第2章 69話 真相は闇
「ん? あれ...」
俺が目を開けたら、零羅が困った顔で俺を見つめていた。後ろにはエルメスに麗沢たちも来ていた。シィズがいないな。
「あ...目が覚めたんですね。良かったです...あの......本当にごめんなさい。また、やってしまいましたね...はぁ...意識はあるのに...私のバカバカバカ!!」
零羅が俺に謝って来たかと思ったら、急に自暴自棄になったかのように自分の頭をポカポカと叩いた。あれ?零羅ってこんなキャラだっけ?
「お...落ち着いて。戦ってる時、言葉自体は通じたんスから、きっと乗り越えられるッスよ!!」
俺は、零羅の腕を掴んで止めた。
「...そう、ですか......少しですが、自信が出て来ました。ありがとうございます...それよりも桜蘭さん、どうやってわたしを止めたんですか?何か投げたように見えて、桜蘭さんの頭にそれが直撃して、それが転がってきて、そこからが覚えていないのです」
「それは私も気になった。ちょっと後ろに下がりすぎて何を投げたのか分からなかった、煙が出てたけど、あれは何?君の世界の物?」
グレイシアと零羅が少し目を輝かせるようにして俺に聞いてきた。あ~、俺がミスったヤツね。
「いや...実は、いつの間にかこれが俺のポケットの中に入ってて、戦ってる最中に気が付いて即効で使ってみたんス。だけどミスって、俺まで気絶しちゃったみたいなんスよねぇ...」
恥ずかしい話だな。だけど、終わり良ければ総て良しだ。俺のポケットに入っている紙袋を取り出した。
「これッス。考えるにシャルロットと別れるときに入れてったんじゃないッスかね」
「そんなでかい袋、今まで気づかなかったんかい。ある意味凄いわ...」
エルメスがツッコんだ。俺は結構鈍感なんだよ。この前も回転式拳銃もポケットに入れっぱなしで気付かなかったレベルだし、って言うか、今もポケットにいれっぱだった。
俺は中身を取り出した。
「ふむ...睡眠ガスグレネード二つに、閃光弾一つでござるか。全て非殺傷武器。シャルロット殿の心遣いでござるな」
麗沢は多分この後、この手榴弾について長々と語りそうだ。逃げる準備を...あれ?
俺は奥にもう一つ紙がある事に気が付いた。
「あ、コレ、シャルロットさんからの手紙みたいッス!!」
入っていたのは手紙だ。『平和を願いし者へ』と書いてある。俺はそれを読み上げた。
『やほー シャルロットちゃんだよ!!これは約束の私に勝った報酬ね!あまり多く準備出来なくてゴメンね。有効に使ってねぇ~。全ては平和の為に、頑張ってね!応援してるよ~!!以下余白ぅ』
なんか、ほんのちょっとイラっとした。文章短いし、下が凄まじい位に開いている。贅沢言わないけど、もうちょっと何とか文章まとめられなかったのかなぁ...あれ?
「成程、敵であったのにも関わらずこのようなプレゼントを...昨日の敵は今日の友でござるなぁ」
ん~、微妙に違うような...それよりも、この余白、薄っすらと文字みたいのが見える。えっと?
