第2章 67話 覚醒のタイムリミット その1
「な...なんなんスか?コレ...睡蓮、なのか?」
突如目の前に現れた巨大な生物、そこの場所には確かにさっきまで睡蓮がいた。なのに、睡蓮の姿はどこにも無い。いるのは、この化け物。一体だけだ。
「あれはバケモノ...かつて、私たちの世界を脅かした存在」
グレイシアが呟いた。
「そしてあそこにいるのは紛れもない、アマガミ スイレンだったもの。だけどアレは、もう人間じゃない。気を付けて、アレは、強いから...来る!!」
化け物は、その巨体から想像できないスピードで俺に殴りかかった。俺はその攻撃を避けたが、俺がいた場所は、地面が凹み、草木が一気になぎ倒された。零羅もどうやらかわしたな。彼女は構えてじーっと睡蓮だった化け物を眺めている。
「溜め無しでこの威力かよ...」
俺は正直、感心という言葉しか頭に出なかった。
「エルメス、あなたは一旦逃げて。そしてレイサワとシィズにこの事を伝えて。頼める?」
「え?あ...はぃ...」
エルメスは、しんなりとした顔で後ずさりするように逃げた。
「そしてサクラ、まだ、戦う?」
質問の意図はあまり分からない。だけど、この目の前にいるのが睡蓮なのなら、どんな状態でも俺は戦う。何故こうなっているのかなんて、グレイシアは知っているはずだ。後で聞けばいい。
「あぁ、終わらせてやるって決めたッスから...」
「ふふ...いい顔だよ、サクラ。今は迷いがないみたいだね...」
グレイシアがほんの少しだけ笑みを浮かべた。
「サクラ、スイレンはあなたが倒して。レイラは私が止めるから...」
グレイシアは再びきりっと凛々しい顔に戻り、零羅を見た。
「つまりは、俺一人で倒せ。って事でいいんスよね?」
「うん。君はそう望んでいるみたいだから...だけど助言はする」
「サンキューッス。グレイシアさん...零羅、頼んだッス」
どうやら、一対一に持ってってくれたみたいだ。集中できる。
「さてと...行くッスよ、睡蓮!」
俺はまず、正面から切りかかる。睡蓮もそれに合わせて猛スピードで巨大な腕を繰り出した。流石に正面からは受けきれない。しっかりと見極めろ...避けるのは、この瞬間!!
攻撃を見極め、飛び上がり拳を避ける。腕ががら空きになった。俺は思いっきりブレードを振り抜いた。
『ぐぎぃぃあああ!!』
耳が痛くなる叫びを上げて、睡蓮は腕を押さえるような素振りを見せた。
「サクラ、バケモノは腕を切り落としただけじゃすぐに再生する。再生能力だけだと、レイに匹敵するから」
成程、つまりは三上のあの驚異的な再生能力を相手にしていると考えればいいんだな。そう考えている間に睡蓮の腕は、元に戻っている。確かに、俺の再生能力より数倍は早い。流石に俺が腕を切り落とされたら、第一治せるのか?ってところだからな...やるのなら、即死を狙うか...俺は、戦い続ける。
「さぁ、レイラ。あなたはどうする?誰を殺す?」
一方そのころ、グレイシアと零羅は動かず対峙していた。
「じゃま。あなたはあとで殺すから...どいて」
「どかない。言葉が通じるのなら、私から言う事は一つだけ。私を殺しなさい」
「いいの?」
「殺せるのなら...私を殺す事が出来たら、他を殺しても構わない...」
「そうなの...じゃあ、あなたから殺す」
この状態の零羅は、別の敵に意識を向けさせるのは結構容易だ。グレイシアはそれを利用し、零羅の標的を自分に向けさせた。
「どこからでも...」
グレイシアは、特に構えることなく零羅を煽った。零羅はすぐに反応し、一瞬で間を詰め攻撃に移った。
グレイシアはその攻撃の手前で足元から氷の壁を作り出し、ガードする。しかし、氷の壁は零羅の一撃で粉々に砕けた。グレイシアは、更に体を横に向けて攻撃をかわす。この事態は既に予測済みだったようだ。
「攻撃はいい。だけど単調過ぎる。それではレイを殺せない。まずはしっかり相手を観て。最低ここまで出来ないと、今のあなたじゃ、あのサクラも殺せない」
「...」
零羅は、少し考えるような素振りを見せたが、その後何も言わずグレイシアに攻撃を仕掛け続けた。
「うおりぃや!!」
俺は、隙を見つけては攻撃に移るが、どうにも睡蓮の動きの素早さにはついていけない。決定的な一撃を打ち込めない。
「サクラ、あのバケモノは多分、頭を撃ち抜いても死なない」
近くでグレイシアが、零羅と戦いながら俺に話しかけた。零羅相手に喋る余裕があるのか...相変わらず凄いな。それよりも、頭を撃っても死なない?
「じゃあ、どうするんスか?」
いちいち驚いてるのも面倒くさい。今は必要な事を聞こう。
「心臓と脳、その二つを同時に壊す。昔レイが発見した。バケモノの殺し方」
「心臓と頭ね...了解ッス。それと、後でなんでそんな事知ってるのか、教えてくださいッスよ?」
「分かった。この事は隠しておきたかったけど、こうなってしまった以上、この事は隠さず全部話す。だから、死なないでね」
「了解ッス!」
やっぱり何か隠してたんだ。俺はグレイシアの秘密の事を暴けてほんのちょびっとうれしい気分になれた。