第1章 8話 異世界の勇者 その1
僕たちは鎮火するまで、広場で待たされることになった。 しばらくしていると、
「おーい、大丈夫でしたか?」
と声が聞こえてきた。僕は、声のした方を見ると、地区長のアンドリューがこちらに向かってくるのが見えた。アンドリューが僕の前まで来ると、いきなり色々しゃべりだした。
「いや~、心配しました。あなたを見送った後しばらくしてから、あなたの家のほうで火災が起きたと聞きまして。ですが無事で何よりでした。あなたの家ももう一度手配いたします。本当に申し訳ございません」
相変わらず、ニコニコした目をしながら僕に何度も頭を下げてきた。
「そんな頭を下げないでくださいよ。火事なんて偶然起きてしまったことなんですから」
僕が言うと、アンドリューが僕の足元を見て
「おや?その子は確か、この付近でダストと呼ばれている子でしたよね?仲良くなられたんですか?我々も、保護をしようとしていたのですが、反撃されてしまいまして、良かったです。あなたに保護されていたんですね。この子は、両親がいないものですから、逃げ遅れているのではないかと思いました」
僕は、アンドリューの話を聞いていたら、次に彼が口にした言葉で、僕の予想はほぼ的中したようなものだった。
「では、その子は我々が預かります。この子も教育を受けてもらいたいので、とりあえず孤児院に連れていきます」
成程ね、そうだ...
「そうですね、まだ子供ですから教育は、しっかり受けないといけません。分かりました。あなた方にこの子を預けます。よろしくお願いします」
僕の言葉に彼女は、まるで裏切られたかのような顔をしている。僕はしゃがみ彼女に小声で話した。
「僕を信じて、あいつでしょ君を殺そうとしてるのは。だから僕は、あいつを社会的に殺してやる。だから一旦君は、僕に合わせてついて行ってあげて。僕は後ろからこっそりついてって、証拠をとって、みんなの前に出すから。僕もかなりのひねくれ者でしょ?」
僕は、笑いながら彼女に言った。彼女はうなずき、すごくぎこちない笑顔を作ってついて行った。
(無理に表情を作らなくても)と思ったが。そんなことはおいておき僕は、ビーンにも同じことを伝えた。
「分かった。なんかでかくなってきたな。まさか区長がねぇ」
と言って、僕達は、遠くからつけていった。
つけていると、アンドリューは、近くにあった細い路地に入った。僕は、周りに不審がられないよう、一つ手前の路地に入った。
「おい、どこ行くあの子は、あっちの路地だぜ」
とビーンが慌てて言ってきた。当然だが。
「分かってますよ。だからここを通っているんです。あの路地は、多分見張られています。だとしたらこの裏口を使えばいいんです、反対の路地まで出るはずですから」
僕は、彼女を探しているとき、ある程度地図が頭に入っていた。この様な細い路地には扉があり、その中は民家で、反対側の路地まで通じていた。
「でもよ 鍵かかってねぇか?この扉」
とビーンは言ってくる。
「多分それはないですよ。さっきの火事でこの路地から避難している人を見かけましたから」
僕は、そう言ってドアを開けた。普通に開いた。
「あんた、頭がいいのか、人間観察が得意なのか」
ビーンは困惑していた。
「ただひねくれているだけですよ。人間ですから。とりあえず行きますよ。泥棒みたいで気が引けますけど」
僕たちは、こっそり入っていった。
反対の扉まで行くと声が聞こえてきた。
「お前は どうしてここにいると思う?お前はこの町のゴミだからだ、ハウスダストならぬタウンダストってな。お前のおかげで、周りの住人達はすごく迷惑にしている。おまえを見ただけで凍りそうってな。だからお前を処分するつもりだったんだ。あの火事で、あの避難民もろともな」
声の主は、声からしてアンドリューだろう。急にビーンが立ち上がり扉に手をかけたが僕はそれを止めた。
「何で止めんだよ、あいつを放っておくのか?」
「放っておくつもりは、ありませんよ。ただ、彼がどうして僕も殺そうとしているのか気になるんです」
そう言うとビーンは黙り再びしゃがんだ。
「大体、今になって避難民とは怪しすぎる。敵国の回し者かもしれん。あんな奴生かしておくわけにもいかん。お前は、あの避難民と仲がいいようだったな。喜べ。あいつも後でお前の後を追うからな」
僕はとっさに立ち上がり、何食わぬ顔で扉を開けた。
扉を開けると彼女とアンドリュー、そして見知らぬ男がいて、男は彼女の腕をつかんでいた。
「あれ?区長さん。こんなとこで何やってるんですか?」
僕は、頭に?を浮かべるように聞いた。アンドリューは一瞬、驚愕した顔をしたが、またあのニコニコ顔になった。
「いや~すいません。急にこの子が暴れまして、ちょっと手を焼いていたものでして、ですがあなたもどうしてここに?」
アンドリューは、かなり困惑している様だ。
「さぁ、なんででしょうね。答えを知ってしまったからですかね」僕は、ニコニコして答えた。
僕が答えたときには、アンドリューの顔が笑っていなかった。