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空の古城、滅尽の勇者  作者: 時 とこね
本編
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第十一話 影の支配者


 ネアビスと三神の対峙する主の間に、衛天使達がなだれ込んだ。ユユキュオスは笑みを溢す。


 「流石は我が天使達、後程で失った分を創り直さなければなりませんね」


 衛天使が大罪人を取り囲んでいく。対して、大罪人は渾碧の金剛石の刃を持つ刀を振り翳す。それには陽炎の如き漆黒の波動が纏わり付いて、禍々しい邪気を放っていた。ヌグニットは目を細めた。


 「あれは、何だ」


 「何だって良いでしょう。どのみち生かしてはおかないのですから」


 ユユキュオスは険しい表情でそう答えた。ヌグニットは自嘲し、ネアビスを睨んで二神と衛天使達に命じた。


 「切り刻め、二度と地上に戻れぬ様にな」


 「言われなくとも!」


 風美神は暴風を纏いし高速で衛天使を抜き去り、ネアビスへ飛び掛かった。周囲に巻き起こる強風が彼の足を掴み取り、風美神の攻撃範囲に引き摺り込んだ。


 双剣を振り上げ、風美神は奇声を発して彼に切り掛かったが、ネアビスは冷静に一薙ぎで両方を弾き、返しの刃が風美神ごと切り裂くかの勢いで、暴風を一閃の内に切断した。その衝撃で顔の歪んだ風美神を見下し、突き貫こうという所で、彼の背後に雷日神が出現した。


 雷日神は雄叫びを上げて急襲する。ネアビスはその剣筋を見切り、背を向けたまま数撃避けた。焦る雷日神は兎角攻め立てる、落雷の速度で繰り出す剣技といえども、陽炎稲妻水月の如し。彼には掠りもしない。しかし雷日神はこう考えた。大罪人も所詮は人間、時期に疲弊するだろうと。雷日神は空を切る剣を構わず振るい続けた。そして終に大罪人を捉えたのだ。一層鋭く斬り下ろした刃が、大罪人を真二つに切り裂いていた。だが、しかし雷日神の刃が捉えていたのは泥のような黒影だけであった。雷日神と風美神は辺りを見回す。


 「姑息な真似を……。奴は何処だ!!」


 ユユキュオスは焦燥に汗を流し、衛天使達と急ぎ索敵する。彼等の目に留まるのは、複数の激震に見舞われて尚も整然と書物を収めている主の間の姿である。眩い程煌めいていた黄金はすでに砂塵にくすんでいようとも、やはり確かに輝きを放っていた。しかし、探すべき大罪人は四方の何処にも見当たらない。


 愚かな、闇の力に目覚めたか。ヌグニットはそう思考し、刃に大火を宿して燃え上がらせ、神々に一喝した。


 「狼狽えるな! 所詮は只の闇、光で掻き消せば良い」


 その業火に身を焼く剣を振るい挙げた。ニスオスとユユキュオスは床を蹴り、黄金の天井近くまで跳び上がった。ヌグニットは、その剣を水平に振り払った。灼熱の獄炎が紅蓮に主の間を横切り、一帯を焼き尽くす炎の壁となる。神の炎の燃え盛る壁は、主の間の全てを飲み込まんと赤く発光し、逃げ遅れた衛天使達を焦がしていく。焼き焦げた光が部屋を強く照らし出した。炎は黄金となり、死した反逆者共の遺骸を焦がそうとさらに迫る。視界は全てが黄閃光になり、それに照らされたユユキュオスは勝利の笑みを浮かべた。


 「燃え尽きるが良い。汚らわしい人間など消えてしまえ!!」


 高らかに笑い声を上げた、その時である。黄金の大火の向こうに、眩い光に映し出された黒影が揺らめいた。太陽の中心の様に眩い光の中で、その闇は確実に自らの存在を保ち続けていた。光が一層強くなれば、その闇は一層絶対的になっていく。逃げ遅れた衛天使の悲鳴ごと穢れを祓おうとした黄金の壁炎は、反逆者共の遺骸の寸前で横一文字に切り払われた。神々は驚愕し、目を見開くばかりだった。


 紫煙の中で揺るがずに立ちはだかるのは、油膜のような漆黒の波動を全身に這い巡らせる大罪人。渾碧の金剛石の刃を持つ刀を携え、目を閉じているネアビスの姿だった。彼はヌグニットに問うた。


「光在る所に必ず在る闇が在る。何だか分かるか?」


ヌグニットは身動ぎ一つせず、大罪人を凝視した。ネアビスは言った。


「影だ」


そして目を開き、敵を睨んで刀を構えた。漆黒の波動は泥のように溢れ、刃から零れていく。彼を取り囲む邪険な闇は、更に湧き上がっていく。


「光に照らされて暖を独占する者が在れば、影に覆われて凍える者が居る。神々と人間は常にこの関係に在った。神々は自らの力で全てを支配し、都合が悪くなれば誰かの責任にし、必然を恐れて罪の無い人間に運命を与え、翻弄して、その命を道具の様に扱う。人間は常にこの恐怖に怯え、その奇異なるに愚弄もてあそばれ、悲しみに浸る事すら許されない。一度しかない生命を、魂などとは言うが、一度しかない事に変らない。

 人間は不遇すぎる。一度のみの命も、己の未来一つ自ずから選ぶ事も出来ずに死んでいくのだ。努力も、信念も、願望も、運命が存在すれば無駄なのだ。人間の全てを踏み躙って居るのは、必然では無く、運命を創る、貴様ら神々なのだ!

