第2章 中央決着編 3話 最期の夜は終わり、
俺が屋上に続く階段を上っているそのころ、玉座の間では...
「よっしゃ!じゃあいっくよ~」
フォックスと呼ばれるキツネ一匹と、四人の人間が対峙していた。フォックスの背中にはリーダーの持つ装置を紐でくくって背負っている。
フォックスは大きく息を吸った。
「まずは...避けて」
グレイシアの指示の元、全員横に避けた。その直後、フォックスは息を吐いた。巨大な炎の波がフォックスの前方を焼き尽くした。
「うをっ!あっつい!!グレイシア殿の言っていた通りでござるな、この炎拙者たちとは比べ物にならない程強力でござる」
「わたくしでも、ここまでの炎を一瞬で出すのは無理ですね」
「えっへへ~。褒められちゃった。でもさ、おいらの炎はこんなもんじゃないんだよ~、見ててね」
フォックスは次に体を伸ばして、一生懸命何かに集中しだした。
「気を付けて...これが、フォックスの本当の力。この子のこれだけは、今だに謎だから」
グレイシアの忠告を受けて身構える。
「おりゃー!」
あまり覇気のない掛け声を叫んだ時、フォックスの周囲に青い炎が漂い始めた。
「これがおいらの力、よく分かんないけど威力抜群の炎だよぉ。んじゃ、いっくよー」
フォックスは青い炎を前方に纏い、まずは麗沢に突進した。
「この直線なら、拙者でも!」
麗沢はカウンターを決めようと、同じくフライパンに炎を纏い構えた。しかし
「駄目!避けて!」
グレイシアの呼びかけで急停止し、避けようとしたが
「NOOOOOOO!!」
勢い余って壁まで転がっていった。
「おいてててて...ぬお!?」
麗沢は頭の前まで来ていた足を元に戻し立ち上がった。そしてフォックスを見る。麗沢の変な体勢をみて笑い転げていた。
「あはははははは!!すごい体勢だね~いまの~、ぷっくく」
麗沢は、笑い転げるフォックスよりもそのフォックスが通った後の光景に肝を抜かれた。玉座の間の地面の石が溶けてしまっている。この光景を見て、グレイシア意外が口をポカンと開けた。
「フォックスのこれはマグマなんかよりももっと熱い、前に調べた時はあの青い炎の温度は約一万度を示してた」
「一万度って...太陽の表面よりも熱いじゃないですか。そんな炎、あの子はどうやって...」
「それが分からない。どうやって扱っているのか...こればかりはレイもお手上げ」
「やろうと思えばもっと熱く出来ると思うよ~。でも焼肉するときはこの炎を使うと一気に炭になっちゃうんだよねぇ。だからさ、おいらもどこまで温度が上げれるか分からないんだぁ」
どこまで温度があげられるか分からない。その言葉のもたらす意味はフォックスは、まだ本気の実力の半分も出していないという事だった。
「それにさぁ、コレ使うと結構疲れるんだよねぇ。だからあんまり使わないようにしてるんだぁ」
フォックスは、青い炎を消した。
「む?今の言葉の意味は、フォックス殿は今、疲れているという事になるでござるか?」
「そうですね...多分」
麗沢と零羅は、少し顔を見合わせて同時に攻撃を仕掛けた。
「うをあっ!!ちょっいきなりってずるいよ!ねぇグレイシア!」
フォックスは気を抜いていたのか、二人の攻撃に反応が遅れ、辛うじて避ける形になっていた。
「いや...全然ずるくないね...今のはフォックスが悪い。敵の前で弱点をさらすのはよくないよ」
「あ...あ~~、そういえばアレを使った後がおいらの弱点になるんだねぇ...気にした事なかった」
フォックスは二人の攻撃をかわし続け、その動きに無駄がなくなってきた。
「ん~そんじゃ、反撃といきますかぁ...てやー」
再び巨大な炎を前方に巻き起こした。二人はそれをかわす。フォックスの後ろに回り込もうとするが、さすがにそうはさせてくれなかった。
だが、零羅が隙を見つけ攻撃に移った。零羅の素早い連続の技を繰り出す。
