第2章 79話 勝利をもたらすは、戦いの中で芽生えた乙女心
「読めたッスよ...あんたの攻撃、次は何の魔法で来るのか...」
「ほお、中々観ている様だな。観察は戦いの中でかなり重要だ。相手の情報を知れば知るほど自分に有利になるように考えることができる。流石に銃弾に秘密がある事はバレたようだな」
「あ。正解どうもありがとうッス」
「礼には及ばぬ、わざと教えたまでよ」
なるほどね、簡単に分かる訳だ。ナターシャはわざと俺に向けて銃弾をリロードしたんだな。秘密無しの正々堂々と勝負という訳か...嫌いじゃないなそういうの。
「では...行くぞ!!」
ナターシャは、銃を一旦下げた。そして猛スピードで俺に突進してきた。
「なっ!?」
俺はナターシャの強烈なタックルを避けた。俺の戦い方から近接戦にシフトチェンジしたんだ。俺は至近距離の攻撃に弱い。そこを狙うのは確かに妥当だな。
俺は何とかナターシャの攻撃を避ける。スピードは零羅や三上程じゃないが、繰り出す拳の一撃は軽く振ってもレンガの壁に穴が空くレベルだ。そんな攻撃を数秒に何発も打って来る。隙を見て攻撃に移ろうにもナターシャが持っている銃のストック部分で俺の銃をはじき攻撃が外される。
ちくしょ~、攻撃のタイミングが見えない。流石に場数が違うか...こいつはいかにも歴戦の猛者って感じだからな。こうなったら一旦間合いを取って...
俺が一瞬間合いを取ろうと考え、ナターシャから目線がずれた。そこの隙をナターシャは見逃さず瞬時に次弾装填し、俺に発射した。
「うわわっわ!」
焦って防いだが、銃と手元が凍り付いてしまった。これじゃ溶けるまで引き金が引けない。
「吾輩相手に、間合いを取ろうと考えるのはよした方が良いぞ、サカガミ サクラ。今の様に隙を突かれることになる。さて、そろそろ決着をつけようか、その状態では魔法は使えまい」
ナターシャは空薬莢を排莢し、今度は俺にどの弾を入れたか分からない位置でリロードした。何発入れたのか、どの弾を入れたのか分からない。
落ち着け...相手の思考になって考えるんだ。俺の手は塞がって魔法は使えない。次はどこを封じるか...だったら足だ!!
ナターシャは引き金を引いた。俺は横に避けた。俺がいた位置の地面は凹んでいる。やはりそういう攻撃で来たか...
次弾装填にはほんのちょっと時間がある。せめて一緒にくっついてる左手だけでも外せれば!そっちの手で魔法が使える!
あれ?でもこの塞がってる手で魔法は使えないことないんじゃないか?普通に炎を出せば溶かせ...ない!氷に覆われていると魔法が使えない!
「隙を見せるな。吾輩を落胆させるな!」
ナターシャは次の弾を発射した。風の魔法だ。ガードしきれない!俺は壁に打ちつけられた。
いたた...俺は辛うじて立っている。だが、結構なダメージだ。次は避けれないだろう。だが、今の衝撃で左手は離れた。左手だけは使える。
こうなったら、イチかバチかあいつに突進だ。直接胸ポケットに電撃を送り込む銃を使わなければ、俺の魔法の殺傷力はかなり低くなる。
行くぞ、見切って、直接だ...俺は走った。次弾装填、次は...水だ!俺は体を思いっきり沈みこませ水の塊を避ける。俺は走り続ける。再び装填された、電撃だ。俺は左手を前に出し電気の魔法を左手に纏った。防ぎきる事は出来なかった。手が少し火傷した。だが、手の電撃の魔法はまだ消えていない。俺は無我夢中に突進した。
「なんだと!」
俺は左手を突き出した。だが、ナターシャの目の前で俺の手は止まってしまった。
「中々いい判断の攻撃だった。吾輩の撃つ弾を予測し避ける。その判断力は評価するだが、吾輩自身の事を軽んじたな」
俺はナターシャに片手で頭を掴まれぷらーんっと宙に浮いている。片手で十八歳持ち上げるとかありかよ......こうなったら、卑怯な手だけど、ここを狙うしかない!!
俺は、少し自分に罪悪感を抱きつつも、最悪の手を使った。
俺は、ナターシャの股間を蹴り上げた。
「ん゛んっ!!」
どうだ!股間は男なら誰もが急所だ!今だ!突撃ぃーーー!!
俺は再び左手に電撃を纏って、ナターシャの胸あたりにに手を伸ばし、その勢いのまま突っ込んでナターシャを押し倒した。
「おりゃああああ!」
「あっ...あふ」
電撃を纏った俺の手は、ナターシャの胸ポケットに入ってる装置を射止めた。よっしゃ勝った!逆転勝利だ!!あれ?でもなんだか違和感が...
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俺は勝てた。装置を破壊することに成功している...なのに、この冷ややかな目線は何だ?
「サクラ...あんた...ねぇ」
エルメスの顔が引きつってる。え?
「さすがに、それは人としてどうかと思うでござる」
麗沢も、少し引いた顔だ。あれ?
「意外ねぇ。サクラ君、こんな積極的だったなんて」
シィズは少し顔を赤らめている。まさか?
「おもしろいね」
グレイシアは...無表情だ。よく分からん。何が面白かったんだ?
