第2章 69.5話 消えし者、覚悟せし者、真実に向かう者
桜蘭達が旅立ち 夜になった。月が雲に隠れている。
サムは兄、ジョニーと仲良く同じ病室に隣り合わせで寝かされている。消灯時間が過ぎたが、二人はまだ起きている。因みにサムは窓側でジョニーは通路側だ。
「なあ、サム。お前は死ぬのって怖いか?」
突拍子もないことをジョニーはサムに質問した。
「急にどうした? 質問に意図は分からないが、私は警察だ。だが反逆者達の人間でもある。国民を守る存在であり、国家に仇名す存在でもある。殺される覚悟は常にしているさ」
「そうか...なら良かった。いいか?恐れんなよ?」
サムは、何を思ってジョニーがそんなアドバイスをしているのか理解できない。
急に外から風が流れ込んできた。閉まっていたはずの窓が突然開いたのだ。サムは、急な事でそっちに視線を送った直後、背後から凄まじい殺気を感じ、そして少し暖かい水のような物がサムの首筋に飛んできた。
「ジ...ジョニー?」
サムはジョニーの名前を呼んだが、返事は返ってこない。サムはゆっくりと慎重に振り返った。暗くてよく見えない。ジョニーのいるベッドの横に、誰かが立っている。部屋が暗いせいで顔はよく見えない。
だが、突如晴れた雲から差し込んだ月明かりが、その者の正体を照らし出した。そして目の前で起きている惨状を理解した。
「ミ...ミカミ...!!」
ボロボロのロングコートを着た少年、三上 礼は今、ここにいる。そして、三上はジョニーの左胸に彼のもつ、白い刀身の剣、『流血光刃』が突き刺さっていた。
「やあ、サムさん。こんばんは。月見にはいい夜ですね」
三上は爽やかにサムに挨拶した。
「や...やあ、今日は一段と綺麗な月だね」
冷や汗をかきながら、サムはあいさつし返す。
「うん、心臓を突き刺すにはちょうど手元が見やすいいい夜だよ」
「今の発言に意味、私には少々、理解できないが?」
「うーん、確かに難しいかな?この状況、桜蘭君なら理解するまでしばらくはかかりそうだしね。だけどサムさん。あなたなら、僕が今やったことの意味、理解できるんじゃないのかな?」
「......理解したくないね。こんな事、だけど、これが現実だったのか...このゲームの脱略者は、あんたが次々と粛清していた。おかしいなとは思っていたんだ。サクラ君たちが倒したリーダーたちはその後どうなっていたのか...彼らがどこに行ったのか、情報が来なかったからね」
「あなたは本当に理解力があって助かります。そうです。彼らが倒したリーダーは全員僕が始末したんですよ。今日も、彼らに倒されたリーダー。ジョニー ヨゥを粛清。そして、もう一人の脱落者、サム ヨゥも...」
サムは、瞬間的に机の上に置いてあった、桜蘭たちとの連絡用のトランシーバと松葉杖を取り、空いた窓から飛び降りた。ここは二階、受け身をとれば何とか死なない。
サムは地面に着地したが、折れた足が悲鳴を上げた。サムから汗がこぼれ落ちたが、そんな事に構わず、サムはトランシーバで桜蘭たちに連絡を取ろうとした。だが、
もうすぐ繋がるというところで、サムのトランシーバは破壊された。三上が二階から炎の魔法で狙撃したのだ。
「くそ...!!」
サムはまだ諦めない。近くに公衆電話がある。それで連絡を取ろうと、足を引きずりながら走った。
後ろで、三上は二階からひょいと飛び降りた。そして、血の付いた剣を振り払い、ゆっくりと歩き始めた。
「くそ...繋がれ!!早く!!この事実を桜蘭君たちに!!」
だが、サムの願いは空しく散った。三上はある程度の距離から一気に間合いを詰め、サムの心臓もろとも電話機を貫いた。
「ここで彼らがこの真実を知ったらつまらないでしょ?させないよ...サムさん、心配しなくても大丈夫です。多分、もうすぐ彼らも気付くはずですから。次の地区でね。さて、彼らはこの真実でどう行動するのか...楽しみだな!」
「ぐ...ガ八ッ!!くそ!!」
最後の力を振り絞り、サムは三上に猛撃した。風の魔法を顔面に食らわせようとした。だが、三上はすんなりとそれを避けた。
「いい攻撃だよ...あなたは死ぬその瞬間まで、死を恐れず立ち向かうんだね。ありがと」
三上は剣を引き抜いた。サムはガクッと膝をつき前に向かって倒れた。
「さてと...桜蘭君たちは、今頃どうしてるかな?そろそろ、睡蓮とかいう青年がバケモノになる頃だな。グレイシアがついているから、倒すには倒せると思うけど...問題は覚醒だ。出来ることならこの時点で覚醒に至ってほしいものだけど...高望みかな?」
三上は、独り言をつぶやきながらサムを拾い上げ、そしてジョニーも連れてどこかへと去った。
「そろそろ、僕の方も準備しよっかな?でも、その前にやる事があるな...青薔薇...いや、ルーアンさん、あなたは僕を殺すのかい?」