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空の古城、滅尽の勇者  作者: 時 とこね
後書きに代えて
17/17

第十七話 運命の聖都市


 折角なので、古都アヴニールの観光をと思い、足をのばしてみる。


 運命の聖都市と呼ばれるアヴニールは、戦乱の時代に相当な被害を受けたらしい。今ではその面影も無く、観光地として人気が高い。ここで七年に一度、海上で竜巻が起こって虹が螺旋を描くという不思議な現象が起きる。私はそれを見に来たのだが、残念ながら、今回は見る事が出来そうに無かった。普通に観光を楽しめているので、別にいいのだが。


 海岸沿いに進んでしばらく行くと、丁度良い感じのカフェがあった。軒先にパラソルの付いたテーブルとイスがある。オープンカフェというやつだろうか? よく知らないけど。空いている席に腰掛けて、メニューを眺める。なるほど、全部美味しそう。いやでも結構値段するな。うーん、と考えたあげく、エスプレッソを頼んだ。



 「で?」


で?


「? で? とは?」


ああ。一つの空きテーブルを挟んだところに、男女が腰掛けている。カップルだろうか? いや、多分部活動の先輩後輩なんだろうな。男性の方が若干距離をとっている気がする。こんな事は、あんまりいい趣味ではないけど、私は他人の会話を盗み聞きするのが好きだったりする。何喋ってるんだろうな。


「その後、どうなったんですか!?」


「いや、どうなったも何も……。民話はここで終わってるからなぁ」


「へ!?」


「そ、そんなに驚く事か?」


「え、だって、だって、だって! ネアビスは神様になったんでしょ!? シンシアは天使だったんでしょ!? だったら、復活させてあげれば良かったじゃないですか!?」


ほうほう、なるほど。

丁度そこにエスプレッソが運ばれてくる。マスターが、すいません、あの二人がやかましくて、と申し訳なさそうに声を掛けてきたが、私は、いえいえ、大丈夫ですよ! と答えた。どうやらあの二人はほぼ毎日ここに通っているらしい。


「俺にそんな事言われても……」


「もう!! あぁ!! もう!!」


「イライラするなって!」


「私が彼だったら、絶対に好きな人を蘇らせるのに!!」


「まあまあ、仕方ないだろ?」


「何が仕方ないって言うんですか!?」


「いやいや、だってほら……」


「だってもくそもありませんよ!!」


ありゃりゃ、傍から聞いてたら完全に痴話喧嘩だな、これ。あちっ。


「まぁ、彼にも色々と理由があって……」


「理由って何ですか!?」


あ、女の子の方が今にも殴りかかりそうだな、さすがに暴力はだめでしょ。


 その時、一陣の風が吹き抜けて、女の子のスカートをチラッとめくり上げた。


「あ」


「あ……」


「あ!」


「見たでしょ?」


「いや見てない」


「見ましたよね?」


「見てない……」


女の子の方は両手に握り拳を作っている。あらら。


「ああー!! もうっ!! 早く帰りましょ!!! マスター、お金置いときますね!!」


「オイ待てこらぁ!!!」


といって、逃げ去った男性を追いかけて、女の子は走り去っていった。賑やかだなぁ。


お騒がせしてすいません……。とマスターは頭を下げてきた。いやいや、賑やかで楽しいですよ、と笑いかける。それから、私はカップを両手で持って、エスプレッソの温もりを感じる。


「ねぇ、マスター」


店内に引っ込もうとした彼を引き留める。一応言っておこう。


「もし、次にあの子たちに会う事があったら、教えてあげて」


風の中にエスプレッソの香りが舞い上がる。素敵な海が見える。私の声がその中に溶けていく。



 ネアビスは、シンシアを蘇らせる事が出来なかったのか。私には意図的か、そうでないかの判断は出来ないけれど、不可能では無かったはず。アヴニールの神話によると、大邪神は僅かな良心で数体の天使を生み出していた。無愛の天使デオムなどもその類。このことから、彼が天使の創り方を知らないという説に疑問を抱く事が出来る。ここからは私の持論なのだけど、天使は完全に消滅しないと復活させる事が出来ないのだと思う。存在しているものを複製させる事を、先代の神々もしていないから。

 複製の出来ない個体を、もう一度生み出すには、完全に消滅させる必要がある。ネアビスにはそれが出来なかった。あるいは、それを意図してしなかった。どちらか分からないけど、シンシアは、いまだ消えていないのだと、私は考えている。

 本当はどこかで、ひっそりと、生きているんじゃないだろうか。



……。



「あの、マスター?」


はい、何でしょう? とマスターが尋ね返す。私は言った。


「お冷、貰えます?」


やけどしちゃった。


マスターは、かしこまりました、と店内に引っ込む。カッコつかないよな、こんなんじゃ。まぁ、いいけどさ。


その時、私の頭の上から、ひらりと何か落ちた気がした。羽根?


見上げた空には何の陰りも無く、紺碧が無限に続いているだけであった。




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