第2章 78話 北の大地に待つ者
朝になった。時刻は午前七時四十分。とっくに始発が出ているので駅長たちは既に仕事をしている。俺は身支度を整えた。
「さてと、八時に来るんなら、出待ちしますか!」
俺たちは駅の改札付近に向かった。
「なんだか...今まで敵を探して行動してたからかな、逆に待つってなると少し緊張するな」
「試合開始前みたいな気分でござるなぁ」
待っている時の五分ってかなり長く感じる。
あと、時刻まで後一分だ。さて、どんな奴なんだろ?
時刻は八時になった。あれ?見当たらないぞ?デカいからすぐわかるって言ってたのに、それに時間は絶対守るって...風邪でもひいたのか?俺がそんな事を考えていた時、後ろから声がかけられた。
「サカガミ サクラ」
「はい?」
俺は呼ばれて振り返った。俺の目の前になんだか黒い筒がある。俺は瞬時に何なのか理解できた。
「じゅうこおおおおおおおおお!?」
俺の目の前には銃口が突き付けられていた。驚いたのと、避けなきゃ!と同時に考えたので俺はそのままのけぞりながら後ろに倒れた。そしてブリッジの体勢になってしまった。
俺が倒れると同時に銃口から火が吹いた。
「ふむ、避けたな。中々やるようだ」
誰かが俺に話しかけている。こいつがナターシャだろう。だけどこの体勢じゃ顔が見えない。というか、元の体勢に戻りたいのに戻れなくなった。誰か助けて。
「だが、次は避けれまい」
ヤベ!また撃つ気だ!俺は体を横に持っていこうとするが、どこにどう力が加われば体が動くのか分からなくなっている。全く動けない。そんなとき俺は横から思いっきり蹴飛ばされた。
「うへっ!!」
いたたたたあ...脇腹を蹴る事ないだろ、っていうか、蹴ったのって...
俺は何とか立ち上がって正面を見た。やっぱりグレイシアだ。あの蹴り方。無表情で無慈悲な事しやがってぇ...俺を助ける為に蹴ったのは良いんだけど、もうちょっと優しく出来ないの?俺は心底願った。
「相変わらず、どこからともなく時間通りに現れるね」
「全く、一体いつもどこから現れるのかねあんたは...それにその無愛想な感じ、いきなり現れていきなり銃をぶっぱなすのってどうよ?」
エルメスとグレイシアは誰かに話している。えっと誰に向かって話してるんだ?というか、ナターシャはどこなんだ?俺はふと見上げた。視線を落とした。
いやいやいや、ないない。あれはない。俺は麗沢を見る、上を見上げて放心していた。
「それは済まなかった。では自己紹介しよう、吾輩の名はナターシャ アメジストセージ。コールド地区のリーダーを仰せつかっている。現在の我が任務は一つ。王に仇名すものの抹殺である。これでよろしいか?」
「よろしくないけど、まあいいわ」
上の方から声が聞こえる。やっぱりコレなのか。エルメスもこの壁みたいのに話しかけてるし...俺は再びゆっくり見上げた。人間の顔があるなぁ...って、
「これ人間なの!?」
俺は思わず叫んだ。結構失礼だとあとで後悔した。でも、この人デカすぎでしょ!?体はこれ筋肉の壁だよ!筋肉モリモリマッチョマンだよ!あの終焉の機械だよ!持ってる銃もこれってあのクルンって回して装填してたやつだよ!あの装填は壊れるからみんなはやらないようにね!!
俺はナターシャのあまりの大きさに訳が分からなくなった。
「サクラ...あんたも失礼な事言うね。ま、初対面だとしばらく壁って思う人もいるからね...仕方ないか」
「吾輩は別に構わない。既に慣れておる。では、早速だが、戦いを始めよう。吾輩の持つ発信機は胸ポケットに入れてある。おぬしらはこれを破壊すればよいのだろう?ではゆくぞ!」
俺は気持ちを切り替えた。発信機の場所を理解できた。よし...行くぞ。
ナターシャは持っている銃のレバーを上に撥ね上げて次弾を装填し、銃口を真っ直ぐ俺に向ける。こいつの装弾数はいくつだ?さっき二発撃った。まだあるはずだ。まずは避けよう...今だ!!
