第2章 73話 巨大橋の決戦 その1
俺は、次の地区に向かうタクシーの中で考え事をしていた。ランディが故郷に帰ると言っていたのに、帰っていない。俺は思い返した。そういえば、各地区のリーダーは俺たちが去った後どこに向かったんだろう、俺はそんな事を考えていた。
俺たちは道中にあったレストランに入った。店の雰囲気は、どことなくダイナーみたいな印象を受ける。カウンター席にボックス席が少々、そして、『スペシャルセット』的な内容がよく分からないメニューが書かれている。俺たちは適当に席につき注文した。因みに俺はジャンバラヤを頼んだ。あの時食べて以来ちょくちょく頼んでいたりする。妙にこの味にはまった。
料理が来る間、俺は外を眺めていた。今日の天気は曇り、晴れた日で条件が整えば雲海が見える場所らしい。今は雲が分厚くてここまで霧まみれだ。晴れた景色見たかったな...
「え゛っ!?」
カウンター席で新聞を読んでいた客が、突然大声を出して立ち上がった。
「んあ?どうした?」
店員が、少しやる気なさそうに出てきた。
「いや、あのさ、今日の朝刊のコレ!これ見てよ!アイドルグループ『爆破部隊』のメンバー、シャルロット レッドローズ、行方不明って」
「なに!?」
俺は思わず叫び、その客の元に向かった。店員も仕事そっちのけでその記事を横からみた。シャルロットって、あのシャルロットだよな...行方不明ってどういう事だ?
「えっと、記事によると?爆破部隊は現在、全国ツアー中だが、急遽それが中止になる事を事務所が発表した。原因はメンバーの体調不良となっているが、実際のところはシャルロットが突然いなくなったことが原因であるという情報を入手した。引き続き取材を続け、真相を確かめる次第である...か」
「なんだ、まだ曖昧な情報なのかよ...でも、これが事実だったらどうしよう、俺あの子のファンなのに!」
店員はおどおどした。
「いやいや、どうせガセネタだって。本当だったらもっとでっかく記事になってるはずだろ?俺も焦ったけどさ、大丈夫大丈夫」
客は店員をなだめている。確かに普通ならこんな不確かな記事、気にするまでもない。だが、俺は真剣にこの記事の事を考えた。ランディの件と、この件、何かある気がする。なんだ?寒気がする...そんな中、料理は運ばれてきた。うん、この辛さだ。美味しい。
「ごちそうさまでした」
俺たちは食事を済ませ、料金を払い、外に出た。シャルロット...そういえばあの手紙、まだ読んでなかったな。俺は前にシャルロットからもらい、一人で読むように書かれた手紙を言われた通り、誰も居ない草原が広がっている所に座って読んだ。辺りは霧まみれだし、このあたりでいいよね。遠くに行き過ぎたら迷いそうだし...
俺は手紙を読んだ...この手紙に書かれてい事、今の俺では理解できなかった。この言葉は、俺に向けてなのか...
『この世界では、誰も信用してはいけない』
俺は少し体を動かし再びタクシーに乗り込んだ。
「あ、この先にある橋、この世界で一番大きくて一番標高の高い所に作られた橋なんだよ。全長は約六十八キロ、そして標高は最大で二千三百八十メートルだ。晴れた日の景色は今なら下には雲海、そして連峰の雪山を眺めながら行けるんだけど、今日はひたすら霧の中になりそうなんだよね」
「へぇ~、見てみたいッスね、全長が六十キロってどんな橋だよ...」
そんな話を聞いたら興味が出てきた。馬鹿ってのは一番高いとか、一番長いとかいうのが大好きなんだよ。あ~、途中で晴れないかなぁ。
そしてタクシーは、その橋に到着した。入口には料金所があり『ファーへスト連峰貫通大橋』と書かれた看板がある。高速道路みたいだな。今日は霧がかってるからか、道路標識に制限速度が七十キロとなっていた。
「お~!なんも見えねぇけど、下も何にも見えないッス!!雲の中にいるみたいッスね!」
「すべてが終わったらまた来てみたい所でござるなぁ。先ほどパンフレットを見かけたでござるが、晴れた日のここはさぞ絶景なのであろうなぁ」
「あ、わたしパンフレットもらってきました。レジの横に置いてあったので...」
あ、そんなパンフレットあったのか、零羅は何枚か持ってきていたので俺はそのうちの一部をもらった。そんなとき、ジョシュから連絡が来たみたいだ。
あ、そうか。エンリコを倒したことになるから、次の地区のリーダーの情報が手に入ったのかな
俺は、ジョシュと通信を始めた。
『あ、サクラさん?次の東ファーへスト地区なんですけど、どうにもよく居場所の情報が入ってこないんですよ』
え...じゃあ虱潰しになるの?