『この先は、サクラ、あなた一人で読んで。誰も居ない所で、』
俺はこの文章を見た瞬間、この手紙の存在意義と重要性を感じた。俺は自然な流れで手紙をポケットの中にしまった。無くさないように下に来ていたセーターのポケットの方にしまった。
「それよりも...グレイシアさん。睡蓮の事、教えてくださいッス。それより睡蓮はどうしたッスか?」
周りを見ても、あの巨大な化け物はいない。そして俺のこの質問に周囲の空気は一気に入れ替わった。
「睡蓮は、いや、異世界から来た者がこの世界で死ねば、その体は元の世界に戻る。これは私たちが知るあなたたちを元の世界に戻せる唯一の方法。スイレンは君が気絶してからしばらくして、消えた。残っているのは、この世界の物だった彼のナイフだけ」
グレイシアは、スイレンのナイフを俺に渡した。
「君が一番知りたい事、バケモノについては前に話したね。それの正体はかつて君達の世界から来た存在。そしてこの世界に来た者は一時的にすべての魔法を使ったり、凄まじい程の回復能力を手に入れれる。だけどそれが出来るのは人それぞれだけど、約一か月の間だけ。それを過ぎた時、君たちはバケモノになってしまう」
全員が息を呑んだ。つまりは俺たちもああなるって事なんだよな。
「なんで、そんな重要なことを教えなかったの!?」
エルメスがグレイシアに掴みかかった。この様子、エルメスはそんな事全く知らなかったみたいだな。知っているのは、やはりグレイシアだけか。
「教えたところで、どうにかなる?逆に不安を煽るだけ。そしてその不安は恐怖に繋がる。私が知っているのはその恐怖心がバケモノへの進行を早める。だから私は話さなかった」
エルメスは、ぎりぎりと歯を鳴らして、手を放した。
「グレイシアさん。だとしたらバケモノにならない方法は...」
「君の考えている通り、覚醒だよ。だからレイは二十年たった今でも存在している。そして覚醒はより魔法の威力を高めて、回復能力も人知を超えた程になる。つまりは、不老不死」
そうか、そうだったのか。グレイシアはそれを知ってたから今まで俺たちに、あんなに真剣に向き合ってくれたんだな。自分の命を顧みずに俺たちに覚醒を促す。それがグレイシアの目的。大変だな、自分のこともあるのに。
「だけど、その不老不死は完全じゃない。レイを殺すには、バケモノと同じ...心臓と脳を破壊する事...」
このグレイシアの言葉で、周囲はどよめいた。
「それがミカミの...弱点...」
エルメスが呟いた。グレイシアはコクッと頷いた。
「そして、これが一番重要。覚醒には方法がある。バケモノ化は恐怖心に呑まれた存在。サクラ、スイレンと戦ったあなたなら分かるでしょ?恐怖に怯えながら戦うスイレンを」
分かる、バケモノの睡蓮はまるで別人みたいに怯えていた。
「覚醒はその逆、精神状態がそれこそ異常ともいえる状態になった時に君たちは、覚醒へと至る。だけど、これが中々に難しいみたい」
「何か、コツとか言ってなかったんスか?三上は...」
ダメ元で聞いてみた。
「うん、レイはブチ切れて覚醒したって言ってた」
ブチ切れるかぁ。俺は今まで何回かプッツンしたことはあるけど...あれじゃ足りないのか...
「つまり、超サ〇ヤ人になるって感じですか?」
零羅の例えに、グレイシアがキョトンとした顔になった。周りの空気がまた変わった。
「あ...すみません!この空気で言う発言ではなかったですぅっ!!」
零羅は、即座に謝った。
「いや、良い例えでござる。いいじゃないでござるか!昔憧れた超サ〇ヤ人になれるのでござるよ!?うをおおおおおお!!」
麗沢のテンションが五段階近く上がってねえか?スーパーハイテンション超えてるぞ。そういえば、麗沢好きだったなあの漫画。というか、誰もなれるなんて言ってねぇよ。
周囲の空気が一気に和やかになった。暗い空気より、やっぱりこの感じの方が良いよね。さてと...
俺は睡蓮のナイフを持って、睡蓮と戦った場所に向かった。
「あ...そういえば、あの睡蓮に殺された人は...」
「君が気絶している間にシィズがなんとか蘇生に成功した。あの人は無事、シィズが今病院に送ってる」
「あ~、良かった。てっきり殺されてしまったものかと...」
俺は、今になってあの人の蘇生を先にやるべきだったと後悔した。でも、生きてたならいいか。
俺は、ナイフを、睡蓮と戦った場所に突き立てた。墓標の代わりだ。
「いままでありがとうな、睡蓮」
俺は手を合わせ、黙とうした。
「行きますか!時間があまりないんスよね!」
俺たちの旅はまだまだ続く。