第2章 81.5話 奈落の底、王の底、異世界の底
「これなら!絶対に倒せますよね!!」
ファーへスト連峰貫通大橋での戦いの中、零羅はこの世界の支配者の三上 礼を巻き込み自分の命を顧みず橋から飛び降りた。
二千メートルを超える場所から飛び降りる、人間なら絶対に助からない。零羅はそう考えたいた。
「すごいね、まさか僕を巻き込んで飛び降りるなんてさ!」
「そうですよね!けど、これしかみんなを救う方法がありません!」
「確かにそうだね!これしかない!だけどまだだよ!落としただけじゃ僕は死なない!」
「そうですよね!だから今わたしはあなたの剣を掴んでいるんです!」
零羅は三上の持つ剣、流血光刃に炎の魔法を流した。魔法は逆流し、三上の腕を燃やした。
「お...と、これは、中々」
三上は少し汗をかいた。更に零羅は三上に抱きつく様にして三上の身動きを封じた。
「マジか...これじゃ、確かに動けないや...」
「あなたは絶対にここで倒します!それこそが今わたしが、わたくしが出来る最善の手段です!!」
零羅は三上を絶対に離そうとはしなかった。
「くそ...!」
零羅は無我夢中に三上を掴んでいる。三上はもがくが動けない。地面が徐々に近づいてきた。零羅は必死で目を瞑っていた。そして、いつの間にか気絶していた。だが、その手は緩んでいない。
「落ちながら気絶するなんてね...それに今、あの感じはまさか...やるか!!」
三上は地面に激突する直前、三上のもう一つの力を使った。見えない何かは、三上と零羅の体を上に吹き飛ばした。つまり、地面の衝突の衝撃を一気に抑え込んだのだ。
「うわ!」
三上は地面に落ちた。
「いてて、しりもち着いちゃった。にしても、今のはマジで危なかったなぁ。まさかここまでやるなんてねぇ...ま、僕も人の事言えないか」
三上は、気絶している零羅をどうにかどかして、横に寝かせた。
「う~ん、ちょっと寒いかな?焚火でもしよっかな」
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「んん...!」
零羅は目を覚ました。ズタボロのコートが布団の様にかけられ頭にはタオルが枕の様に置かれていた。
「あ、おはよ。よく眠れた?」
元気に零羅に呼びかけたのは三上だ。焚火の炎で目玉焼きを作っていた。
「なにを...しているのですか?」
「なにって、おなかが空いたから...パンだけはあったから、近くにちょうど野生の鶏がいてね、二つ産んでたからパクって来た。はいこれ、目玉焼きトースト」
三上は零羅に目玉焼きトーストを渡した。
「は...はぁ。ありがとうございます...じゃないです!この状況...つまり、わたくし、あなたを倒せなかったのですか...」
「あ、理解が早いね。確かに死ななかったけどさ、装置はちゃんと破壊してるよ。だからこの地区では君たちの勝ちだよ」
三上は自分の分の目玉焼きを焼き始めた。
「お聞きしてもよろしいでしょうか。何故あなたはわたくしを助けたのですか?」
「ん?だって死なれたら困るもん。ギリギリのラインで君達全員が中央地区に到達させる。それが僕の狙いだからね。あ、早くしないと冷めちゃうよ!」
三上は話を逸らし零羅にトーストを勧めた。零羅は少しかじった。
「あ...美味しい。それに半熟...」
「あ!半熟嫌だった?」
三上は少し慌てた様子で零羅に聞いた。
「いえ...半熟の目玉焼きは大好きです。しかし...綺麗に出来てますね」
「ありがと、零羅さん、半熟が好きかなと思って焼いたんだけど、良かったぁ」
「ますますわかりません。料理は人の心を写すものです。あなたのコレ、凄く優しい味がします」
零羅は困惑していた。この世界の国民を恐怖に陥れるような存在が、なぜこんなにも温かみのある料理が作れるのかと。
「あっはは、それは誤解だよ。僕はこう見えてグレイシアたちの父親だからね。家事が得意なだけだよ」
「そんな事ないと思います」
零羅はムスッとした顔で三上を睨んだ。
「あ、僕のもそろそろいいかな?ちなみに僕は中身が山吹色で真ん中だけがちょっと半熟の目玉焼きが好きなんだ...よし、出来た!いただきまーっす」
三上は元気にトーストを食べている。零羅も、三上を警戒しながら食べ続けた。
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「さてと、食べ終わったことだし...あー、どうしようかなぁ。ここからなら...」
三上は色々考えだした。
「そうだ!零羅さん!少し手合わせしない?」
「え?急になんですか?」
「いいからいいから、食後の運動って事でさ!」
三上は突然零羅に勝負を挑んだ。
「さぁ、かかってきていいよ」
零羅は構え、三上に攻撃を仕掛けた。三上は受け止める。零羅は連続して攻撃した。だが三上は捌くだけで攻撃してくる気配はない。零羅は、重たい一撃をぶつける為手に炎を纏い攻撃した。
「うわっとぉ!?」
零羅は、自分の放った魔法に自分自身が驚いた。炎の魔法を放ったつもりが、炎を纏った風が渦の様に三上に襲い掛かったのだ。
「今のは...もう一発!」
「結構!!」
三上は零羅の顔の前に手をかざし、制した。
「やっぱりね。零羅さん。どうやら君は覚醒できてるみたいだ。おめでと!」
三上は零羅に拍手を送る。
「覚醒...これが?」
「そうだよ。今は目覚めたばかりだからあんまり実感がないと思うけど、徐々に実感が出るよ。何というか...世界を理解できる感覚だね。
そうときたら、零羅さん!とりあえずファーへスト地区まで送るよ!今から行くとなると桜蘭君たちもそこに来てる頃だろうからさ!」
「で...ですが、ここからどうやって?」
「あ、この場所なら昔来た事があるんだ。一時間ぐらい歩けば道路に出るよ。そんでその近くに軍の車両置き場がある。僕はその車両たちのマスターキー持ってるからね。それで行くよ!」
零羅は三上についていき、そしてファーへスト地区の高速鉄道のとある駅で降ろされた。
「じゃ、僕は行くからさ。次の各駅停車で次の次の駅に行けば桜蘭君たちと合流できるよ。ディエゴは強いからね、苦戦してると思うから、手伝ってあげてね」
三上はそう言って立ち去ろうとした。
「あ!僕の事ちゃんと伝えておいてね~!中央地区にいるからさ~!」
少し振り返って零羅にそう呼びかけて三上は反対側のホームに向かって行った。