法を組み合わせた。
「凍り付け!!」
銃口からは吹雪の様に強烈な冷気が発射され、三上の腕を凍らせた。
「...遂に、成し遂げた、みたいだね...クッ、ククク、アハ、アハハ!」
三上は打って変わって笑顔に戻った。いや、安心したというか、安堵に満ちた顔だ。
「良い!最高だ!じゃあ次に行こうか!」
三上は、あの見えない攻撃を仕掛ける気だ。どこから来る...
(上だよ!!)
俺はとっさに横に避ける。
(今度はえっと、右!!)
少し遅れて指示されたから、少しかすめた。
「見えてはいないね、聞こえていると言った感じみたいだ...どうやってこれを避けてるのか、まずはそれを確かめようか」
三上は俺のこの能力には気が付いていない。ま、俺自身も三上の能力は今だ理解できない。
(今度は、もうちょっと早く教えてくれ)
(わ!話せるんだ。驚いた...じゃないや。もうちょっとって言われてもあんなに早く動かれたんじゃ助言も遅れちゃうよ。でも、やってみる)
(サンキュー、カラスさん)
(僕の名前はクロでいいよ)
さっきから聞こえていたこの声、この声の正体はこのビルの上にいるカラスだ。ランサーと同じだ。俺にはこいつの声が聞こえる。そして俺の味方になってくれている。
俺は理解した。俺は動物と話す事が出来るようになった。それだけじゃない。動物たちを自在に動かせる。ここにいる動物たちは全部俺の味方だ。カラスだけじゃない、排水溝から顔を出しているネズミも俺の味方になってくれている。そしてこいつらは俺に三上の攻撃を教えてくれた。こいつらには見えているんだ。
(三上は、一体どうやって見えない攻撃をしてるんだ?)
(あなたには見えないの?もう一人、あの人がいるんだよ!)
ネズミは教えてくれた。
「...お前のその攻撃、もう一人、お前がいるのか?」
俺の答えに三上は驚いた。
「覚醒で更にもう一つの力に目覚めた...僕の目に狂いは無かった。アハハ...そうだよ!見えないもう一人の僕がいるのさ。これが僕が覚醒で手に入れた力!
覚醒は精神の異常な揺らぎで発現する!そうなった時、この体は世界と同化してバケモノ化を止め異常なほどの力を手に入れる事が出来る!だけど稀にだけど、僕や君の様に通常の覚醒とは違う更に別の能力を持った者が現れる事があるんだ!原因はまだ不明だけど、精神の揺らぎが常識を超えるレベルに達した時、脳波が己自身から外に漏れる。それが周囲に影響を与えて何かを操ったり出来るようになるんだ。君はその域に達したようだね。一体何を支配しているのか...見極めようか。
同じ覚醒者同士だ。もう、手加減の必要はないよね」
俺は無言で構えた。右手で銃を三上に向けて、左手は折れた剣を右手に添えるようにした。
三上も構えなおした。凍らせた左腕はまだ完治していないみたいだ。右手のみで構えている。俺と三上はしばらくにらみ合った。
そして地平線から太陽が顔を出したと同時に両者は飛び出した。