第2章 中央決着編 7話 僕は死を恐れないけど、
「さぁ...来なよ」
三上は俺を煽る。行くしかない。だが、見えない何かが攻撃してくる可能性もある。下手には動けない...
俺がそう考えていた時には、既に三上は動いていた。また目の前にいる。
「クッ!!」
俺は何とか攻撃を防いだ。このタイミングだ!三上は剣を振り払っている。この瞬間しか攻撃するタイミングはない。
「また...!!」
攻撃に転じようと動いたが、今度は何かに俺の腕を掴まれた。このままじゃやられる!俺はなりふり構わず電撃を放った。何発か撃った時、俺を掴んでいた何かが消えた。その時既に三上は攻撃の体勢に入っていた。
俺はとりあえず振り下ろした。ぶつかり合い鍔迫り合いになった。
「闇雲に攻撃するのも確かに一つの手だけど、それで君の体力は持つかな?魔法っていうのは自分の体液を使っている。言ってしまえば、魔法を使うときは汗を大量にかいている様なものなんだ。使い続ければそのうち脱水症状になる。更に魔法は己の精神も削る。威力を上げたり、連射したりすればその疲労は凄まじいものになる。得策とは言えないね」
そんなこと言われても、俺にはどうすることもできない。今コイツ相手に出来る事といえば、攻撃こそ最大の守りってやつしかない。
俺は無理矢理三上を押しのけて攻撃に移った。目いっぱいのパワーで連続で切り付ける。そんな戦い方はやはり、三上に通用する訳がない。捌かれて蹴り飛ばされた。
俺は我武者羅に動いている。体任せだ。飛ばされたと同時に地面に剣を突き立て体勢を立て直し、蹴りを喰らわせようとした。
「うわっと」
手で足を掴まれた。俺の体はそのままひょいと、空中に投げ飛ばされた。だったら今度は、地面に刺さった剣を引き抜き、至近距離で電撃を撃ち込む。
今度は素手では防がず、剣を使った。三上の体は大きく後ろによろめいた。俺は地面に落ちた後すぐさま立ち上がり、攻撃に移ろうと考えた。
しかし、既に三上は体勢にを立て直している。俺は構えるだけにした。今行くのはマズイ。そう判断したんだ。
「さすがに今の連続攻撃は驚いたね。だけど、さすがにバテ気味だよ?さ、今度は僕が行くよ。コレは避けられる!?」
三上は俺に向かって走った。早いが、今度は見える。後は俺の体が動けばいい...見極めて、撃つ!!このチャンスを逃すな!!
(伏せて!!)
!?
俺は三上の目の前で体を沈みこませていた。こんな動きするつもりじゃなかった。とっさにかけられた声で俺はこんな行動に出ていた。三上との間合いがありすぎる。これじゃやられちまう!!
更におかしなことが起こった。三上は振りかぶったまま動いていない。現状を把握していない顔をしている。
ここしかない。これを逃したら二度とチャンスはないかもしれない!!
急に俺の中で闘志が爆発した。
「うをおおおおおおおおおお!!」
俺は剣を三上目がけて全力で振り抜いた。俺の放った攻撃は三上の脇腹から胸部分にかけて、大きくえぐり取るように切り払った。皮膚を破り、筋肉が千切れ骨を削る感覚が手元に押し寄せる。正直言って気持ち悪い。だが俺は容赦なく切り捨てた。
三上は俺の後ろにそのまま飛ばされていった。
今の一撃、心臓にまで確実に剣が入ったはずだ。だったらあとは頭を破壊する!!
俺は電撃をチャージして振り返った。この一撃で終わらせる!!!
「今のは凄いね」
俺が振り返った時、三上は俺の視界にいなかった。どこだ?
上だ...!?
俺の頭上に三上はいた。俺が切り裂いた直後、後ろに吹き飛んだのに、三上はどうやら風の魔法で体勢を立て直したようだ。
俺は伏せようとしたが遅かった。三上の放った強烈な一振り、剣で受け止めても俺の剣を真っ二つにへし折られた。その衝撃は俺に伝わり俺の体は一直線に飛び、壁に激突した。
「がはっ!! ゲホっ!!ゴフっ!!」
俺の口から血が噴き出した。あちこちで骨が折れた音が聞こえた。
「ふぅ、今のは危なかったね。まさか覚醒せずに僕に一撃を与えるなんてね。今のは...見えたのか?」
見えた?何をだ。俺はただ声に反応しただけだ。
「見えたわけじゃないみたいだね。もう一つの力...か?フフフ」
三上は訳の分からない事を言って一人で笑った。
「にしても桜蘭くん。ずいぶんと強くなったのに、まだしっかりとした覚醒に至らないんだね。君は既に
覚醒の片鱗は見せているのに、どうにもどこかでブレーキをかけてしまっているのかもね」
覚醒の片鱗?そういえば俺はたまに、俺自身の最大パワーを超えるような力を一瞬ながら発揮することがあった。それの事か...
