第2章 中央決着編 6話 僕の一番叶えたい願いはただ一つだけなんだ。
みんながフォックスと対峙した頃、俺は玉座の奥にある階段をひたすら駆け上がっていた。その中で俺は、様々な事を考えていた。
このゲームの事、覚醒の事、俺は流されるがままここに来ている。もちろんあいつの所業が許せないのもある。だけど、この感情は何だ?モヤモヤする。何かがあるのにつかめない。一体なんなんだ?
そうか...俺は、何も知らないんだ。知らないまま、あいつに導かれるようにここまで来てしまっている。俺自身が自分の意思でここまで来たのかと言われたら、そうではない。俺を動かしたのは怒りだけじゃないんだ。あいつは道しるべになっていた。あいつをたどれば、全てに終わりが見えると思い込んでいるんだ。
俺はモヤモヤがとれないまま、走り続けた。上に扉が見えてきたころ、俺の耳に歌が聞こえてきた。聞いたことのある曲だ。
「ん?この曲って、確か...あの映画の」
歌っているこの声は、間違いない。三上の声だ。そして歌っている曲は子供たちが死体を見つけに旅をする映画の主題歌だ。そういえば、三上は歌うのが好きだったって、グレイシアが教えてくれたっけな。こんな時に歌うなんて、ずいぶんと余裕だな。
俺は扉を勢いよく開けた。扉の開けた先は、ほんの少し空が明るくなりはじめて、冷たく強い風が吹いている。ここはビルの屋上階だ。
「やぁ、来たのは君かい、桜蘭君」
三上はここにいる。貯水タンクにもたれ、あの爽やかな笑顔で俺を出迎えた。
「あぁ、俺ッスよ」
「ふふっ...あの橋で会ってから、あんまり時間がたってないけど、また腕を上げたみたいだね。うれしいよ。だけど、君は今考え事をしている。それを取り払わないと僕には勝てない」
コイツは相変わらず俺の心にずかずかと入り込んでくる。
「そうッスね。俺はバカだ。とりあえず今はあんたを倒すことに集中しないとな」
俺はホルスターから銃を素早く取り出し、ブレードを取り付け構えた。
「そう、集中しないとね。そんな君に一つ答えを教えるよ」
三上はポケットの中からリーダーの持っている装置を取り出した、やはり、持っているのか。これを壊せば勝てる。俺がそう考えた時、三上は思わぬ行動に出た。
「なっ!?」
「コレの意味、理解できる?」
三上は装置を放り投げ、串刺しにしたのだ。
「ハッタリ、って言葉位は知ってるでしょ。君の知りたがっている答えの一つがこれさ。最初からこの装置自体に爆弾の起爆の機能はないんだ。これは君たちが旅をする為の口実さ。そして旅をさせた理由は、君たちを強くする事、そして覚醒させることさ。なんでそんな事をするかって?前にも言ったと思うけど、僕はただ楽しみたいのさ。その為のゲームさ。僕自身にも縛り内容を加える事でゲームはより楽しくなる」
そうだった。これはグレイシアも言っていた事だ。こいつは楽しむ為に俺たちを強くしようとしている。その言葉に偽りはないのかもしれない。俺たちは、まんまと乗せられてたんだ。
「成程ね。ほんと、あんたには怒りよりも何故か感謝って言葉が先に頭をよぎるッスね。俺がここまでこれたのはあんたのおかげだ。あんたが俺を、俺たちを強くした。だから俺はここに来ている。あんたを目指して俺は...だから、まず言わせてくれ。ありがとう。
そして...いくぞっ!!!」
俺は考える事をやめた。一つの感情に意識を集中させた。目の前の三上 礼を倒す。それだけを考える事にした。
俺は飛び上がり、大きく振りかぶった。その瞬間から三上も動いた。
「うおおおおおおおおおおおおおお!!」
「せぃやあああああああぁぁぁぁぁ!!」
互いに雄叫びを上げて互いに間合いに入った。先に仕掛けたのは俺だった。
「っ!?」
俺は全力で振り下ろした。だが、三上は俺の剣を素手で受け止めた。
俺はすかさず引き金を引いた。風の魔法の反動を利用して俺は三上の後ろに回り込む。剣が三上の手から離れた。今だ!!
