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プロローグ
最初に発病した患者は今から十年前。
十五歳の誕生日を迎えた日、その少女は短い生涯を閉じた。
病名が付けられるきっかけになったのは、最初の報道から三日後、初めて生還した少年の証言からだ……。
夢転病:寝ている間だけ異世界に転生してしまう病。
発病条件は不明だが、この病気は十五歳を迎えた日から丸三年間発病することがわかった。
そして今日、俺は異世界に来てしまった。
「年に百人ほどしか発病しないのに、運が良いのか、悪いのか……」
俺は『夢転病』についてネットで調べるのが好きだった。その結果、何の準備もしていない者の初日の生還率は半分。
「これは親に感謝するしかないな……」
『夢転病』は持ち込み可、持ち出し可の病だ。
今の俺は中二病よろしくの剣と盾を持っている。こんな時代じゃなければ、銃刀法違反で逮捕されているだろう。
「まずは生還を目指して町を探すか」
俺は方角を確認するために粒子コンパスを散らした。
手元のモニターに周辺の様子が写し出される。
「近くの町まで北に二キロってところか……」
俺は鞄を背負い直してから北に向かって歩き出した。