第2章 81話 追いつき、超えた者
「うをおおおおお!!」
俺は遠くから電撃の魔法を使い距離を取りながら戦う。近接戦は麗沢とエルメスが行く。グレイシアは俺のフォローをしてくれている。
「ふんふん、中々いい連携だ。隙が中々見当たらないねぇ」
シィズは戦ってないにしろ、四対一で俺たちは全くディエゴに攻撃を当てられない。グレイシアもかなり強烈な氷の魔法を使っているのに、ことごとくかわされ、むしろ俺たちが追い込まれ始めている。
「本気出すって言ってたけど、ここまで実力差が出てくるなんてね。さすがはこの世界最強の剣士ッスね」
「お褒めの言葉ありがとう。サカガミ サクラ君。だが、あんたたちも中々やるよ。俺の剣を相手した王は今位の時間には勝敗はついてたぞ?」
ディエゴと戦い始めてからもう完全に日が沈んでいる。今は午後七時ぐらいか?その間ずっと戦い続けていた。
「俺も、負ける訳にはいかないッスからね。でも不思議な気分ッスよ、正直言ってもう体はヘトヘトッス。だけども、あんたに勝ちたいっていう俺の感情が、俺の足を立たせてくれてるんスから、この世界に来て、成長という言葉が実感できたッスよ。昔の俺なら絶体音を上げてたッスね」
「はっはっは、正に物語の主人公のような事を言うんだねぇ。でもおれ、お前のような奴嫌いじゃないぞ。活気があって良い。楽しみに待った甲斐があったよ!!」
ディエゴは俺目がけて切りかかる。ディエゴの剣を何とか受け止めつつ、ほんの一瞬の隙を見つけて引き金を引く。
そして他のみんなの攻撃を頼りに何とか間合いを取った。
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「はぁ、はぁ、ほんと強いッスね。ディエゴさん...」
時刻は日付の変わる五分程前になっている。流石に俺も麗沢もエルメスも、そしてグレイシアもたっているのがやっとの状況だ。シィズは疲労した俺たちの回復をしてくれている。そのおかげで立てているんだが。
そしてディエゴは、まだ余裕を見せて立っている。
「さすがにここまで粘られるなんて考えてなかったよ。おれも大分疲労が出て来ちゃったね。今にも倒れたい気分だ」
「絶対に...倒したいんでね」
俺はそうは言ったが俺は焦りの感情が出てきた。このゲームの期日、それまではあと八時間程しかない。その八時間の間に更にもう一人リーダーを倒さなくちゃいけない、そう考えていた。
そのほか事を考えてしまった俺の隙を突かれ、攻撃を受けた。何とか直接の攻撃は防いだものの、俺は倒され、そして喉元に剣を突き付けられた。
「よそ見はいけないねぇ。もう時間がない。そんな事は分かってるさ。だけど問題ないのさ。安心しなよ、別に殺しはしない、あんたたちがちょっと眠ってればすぐに全部終わる、かもだからな。
結局のところ、原爆って王以外、誰も存在を知らないんだよね。おれが思うのは原爆は、ハッタリだ。お前たちが世界を救う為に動かすための口実に過ぎないって考えてる。だからさ、多分、明日目を覚ます頃には何もかも終わってるはずだ。ここまでご苦労さん」
ディエゴは、剣を振り上げた。ここまで来て負けか...にしても、核の話がハッタリだったなんて、でもそうだよな。三上はただの一般人だった。そんな奴が核兵器を造れるなんて有り得ない話だったんだ。まんまと騙されたな...
俺は負けを認めた。色んなことがあったけど、自分でもよくここまで頑張れたと思うよ。こんな終わり方だけど、俺は十分成長出来たんじゃないかな。明日からは元の世界に戻る方法を探したりしようかな。あ、そうだ。この世界の観光もしたいなぁ。
俺は明日の事を考え、目を閉じた。このゲームはここで終わり...かぁ
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なんだ?なんで気絶しないんだ?どうなって...
俺はちょっと目を開けた。
「ふぅ、やっと追いつきました」
この声、まさか、あり得ないだろそんな事。
「サクラさん、この世界に核は存在します。このゲームはまだ終わりじゃありません。だから、立って下さい」
俺の目の前でディエゴの剣を素手で掴んで止めている一人の少女、その子は俺に呼びかけた。
「れ...零羅?」
俺はその子の名前を恐る恐る呼んだ。そしてその子は振り返り、俺に向けて笑顔を向けた。
「はい!地獄の底から舞い戻ったぞ!って言うやつです!」
ディエゴは剣を戻し距離を取った。
「カミワズミ レイラさん。まさか、生きていたとはね...」
ディエゴも驚きの表情をしていた。俺は周りを確かめた、やっぱりみんなも驚きが隠せないみたいだ。
「あなたが生きているという事は...まさか王も!」
「はい、まだ生きています。三上 礼さんは、まだこの世にいます」
そうか、零羅が生きていた。だとしたら奴も絶対生きてるはずだ。
俺は何故だか少しほっとした。あの決着の付け方は俺にとって納得がいかなかったからだ。あいつが生きてるのなら、今度こそ俺が倒したい。俺はそう願い、再び立ち上がった。
「一人増えたところで、おれは一向にかまわないぞ。カミワズミ レイラさん」
俺は構えた。だが、零羅は俺を制止した。
「サクラさん、そして皆さんも下がっててください。まずはわたくしが戦います」
零羅は一人で戦うと宣言した。
「ちょ!いきなり何言ってんスか!あいつの実力は並大抵の奴じゃないんスよ!?」
「分かっています。だからこそ、わたくしも全力を出せるのです。わたくし、強くなっちゃいましたから」
また零羅はニコッと笑った。俺は少し恐怖を感じた。
「一対一を申しこむなんてね、おれは構わないんだが、いいのか?」
「はい、わたくしの実力を確かめたいだけですので、それに一対一ではありません、今は手出ししないで下さいと言っただけです」
「ふんふん、変わってるが...それで構わない、じゃ、かかってきな」
ディエゴは剣を構えた。そして零羅は左足で地面を少し二回ほど蹴った。そして三回目蹴ろうとした瞬間に零羅は俺の目の前から消えた。
『ガイィン!!』
俺がディエゴに視線が行くより前に零羅はディエゴを攻撃していた。何とか零羅の拳を防いでいたが、衝撃で後ろに押し出されていた。
「な!なに!」
「まだです!」
零羅はいつの間にか、両手足に炎神を装着していた。そして回し蹴りをディエゴにお見舞いした。これもまたディエゴはかわしたが、ディエゴの後ろの地面が吹き飛んだ。
「うわ~、もろに喰らったらヤバいな。だが、今の魔法、まさかな...」
ディエゴの表情は険しくなった。余裕がなくなったようだ。
「まだだ...来い」
ディエゴは零羅を煽った。零羅は、ゆっくりと動き、再び消えた。
「ここだ!」
ディエゴは思い切り剣を振った。その振った先に零羅の拳がある。
「早いのはいいが、早すぎると動きは直線になりやすい。そこにならタイミングを合わせれる。さぁ次はどんな手を使う?だけど、凄い衝撃だな、手がしびれる」
「お褒めの言葉どうもです。では、これはどうですか!」
零羅は、ディエゴの剣を下に払い、零羅の体は空中で一回転した。
「うわ!」
強烈なかかと落としがディエゴに襲い掛かった。ディエゴは横に避けた。
「やはり、間違いない。コンクリートが溶けた...これは溶岩の魔法だ。カミワズミ レイラさん。あなたは覚醒しているね」
零羅は何も言わず、少し頷くだけだった。