俺は後ろから横に薙いだ。三上は空中で体をひねらせてその一撃を避ける、この状態なら...俺はあまり威力はなかったが電撃を撃ち込んだ。片手で防がれた。だけど、そこそこの威力はあったおかげか、三上は少し後ろにのけぞった。
互いに地面に着地し、俺は三上に向かって踏み出した。先になんでもいいから魔法を連射し三上の両サイドを防ぎ、視界も防いだ。そこを狙い、俺自身が攻撃を仕掛ける。
三上はまだ剣を抜いていない。やるなら今しかない。抜かせるな。やられる前にやれ!
俺の斬撃は三上を徐々に追い込む。行ける、これなら...!
「うん、筋は悪くなくなったね」
三上は剣を抜いていた。抜く瞬間が見えなかった。俺の攻撃が捌かれた。
「だけど、踏み込みが甘い。見本はこうだよ」
三上は剣を振り下ろした。俺は防いだ。だけど...
「うっ!!ぐぬっ!!!」
重い!あんな華奢な体形で...これが踏み込みの違いか?三上の重い一撃で、俺の足元の地面にひびが入った。
足がガクガクする。腕が、千切れそうだ...
「っつぅぅぅああああああああ!!!」
俺は全身全霊の力で三上の一撃を受け流した。
「はぁ...はぁ...」
だけど俺の体力は一気に持っていかれた。
「うん!中々やるね。さぁ、もっとやろうか。アッハハ!」
三上の笑顔はどんどん明るさを増していく。あいつは、俺との戦いを愉しんでいるんだ。心の底から、今、この瞬間を...
愉しむ...前の俺では戦いの中にそんな感情なんて絶対芽生えないだろうって考えてた。だけど、今は違う。腕が悲鳴を上げている。立っているのもやっとなのに、俺の認めたくない感情の中に喜びがある。勝ちたいという欲望がある。
何が何でも勝ってやる!
「いいね、もっとだよ。もっと自分に素直になるんだ。君が覚醒すれば、この戦いがもっと面白くなる。ギリギリの戦いが出来る。今度は僕が行くよ!!」
三上は踏み込んだ。集中しろよ。あいつの動きは早すぎる。俺の目では追えない。だったら相手の思考になって考えろ。この緊張感を愉しめ。来るのは...
「上段だ!!」
俺は斜め上に向けて剣を振り抜いた。ビンゴだ。俺の振った場所にちょうど三上の剣が来た。それを俺ははじいた。
「!?」
三上はバランスを崩した。この瞬間を逃すな!!俺は目いっぱいに銃の中に電気を溜め込んだ。
「これなら、丸焦げだ!!」
銃口は、完全に三上を捕えていた。青白い閃光が真っ直ぐ突き進んだ。しかし、俺の攻撃は外れた。
三上は俺の攻撃の直前にあり得ない方向に吹き飛んでいった。
「あいてててて...今のは、結構ヤバかったかな」
「見えない攻撃で、自分を攻撃したんスか」
そうだった。こいつにはコレがある。見る事も聞くことも出来ない攻撃があいつにはある。応用すれば、危機回避にも使えるっていう事か。
「うん。自分に対して使ったのは初めてだったよ...どうやら僕は、君の事を少し甘く見過ぎてたね。まだまだだと思ってたけど、ここまでやるなんて...僕も少し本気で行こうかな?」
ここからが本番か...三上は剣道の中段の構えをとって、真っ直ぐ俺を見ている。俺も集中だ。さっきの感覚を忘れるな。あいつの動きを見ろ。予測しろ...
「え?」
俺は気を抜いた覚えはない。一瞬たりとも視線を外さなかった。なのに、なんで俺の目の前にいるんだ!?
俺は後ろに飛んだが、少し遅かった。左腕をかなり深く切られた。
「見ているだけじゃ、僕には勝てないよ。君は後の先の戦い方が得意みたいだけど、僕を相手にするなら攻めに転じたほうがいいよ」
今の攻撃、なんで俺は反応出来なかった?俺は...見えていた?なのに、反応が出来なかった。もしかして
「縮地...なんスか?」
昔、麗沢に聞いたことを思い出した。相手との間合いを一瞬で詰める体捌き。縮地という名前自体は漫画で知っていたが、瞬間移動のようなそんな動き、絶対に不可能だと思っていた。だが、相手の呼吸や体の流れを読むことで、対した相手はあたかも瞬間移動してきたかの様な感覚になる。そんな事を言っていた。
「あ、縮地法知ってるんだ。確かに今の動きはそうだよ。瞬間移動したように見えたでしょ。さて、これをどう攻略する?」
まだまだ、二人の戦いは始まったばかりだ。