 俺は許さない。俺の全てを奪った事を、この運命を、この運命を定めた貴様らも!」


それを聞いてヌグニットは失笑した。


「全てを失うのは、貴様の『運命さだめ』なのだ。分からぬか、変える事など出来ぬのだ。貴様はここで力尽きる。良いだろう。永遠の苦しみを与えてやろう。二度と貴様の魂が解放される事の無い様にな。」


炎武神は炎の剣を構える。その視線は金糸のように鋭く、ネアビスを突き刺した。だが、ネアビスはその表情に笑みを浮かべる。


「俺にこの運命を与えた事を償え。それが出来ぬなら、神という貴様には重荷な事など辞めてしまえ。それすら出来ぬというのなら、安心しろ、今すぐ楽にしてやる。」


「人間が神を殺せると思うのか?」


ユユキュオスが茶化すと、彼の笑みが消えた。


「ああ殺してやるよ、神の力を使ってな」


ネアビスは言葉を吐き捨てて闇を纏いて駆け出した。



 ヌグニットは命じた。衛天使達よ、大罪人を殺せ!


衛天使達は同時に飛来する。ネアビスは無数に迫り来る衛天使達に咆哮した。


「来い! 俺が全てを滅ぼしてやろう!!」


咆哮と同時に、ネアビスの黒影に紫電が纏わる。雷日神の神速を凌駕する速度で、襲来する全てを斬り殺していく。実体が残像となり、残像に実体が重なる。もはや数千の腕が有るような手数が衛天使を光に変える。無数の剣技と驚異的な殺傷能力で衛天使はすでに半数になっていた。衛天使達は大罪人に畏怖する。畏怖して動きの鈍くなったそれをネアビスは容赦無しに斬り捨てていく。ネアビスの剣筋には黒影が伸び、彼を取り囲む檻であったが、同時に彼を護ってもいた。衛天使が近付く度に、檻の筋が一本増える。無差別な格子状に伸びた黒影をネアビスは剣を振り払った。その風圧で黒影は忽ち拡散し、刃の如き鋭さで距離を取る衛天使達を切刻んだ。黄金の壁ですら、斬撃の傷跡を受け付けた。書架から書物がはらはらと落下していく。


 衛天使は一体も残って居ない。ネアビスは一歩、また一歩と神々に接近する。ユユキュオスは声無き悲鳴を上げ、血走った眼でネアビスに襲い掛かった。それにニスオスも続かざるを得ず、ヌグニットも向かった。ネアビスの纏う漆黒の波動はより一層深みを増し、紫電が黒影を煌かせた。神々が同時に襲い来るのを、ネアビスは待ち遠しく感じた。


風美神の疾風、雷日神の雷撃、炎武神の炎蛇、黒影が怪しく揺らいだ。その切先は風を切り、稲妻を裂き、炎を突き破る。蒼炎が形を成した渾碧の刃は、斬撃の度に悲痛な叫びを上げながら冷気とも熱気とも取れる光線を発した。それは黒色に輝き、神々へ襲い掛かった。神々は次々避けていくが、黒色光線は部屋の壁を爆破して、轟音と砂煙と書物の紙片を巻き上げた。


 「全てを滅尽するのだ」


 ネアビスの刃が宿す黒影の波動は、更に闇を濃く、深くする。漆黒以上のそれは、もはや存在しないと言える程の黒色であった。燃え滾る炎武神の刃ですら照らし出す事は敵わない。いや、照らす事で更に一層闇が深くなる。まるで運命を定めている神々すらその術中の中にあるように、真黒の影が悲痛な声を部屋中に響き渡らせ、切先が床に触れた。


黒影に身を包んだネアビスは、刀に両手を掛け、叫んだ。


 「悲惨な運命を」


大逆の大暗黒が爆発した。燃え盛る漆黒の炎が刀身を何倍にも増幅させたように模られ、彼は咆えながらそれを振り抜く。


「させるか!!!」


ユユキュオスとニスオスはそれを阻止するため風雷に身を預けてネアビスに襲い掛かる。


「馬鹿は真似は止せ!!」


ヌグニットがすぐに制止するも、遅すぎた。


「たかが人間如きに!!」


向かい来る風美神、雷日神にも構わず、ネアビスは刀を振り抜いた。全てを覆い隠す暗黒が月影を描きながら、風美神と雷日神を無情にも飲み込み、炎武神に向かう。炎武神は顔を伏して、自らの周りに炎の幕を張った。闇は炎武神の炎を避け、背後の主の間の壁に激突した。激突の瞬間、爆音が古城を震わせ、大量の書物が羽根の生えた鳥の様に書架から飛び出して行った。主の間の壁は罅割れ、振動と共に亀裂が入り、やがて音を立てながら崩れ去っていく。


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