俺も流石にスイッチが入った。俺の目は引き金を引く瞬間を見逃さず、どこに向けて発射されるか予測し、避けた。
「お?この銃弾スラッグ弾でござるな」
麗沢がなんか言ってる。
「なんスかそれ」
「簡単に言えば、スラッグ弾っていうのは通常の散弾と違って拡散しない一発の大きい弾でござる」
「へ~」
成程...逆に散弾使われてたら多分当たってたな、あぶねぇ。そうとわかれば!!俺は銃弾を避け続けた。五発目...六発!
ナターシャは六発の銃弾を発射後、銃のレバーを開けたまま、ポケットに手を入れた。リロードタイムだ!今がチャンス!一気に攻める!!
俺は攻撃に移った。電撃をナターシャに向けて放った。あいつには防御する術がない、いくらあいつが鍛えていたとしても、俺の目的は装置だ。それを破壊すれば勝てる!
と、俺はそう算段していたのだが、俺の予想を上回る出来事が起きた。ナターシャは一発だけ装填し引き金を引いた。今の俺の魔法の威力なら銃弾を落として、更にそれを突き破る程度なら出来る。だが、ナターシャの撃ったのは銃弾じゃなかった。一瞬ナターシャの持つ銃の銃口に小さなスパークが発生し、その直後電撃が発射された。俺は身の危険を即座に感じ、横に風の魔法を放ち強引に体を避けさせた。
「ちょ...ナターシャって魔法使えるのかよ...」
話が違うぞ、魔法を使える者の苗字はこの世界では決められているはずだ。電気の魔法ならムゥの苗字を持つはず...こいつの苗字はアメジストセージ...どういう事だ?
「瞬時に吾輩の攻撃の違いに気付いたか。ここまで進んできたことはある。だが、これについては理解できなかったであろう?答えを知りたければ、吾輩を打ち破ってみせよ!」
ナターシャはレバーを下げ排莢し、新たに五発の銃弾を入れた。なんだ?さっきの銃弾と薬莢の色が違う。青、黄、水、茶、赤。この順番で入れた。何か意味がありそうな気がして、俺は記憶にとどめておいた。そして再びナターシャは引き金を引いた。
「なっ!今度は炎!?」
俺は瞬時にブレードを取り付け、放たれた炎の玉を切り裂いた。レバーを下げ次弾を装填。構える前に攻撃だ!
「ふん!」
ナターシャは地面に向かって撃った。今度は土が盛り上がり、壁を作り俺の攻撃を防いだ。俺が土の壁に少しもたついてる間に次弾が装填され、今度は俺に向かって発射された。本物の銃弾なら弾けたのに、撃たれたのは水の塊だった。俺はブレードでガードしたが、衝撃がすさまじかったので後ろに吹き飛ばされた。
今ので少し間合いが取れた。俺は少し考える。何故この世界の住人がいくつも魔法が使えるのか、あいつは実は俺たちと同じなのか?いや、それは考えにくいな...だとしたら...あの薬きょうが特別なのか......最初に撃ったのは炎、次は土、そして水の魔法。あ!!
俺は気が付けた。ナターシャは装填したショットシェルの色で魔法を使い分けているんだ!やはり銃弾に秘密があるんだ。だとしたら最初に入れたのは青で、次は黄色。逆になってるみたいだから。次は黄色のシェルだ。黄色なら恐らく、電気だ。
俺はその場で銃口をナターシャに向け、引き金を引いた。撃ったのは電気の魔法だ。そしてナターシャも撃ち返した。電気の魔法だ。
やっぱりそうだ。ナターシャの持ってる銃弾には魔法が入った銃弾がある。それをうまく使い分けて戦っているんだ。
全ての魔法を使う存在か...厄介だな。それに見た目に反して動きも素早い。それにあの体格だ。近接戦も厄介だろう...上手く弱点を見つけないと勝てないな。
次は青、恐らく、氷の魔法を使う気だ。何か...対策を考えるか。