「わわわ~!早いって!」
フォックスは辛うじてではあるが、全ての攻撃をぴょんぴょん飛び跳ねるようにして避けた。
「フォックスさん、慌てた感じですが、全部見切って避けましたね」
零羅は攻撃のさなか、フォックスが自分の攻撃を全て避けたのは、フォックス自身の実力と見抜いた。
「え~?そんなこと無いよ~。確かに、避けれるには避けれるんだけどね、君の攻撃が早すぎて反撃出来ないんだよぅ」
「そうですか。わたくし一人の攻撃は避けられる。わたくしの攻撃は格闘です。直接相手にぶつけなければ効果が無いですね。わたくしとあなたでは相性が悪いみたいです」
「そうかなぁ。おいらは仲良く出来そうだと思うんだけどなぁ。あ、そういえば名前聞いてなかったっけ?おいらフォックスね。さっきも言ったけどよろしくねぇ」
フォックスは元気に自己紹介した。今は戦闘中にも関わらずだ
「神和住 零羅です。フォックスさん、先ほどから気になっていたのですが、あなたはここに何しに来たのですか?」
「ん?おいらは全力で遊んでいいよって礼兄ちゃんに言われたんだぁ。ここに来る人と戦闘ごっこして遊んでてってさ」
零羅は少し考えた。フォックスの発言、この言葉そのものに嘘は無いと感じている。しかし、心の底では別の理由でここで戦っているのではないか?と考えていた。
「成程...そういう事ですか、よく分かりました。わたくしたちはあなたの遊び相手なのですね。いいですよ!全力で遊びましょうか!」
「ほんと~!?やったー!!」
フォックスは嬉しそうに飛び跳ねた。
「しかしです!あなたの背中の装置が壊れたらやめですよ」
「いいよ~、礼兄ちゃんにも同じ事言われたしね~」
「そして一言いいですか?遊び相手はわたくし一人ではありませんよ」
零羅がフォックスに忠告した瞬間、フォックスの後ろに二人が回り込んだ。
「てりゃーーーー!!」
「ぬおおおおおお!!」
エルメスと麗沢が同時に攻撃を仕掛けた。
「遊び相手がこんなにもいる!わーい、やったぁ!!」
フォックスの喜びの舞で二人の攻撃は綺麗に避けられた。
「むぅ、また避けられたでござる...しかし、拙者今、どんな体勢になってるのでござるか?」
「またこけてひっくり返ってる。にしても良かった。もし今こけたのがサクラだったらまた衝突してたところだ」
エルメスは麗沢を転がし元に戻した。
「ふぅ、かたじけない。確かに先輩やたらとエルメス殿にぶつかるでござるからなぁ...今頃どうしているのでござろうか」
「想像する暇があるのなら、早く倒すよ」
「そうでござるな!」
二人は再び構えた。
「そんじゃ、いくよ~。とつげき~!」
フォックスは炎を全身に纏うようにして麗沢に突進した。
「先ほどの青い炎でなければ!」
麗沢もフライパンに炎を灯し、突撃する。
「てーい!!」
「ふおおお!」
炎と炎がぶつかり合い、互いに押し合っている。
「ぬ~...だったらこーだ!」
フォックスは体をひねらせ、麗沢の攻撃を受け流した。そして息を吸い、麗沢に向かって炎を吐いた。
「ぬお!?」
炎が麗沢を呑み込んだ。だが、
「さすがに私でもこれでギリギリ。これ以上の攻撃が来たら守り切れない」
麗沢の目の前にグレイシアが立ちはだかっていた。そしてその前方に氷の壁を張って防御していた。しかし、氷の壁は薄っぺらい今にも崩れそうな弱弱しい壁だった。
「かたじけないでござる。しかし、グレイシア殿の氷をここまで削るとは...」
麗沢は改めてフォックスがかなりの強敵である事を思い知らされた。
「フォックスは今まではレイが遊び相手だったから、手加減が分からない。だから簡単に人が即死する攻撃をしてくる。フォックスとの遊びは命がけという事を忘れないで」
「き...肝に銘ずるでござる」
麗沢は、再び同じミスをすれば今度こそ命がないと思い知った。