第2章 68話 覚醒のタイムリミット その2
『ぐぅぅぅぅぅ...』
睡蓮は、様子を見ているみたいだ。俺の周りをゆっくりうろついている。俺も隙を伺いながら、合わせて動く。
「睡蓮、俺はあんたとなら親友になれると思ってた。俺は友達が少ない。友と呼べるのはほんの数人だけだ。だけど、その中でも親友と呼べれるやつは麗沢だけだった。気兼ねなく本音をぶちまけれる存在。俺にとって睡蓮。あんたは心の底から信頼できる俺の友だと思ってたッス。麗沢とはまた違う、頼れる相手だったッス。だから、そんなあんたが殺人なんて事をしているのなら、俺は、何が何でもその過ちを止めるッス。勝手な俺の理由だけど、それが、友として、親友として俺がやるべきことだ!あんたが俺の事をどう思っていようが、俺は、睡蓮の親友だ!!」
こんな言葉、既に通じるはずはない。分かってるさ。だけど俺は、呼びかけ続けた。
俺の攻撃で、睡蓮はどんどん傷ついていく。傷つけられる度、再生を繰り返す。だが、相手がどんな化け物でも生物に変わりはない。疲労は絶対に付いてくる。俺の予想通りに、さっきまでと比べると、動きが少し鈍くなってきた。しかし俺自身にも疲労は出てくる。この状況、いかに体力を温存しながら相手の体力を削るか、それが重要になりそうだ。グレイシアの言う通り、心臓と脳を同時に攻撃するには、睡蓮より早く動けないと話にならない。
相手が巨体なだけあって、的が大きい。どんなところから攻撃しても、どこかしら傷をつけることは出来る。俺は睡蓮に比べてかなり小さくなる。いくら攻撃が早くても、かわしさえすれば突き出された腕なりなんなりを攻撃できる。俺はそうやって徐々に徐々に、睡蓮の体力を削っていく。腕、足、背中に尻尾も、とりあえず当たりそうな部分に攻撃を打ち込む。
俺は戦いながら、思っていることがある。この化け物、睡蓮からは、殺気が感じられない。何というか、怯えている感じだ。ただ、殺されたくない一心で戦っている感じ。俺の知っている睡蓮だったら、既に俺のこの戦い方から、反撃に転ずるような発想に行っているはずだ。なのにこいつは、そんな思考をするよりどう生き延びるのか、そこしか考えていないみたいだ。戦っていて、なんだか悲しい気分になって来た。だが尚更俺の闘争心は燃え上がった。こんな睡蓮は見たくない。
終わらせてやる!!
俺は少し間合いを取り、ゆっくりと構えなおした。もう、後の先の戦いはいい。睡蓮はきっと、戦ってるなんて感情はもう、無い。後、俺に出来ることは、とどめをさす事だけだ。攻めに転じる。
俺は、睡蓮の心臓部分に向かって突進した。もちろん睡蓮は反撃に出る。だけど、動きはもう先読み出来るよ。繰り出すのは右の拳、それを避けたら次に左手で薙ぎ払うようにフック。その間に右手を戻し、最後は地面をえぐり取るようにアッパーを繰り出そうとする。この瞬間だ。腕を振り上げた時、心臓部分は無防備だ。俺は自分の出せる全力でもう突進した。
「うおおおおお!!!」
俺は叫びながら睡蓮の心臓にブレードを突き刺した。
『ぐぅ!!ああああああああ!』
悲痛な叫びを上げながら睡蓮は、俺をどうにかしようと俺に掴みかかろうとした。心臓は壊した。後は、頭だ。
『バキィン!!』
俺は突き刺したその状態のまま、ブレードを少々強引に外した。
俺はそのまま地面に風の魔法を撃ち、上に飛んだ。ぎりぎりで睡蓮の攻撃をかわした。後は...
そのまま俺は銃を横に向けた。銃口の先、そこには睡蓮の額がある。俺は電撃の魔法を最大まで溜めた。飾りだけのサイト越しに俺は、睡蓮の目を見た。怯えている。死にたくない。そう叫んでいるみたいだ。
「...さようなら...睡蓮...!」
俺は、ためらうことなく引き金を引いた。電撃が一直線に睡蓮の額を貫いた。見た目は大した事はなさそうだけど、俺の一撃はどうやら脳を隅々まで丸焦げにしたようだ。
睡蓮は、体を少し撥ね上げ、しばらくそのまま固まった後、地面を揺らしながら倒れた。そして睡蓮は全く動かなくなった。
「後は...」
俺は横に目線をやる。グレイシアと零羅の戦いはまだ続いていた。
「やっぱり、殺さないって難しい...サクラ、そっちが終わったなら、手伝って」
「了解ッス」
次は零羅だ。確かに今度は厄介だ。零羅は今、興奮して自我を失っているに過ぎないんだ。殺すわけにはいかない。
「サクラ聞いて、レイラは完全には自我を失っていない。むしろ、いつも以上に冴えてるってかんじ。今戦いながら感じた。レイラは私の助言を聞いている。だから今のレイラはさっきまでと違う。相手を観るようになった。レイラ自身も心の中で戦っている」
少しずつ、彼女も成長しているって事か。つまりは、レオナルドと戦ってた時に比べて更に強くなってるって事ね。
「わたしは...ただ、殺すだけ。そうしていると、こころがらくになる。だから...おねがい、殺させて」
零羅はぼやきながら、ゆっくりと俺たちに向かって歩きてきた。俺たちは身構える。そして考える。三上は零羅を気絶させて事を収めた。俺もさっきやろうとしたが、どんな程度で殴ればいいか分からなくて、ちょっと躊躇したのが原因だ。
俺は銃を一旦しまうことにした。今の状態ではまともに魔法が使えない。素手でやるしかない。そう考えしまおうと思ったその時だ。俺のポケットの中になんか入ってる。やたら重いな、いつ入れられたんだ?てか、なんで気付かなかったんだ?それより、なんだこれ?
ポケットの中には紙袋が入ってた。そして紙袋の中には...
あ、これ使えばいいじゃん。その中には手榴弾らしきものが入ってた。そしてその手榴弾には、『睡眠ガスぐれねーど』と書いてあり、恐らくシャルロットであろうウィンクしている似顔絵が描いてあった。
「グレイシアさん、ちょっと後ろに下がっててもらっていいッスか?」
俺はそれを手に取り、思い出していた。えっと、確か正しい投げ方って、シャルロットやってたよな。えっと、確か...栓抜いて、目標に合わせて、重いから肩から投げる感じだっけ?そんで投げたと同時に隠れてたな。
俺は曖昧な記憶を頼りに、行動した。零羅は、目の前で立ち止まり様子を見るように俺を眺めていた。この距離なら、やれる!
俺はそれを投げた。しかし、慣れない動きで投げて、失敗しないはずがなかった。手榴弾は真上に飛んだ。そして、俺がその場に急に倒れたのを見て、零羅はわけが分からないと言った目で俺を見下ろした。その直後、手榴弾は俺の頭にゴッツン。零羅の足元に転がり、そして一気にガスが出た。
俺と零羅はもろにガスを浴びた。そしてそのまま俺は意識がどこかに飛んでいった。