俺は、左手を見る。ナターシャがいる。その右の胸あたりに俺の左手がある。少し動かす...
「んあ...っ!」
ナターシャから、変な声が聞こえた。よく触ると...あれ?固くない...むしろ、少し柔らかい気が...
「あのさみんな...聞いてもいいッスか?あのさ...ナターシャってさ...」
俺はそれ以上言うのが恐ろしくなった。俺の中では既に答えが出ているのに、それを質問するのも、答えを知るのも怖くなった。
「ナターシャは、女の子だよ」
平然とグレイシアが俺の心にとどめをさしに来た。ナターシャは女。女?女性?これが?この巨体が女の人?
「お前のような女がいるかあああぁぁぁぁぁ!!」
俺は壊れた。現実が理解できない。夢であってくれ。すごい失礼なこと言ってるけど、こんな事ありえない。この筋肉の塊が女の人だなんて、俺は認めないぞ!!絶対夢だ!目が覚めてほんとのナターシャと戦うんだ!!
「先輩...さすがに失礼ではなかろうか...」
「いやいやいやいや!!ないない!!それはないはずであってくれ!!お願いだから!一万円くらいなら出すから!」
俺はナターシャから飛び退いた。俺は壁に張り付いて動けなくなった。
ナターシャは顔が赤い。そして固まっている。
「今のは...吾輩から出た声なのか?」
俺はナターシャと目が合った。
「......何故だ!お主を直視できぬ!吾輩の身に何が起きたというのだぁ!!」
ナターシャは顔を覆うようにして俺から目を逸らす。そして首だけを使って跳ね起きた。
「こ...ここでの戦闘は、おぬしらの勝利という事にしておこう...では、お暇させていただく!!」
ナターシャは顔を覆ったまま、そのまま逃げだしてしまった。
「あ...あの!」
俺は、何とか弁護しようと呼び止めたが、猛スピードでこの場を去った。去り際に
「この感情はなんだーーーーー!?」と、叫んでいた。
俺は立ち尽くしていた。
「サクラ君...これは、惚れられたわね」
シィズが余計な事を言う。
「いやいや!」
「はぁ!?」
俺は率直に否定した。ほぼ同時エルメスがなぜか反応した。
「いいかもよ?ナターシャはこの国の大手企業の娘さんなんだから。アメジストセージ製作所は、この国の軍事技術の最先端を行く会社。そこに婿入りともなれば大金持ちよサクラくぅん」
冗談言わんでくれ!それにその喋り方なんだよ!しばらく出番がなかったからって出しゃばりやがって!!
「いやいやいや!あの流れでそれはないっしょ!」
「そうよ!いくら何でもそれはない!あれは只サクラがナターシャを男と勘違いしてただけだよ!そこからけ...けけ結婚にはならないって!!」
なぜかエルメスは俺のフォローをしてくれた。
「あぁ、エルメス。ありがとうッス!」
とりあえず俺の味方してくれるのならありがとう!
「勘違いしないでよ!別にあんたが困ってるから助け船出したわけじゃないんだからね!!」
今度は叱られた。しょぼん...
「エルメス殿...中々、ツンデレが板についてきたでござるなぁ」
麗沢が何か言ったがよく聞こえなかった。
そんな中、ジョシュから連絡が入った。俺は気持ちを何とか切り替え、応答した。
『あ!サクラ君?ナターシャとの戦いはどうなった?』
俺はとりあえず勝ったとだけ伝えた。
『おお!それはおめでとう!あと二つの地区だね頑張って!そんでもってファーへスト地区のリーダーは何とか分かったんだ。睨んだ通り、ディエゴ アンダーソンだ。でも中央地区は全然分からなかったんだ。ごめんよ。う~ん、ディエゴよりも中央地区を守るに向いてる人物...見当がつかないなぁ』
「いや、多分ディエゴを倒せば分かるはずッスよ。情報ありがとうッス」
俺はジョシュにもう少し詳しい情報を教えてもらって通信を切った。
「次のファーへスト地区のリーダーはディエゴ アンダーソンさんらしいッス。そんでもって一番早く行ける方法は、そこの高速鉄道で中央行きに乗って途中の新ハシダナ駅で降りればそこの近くにいるらしッス」
俺は次の地区の事をみんなに伝えた。
「ディエゴ...やはり来たわね」
シィズは難しい顔をした。やっぱり強いのかな。ナターシャもアレがなければすさまじく強かった。ディエゴはそれ以上の実力なのかな。確か剣術は三上よりも上だって言ってたっけ。
「ディエゴ...知ってるんスか?」
「一応私は昔、王国軍所属だったのよ、その時の同期なのよね」
ふーん。この人、元軍人だったのか。そういえば前、レオナルドとの戦いの時、荒々しい戦い方してたけど、あれはその時の名残なのかな?
「ん?じゃあ、中央は誰になるのよ。あいつ以外で中央を担当できそうな奴っていたっけ?」
エルメスは少し考えていた。
「レイに匹敵する強さを持つ存在...いるとしたら、フォックスしかいない」
グレイシアは俺にだけに聞こえるように言ったみたいだ。フォックス?グレイシア以外誰も予想していないけど、どんな奴なんだ?グレイシアが評価してる奴なんて、もしかしたら相当ヤバい奴なのかも...
「よし!今考えても意味ないわね!目的地は新ハシダナ!それじゃ行こう!!」
シィズは元気よく先陣を切った。
ゲーム終了まで、あと二十一時間。