第2章 中央決着編 4話 そして最後の朝を迎えた
フォックスはドヤ顔して麗沢を見た。
「おいらも結構やるでしょ!」
「結構どころか、今までの誰よりも強いではござらないか」
フォックスの実力を目の当たりにして、麗沢はいつものふざけた感じを出せないでいた。
「えへへ!!」
「しかし!いくら強いと言っても拙者は勝たねばならないでござる!先輩がこの先で戦っているはずだから、早急に片を付けるでござる!」
麗沢は意気込み、闘志を燃やし、フォックスに立ち向かった。
「おいらだって負けないよ~!」
フォックスは受けて立った。麗沢の攻撃を避け、反撃に転ずる。対する麗沢も間一髪ながらだが、しっかりと見切り、フォックスの動きをしっかりと掴んでいた。
「...フォックスさん、なんだかさっきから違和感を感じます。グレイシアさんはどう思いますか?」
麗沢とフォックスが戦う中、その外でフォックスの動きで零羅は違和感を感じ、グレイシアに尋ねた。
「うん...いつものあの子じゃないみたい。なんだか無理をしている。無理矢理いつもの自分を演じているように見える...」
「確かに、それは私でも分かる。いつものフォックスちゃんなら、あんなに必死になって戦わないよね」
「私たちも加勢しましょう!」
フォックスから感じた違和感を探るべく、三人は麗沢に加勢に入った。
「てりゃーーーー!」
「ぬおお!!」
麗沢とフォックスの戦いは更に激しくなっていた。フライパンを使い、時には防御に、時には振り回し攻撃に移る。フォックスは時折、青い炎をだし、麗沢や、その他の動きを封じ常に優位な状態で戦っていた。
・
・
「はぁ はぁ...やっぱり四対一は疲れるよねぇ...」
だが、フォックスも体力が限界にきつつあった。
「だったら、降参する?」
「え~~~それはしないよぉ!」
フォックスはしばらくゴロゴロしたと思ったら、また立ち上がった。
「今日ここを守り抜けば、今日のご飯は牛ステーキ食べ放題していいよって言われてるんだ。しかも最高ランクのも含めてね!その為にも頑張らなきゃ!ウェルダンのこんがりステーキ~」
フォックス自身はこの言葉に深い意味を持たなかった。だが、麗沢にとって聞き捨てならない一言だった。
「む!フォックス殿、今、ステーキはなんとおっしゃったでござるか?」
「んお?...こんがり...ウェルダン?」
「ステーキは!ミディアムでござろう!!しかも最高ランクのお肉なら、なおさらでござる!!」
麗沢はミディアム派だった。
「最高ランクが、ウェルダンに焼かれてしまっては、牛に失礼でござる!!確かに、ウェルダンがいい場合もある!しかし!ステーキをウェルダンに焼いてしまうと硬くなって、一番の特徴のあの柔らかさと溶ける感覚を消してしまうのでござる!更に...」
「ふ...ふぇぇ...」
フォックスは、麗沢の熱弁を聞いていた。
「ストップ」
麗沢が熱弁する中、後ろからポカンとグレイシアが麗沢の頭をたたいた。
「今は時間がない...」
「お!...せ 拙者としたことが...」
「ご、ごめんね、おいらが適当言ったばかりに...だけど、そんなに肉が好きなの?麗沢のあんちゃん」
フォックスは麗沢のあまりの勢いに戦闘中だという事を忘れていた。
「うむ...拙者はお肉が好きと言うより、食事そのものを崇拝しているのでござる。食べるという事は、どの生物にとっても欠かせない事。食べる事で生きる事が出来るのでござる。しかし、食事は楽しむものでもあるのでござる。この世には様々な食材が存在するでござる。それを使い分かる事で、この世界には無限のレシピが存在するのでござる!そう、まるで絵を描くかの様に、同じ料理でも様々な味が出る!人それぞれの個性が出る!料理とは芸術なのでござるよ!拙者はそれに魅入ってしまった!拙者はその全てを知りたい!そう願ったのでござる!その中で、どう食べれば一番美味しく食べれるのか研究した!牛肉のステーキならばミディアムが最高であったというように!食べ方次第で、料理と言う名の芸術を更に昇華させることが出来るのでござる!それこそが拙者が、食事を愛する理由!」
麗沢は再び熱が入ってしまった。グレイシアがもう一発と考えたが、無駄だと判断し麗沢の話を聞くことにした。
「人間は何のために食事をするのか!生きる為でござるか!?否!!人間は食事を愉しむ事が出来る生物なのでござる!拙者は食事こそが世界を平和に出来る最善の方法だと考えるでござる!お腹がいっぱい心も満腹!