「あ~、分からないんじゃ仕方ないッスね、心当たりというか何かいそうだなってところはないんスか?」
「う~ん...あそこは白針の洞窟周辺以外これといって人が済むところはないですからねぇ。基本、貫通大橋使ってどこか行くための中継地みたいなもんですから......あれ?あ!サクラさん情報来ました!リーダーが誰かは分からないんですけど、場所は東ファーへスト側の貫通大橋入口らしいです!サクラさんは今どちらに?」
「ついさっき、ケーブ地区側の入り口から橋に入ったところッス。この橋の全長から考えると、一時間半位で向こうに着くんじゃないッスか?」
「そうですか...気を付けて下さいね。相手が分からないって結構怖いですから」
「そうッスね、ありがとうございます」
俺は通信を切った。そして外を見る、う~む、何だろうかこの胸騒ぎ、落ち着かないなぁ。あ、サムにも連絡入れなきゃな...ありゃ?出ないや、今朝ごはんでも食べてるのかなぁ、時間的にもそん位だし...
そんな事を考えながら、霧の中をタクシーは走った。
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「変だなぁ...」
橋に入って四十分くらいで運転手が疑問の声を上げた。
「どうかしたんスか?」
「いや、対向車を全く見かけないなぁって思ってね、ここの道、結構交通量はあるんですけどね、まだ朝早いからかなと思ってたけど、今はもう八時過ぎたから、そろそろ車が沢山通ってもいいんじゃないかなぁって」
胸騒ぎがより激しくなった。何なんだよ、別にこういう日だってあるはずだろ、何をそんなに心配してんだ俺...
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「誰も信用するな...かぁ」
俺は小さな声でつぶやいた。
「ん?なに言ったでござる?」
隣で麗沢が聞いてきた。聞こえない声で言ったつもりだったのに...
「別にな~んも、あ、ジョシュからまた連絡だ」
ジョシュから再び連絡が入った、なんだ?慌ただしいみたいだけど...
「ねぇサクラ君、さっき、どこ走ってるって言ってた?」
「ん?あの大橋に差し掛かった所って...今は...三分の二くらい進んだ所みたいッスね...」
「マズイ...だめだ!今すぐ引き返すんだ!!」
え!?どういう事!?
「な...何かあったんスか!?」
「これは罠だ!!その地区のリーダーは!!」
ジョシュがこの地区のリーダーの名を言おうとした瞬間、タクシーは急ブレーキをかけた。
「うわっ!!」「ぬお!!」
「きゃあ!!」「わわ!!」
「なんで...ここに奴がいるんだ?」
運転手は怯えた声でつぶやいた。俺は前方を見た。誰も走ってこなかった反対車線に一つだけヘッドランプが灯されたバイクが確認できた。そしてその近く、中央分離帯に誰かが座っている。俺はこいつが誰か知っている。ボロボロになったコート、それを着るのはそんな年季の入ったコートなんて全く似合わない少年だ。
「三上...礼!!」
まさか、東ファーへスト地区のリーダーは...こいつなのか?