「う~ん、仕方ない。君には特別に一つ真実を教えようか。何故君が戦わなきゃいけないのか、戦う理由って言うやつを教えてあげるよ」
「真実?」
「うん。このゲームのルールは覚えてる?まず各地区のリーダーの装置を全部破壊する事、それは恐らく達成できる。下で戦ってるフォックスはちょっと間抜けなところがあるからね。大方、自滅するのが落ちさ。
だけど、さっきも言った通りこの装置の意味は君たちに旅をさせる為の物。それ以外の意味はあまり無い。じゃあ、僕の中の爆弾はどうなるのか、そして核の存在、答えはこれさ」
三上は自分の傷口に手を突っ込み、手探り始めた。そして頑丈にくるまれた四角い箱を取り出した。
「はぁ...はぁ...このマークは見たことあるでしょ?」
放射性物質を示すあの黄色と黒のマーク、まさか!?
「そうだよ、これは核さ」
コイツは、自分の中に核をねじ込んでいやがったんだ。そしてこいつが爆発する条件っていうのはまさか!!この箱の上にはタイマーのような物がある。それが...
「そう、起爆の条件はこのゲームの終了時間さ。そしてこの機爆は、世界各地にある原子力発電所で製造した核のスイッチになっているのさ。これはハッタリじゃないよ、正真正銘の真実さ」
「一体どうやって作ったんスか...そんなもの、核爆弾なんてそう簡単に作れるものじゃ無いだろ」
「あぁ、作るのは苦労したよ。僕一人じゃ絶対に無理だった。あの子の存在が無ければね」
「あの子?」
「シャルロット レッドローズ。あの子だよ、核爆弾を作ったのは。シャルは小学三年生の時既にダイナマイトを発明した。テレビのニュースで採掘場の作業を見て何とかできない考えたんだってさ。安全な爆弾を作れないか?ってね。
それからシャルは中学生の時にダイナマイトを更に安定させた爆弾、この世界じゃ粘土爆弾って呼んでるけど、すなわちセムテックスを開発したんだ。
そこで僕はシャルに共同で核を作る提案をした。シャルには驚かせられることばかりだよ。核分裂反応についてちょろっとしか僕は知らなかった。せいぜいウラン235っていうのが中性子とぶつかって分裂反応が起きて、それが連続して起こるってことぐらいだよ。でもあの子はその情報だけでたった一年で原爆の開発に成功したんだ。ノーベルもアインシュタインもびっくりだよね」
確かにびっくりだ。途中から何を言ってるのか分からなかったが、シャルロットはとんでもない人物だったんだな。
「だけど、そんな彼女をお前は殺したんスよね」
「そう。シャルはすごく働いてくれたよ。まさに僕の右腕だった...そろそろ、良いんじゃない?傷は治ったでしょ?そして、君が戦う理由が見えてきたんじゃない?」
三上は俺の傷が治るのを待っていたのか。ますますムカついてきた。
「これが炸裂したらどうなるか...こんなに小さくてもヒロシマ型の三分の一位の威力はある。ここ周辺は消し飛ぶよ」
「三上...シャルロットは、あんたのそんな遊びの為に爆弾を作ってないッス。あの子はみんなの安全の為に爆弾を作っていた。シャルロットにはシャルロットなりの平和の見方があったのに、あんたはその意思を踏みにじったんス。それだけじゃない、あんたはこの世界に生きる全ての人の平和を蹂躙した!
やっと見えたッスよ。あんたはこの世界のゴミだ!!」
俺は立ち上がった。銃から折れた剣を外し、その折れた剣を逆手に強く握りしめた。手に刃が食い込む。かなりの激痛が俺を襲った。だけど、俺はその痛みを自分への罰と思うことにした。三上は悪魔だ。その悪魔の所業を見抜けず、沢山の人を傷つけた。俺が弱かったせいもある。だから、今度こそ必ず倒してやる。
「ニヒッ!いいよ、その目だ。もっと怒るんだ。そうすれば君は覚醒に至る事が出来る。僕を超える存在になれる!さぁ怒れ!!感情のまま僕を殺してみろ!!」
三上は異常なほど明るく、曇りのない笑顔になった。
空は徐々に明るくなり、後四十分ほどで夜明けだ。