そして!食事の中で最も重要な事は自分が食べる事じゃない!!誰かと共に食べる事が重要ではないであろうか!?拙者は!!!」
麗沢は続けて何かを言おうとしたが、その直前で止まり急に落ち着きを取り戻した。
「あ...あんちゃん?」
フォックスが恐る恐る聞いてみる。麗沢は自分を見渡していた。
「あ...覚醒したでござる」
・
・
・
麗沢の一言で、周囲は静まり返っている。
「嘘ぉ!?」
エルメスが先に口を開いた。
「零羅殿、おぬしが覚醒した時、妙な気分にならなかったでござるか?なんというか、覚醒の自覚が出るというか、なんというか。強いて言えば世界が覚醒したと教えてくれたような感覚でござる」
「確かにありました!あの時気絶していて、目が覚めてしばらくしてから徐々に実感が出てきたのです!麗沢さん、あなたがその状態を理解したという事は...本当に!」
零羅が興奮気味に麗沢の質問に答えた。
「つまり、礼兄ちゃんみたいになったって事?そうだ!麗沢のあんちゃん!だったら確かめてみたらどお?おいらが相手になるよ!」
フォックスは、これを待っていたと言わんばかりに姿勢を低くして、麗沢を睨むように構えた。心なしか顔つきもさっきまでとは違って見える。
「そうでござるな...今なら、ギャグ補正も使いこなせそうでござる」
「ぎゃぐほせー?よく分からないけど行くよー!」
フォックスは再び巨大な炎を前方に撃ち出した。だが麗沢は動かない。その攻撃を待ったのだ。そして炎は麗沢を呑み込んだ。
「うぇえ!?避けないの!?えっ!?ちょっ、死んじゃってないよね?」
「無論!今までのシリアス展開!やるには十分でござる!見るがよい!これが拙者の新たなギャグ補正!『体は無傷で頭は燃える!』でござる!」
麗沢の体は全くの無傷だった。だが、彼のアフロじみた髪の毛から激しく炎が上がっている。
「...そ、それって無傷って言わないんじゃ」
エルメスがツッコんだ数秒後...
「ぬぅおおおおおおおお!!あつぅぅううああああああああ!!」
麗沢は頭の炎の熱さで、そこら中転がりまわった。
「わーーーー!!」
麗沢自身は無我夢中で暴れているのだが、その動きは綺麗にフォックスのみに突進するように動いていた。
「どわっ!!」
なんと、フォックスと麗沢が正面衝突した。フォックスは顔面を強打して目を回して倒れた。そして麗沢は、壁の隅の水路にダイブしてようやく鎮火した。数秒たち髪の毛がボンバーになって水路から麗沢は這い上がった。
「ど...どうでござるか!拙者の能力!!」
「いや、凄いと言うより口あんぐりなだけだわ...」
エルメスはどこからツッコむべきか分からなくなった。
「ある意味では凄いですよね...何がどうなっているのやら」
「それを言うなら零羅殿も同じではござらないか~。お主のあのなんでも破壊する攻撃、拙者にはどうやってるのか全然理解できないでござるからなぁ」
「た、確かに...それより!今の攻撃ではどうやら、装置の破壊は出来ていないみたいです!今のうちに破壊しましょう!」
「そうでござるな。先輩が先で待ってるでござる」
・
・
麗沢は、気絶しているフォックスの背中の装置に手を伸ばそうとしたとき、彼はとっさに回避に移った。フォックスが目を覚ましたのだ。
空気が変わった。目を覚ましたフォックスは先ほどとはまるで違う雰囲気を纏っていた。
「この先には行かせないよ...礼兄ちゃんとの、約束だから」
フォックスの放つ言葉は、重々しくなり、張り詰めた空間を生み出した。
「いくよ。あんちゃんたち、おいらだって本気になるんだから」
「この空気、ギャグ補正は効かぬでござるな...」
この戦いはフォックスにとっても譲れない戦いだった。
現在時刻は午前六時過ぎ、外では朝日が昇り始めていた。タイムリミットはあと二時間ちょっとだ。