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13/05/26(2) 溝の口:上から目線はナンパされた側の特権です~

 溝の口駅到着 


 約束の時間の二〇分前。

 出がけに姉貴に捕まったのにこの時間。

 俺はどれだけテンパっているのだろう。


 ──指定されたカフェへ。


 店内に入る。


「いらっしゃいませ。お一人様でしょうか」


「待ち合わせです。相手が来ていないか先に確認したいのですが」


 中を見渡す。

 旭さんはまだ来ていない様子。

 当たり前か。


 席に案内してもらう。

 上を見上げる。

 天井の吹き抜けがすごいなあ……。

 一〇階くらいまで?

 すっごい開放感。


 ラノベ読みながら待とう。

 ポケットからスマホを取り出す。


 巻頭のイラストを眺める。

 主人公とヒロインが一八禁幼女萌えアニメを見ているシーン。

 この全裸のショートツインテールっ娘って旭さんに似てるなあ。

 でも旭さんはきっともう少し胸がある。

 当たり前か、俺と同じ年れ──


「何読んでるんですか~?」


「うわっ! ……あ、こんにちは」


 振り向くと、旭さんが背後からスマホをのぞき込んでいた。

 それも至近距離で。


「こんにちは~。萌え絵ですね~。こういうのが好きなんですか~?」


「いや……あの……えーと」


「この全裸の女の子って髪型は私と同じですね~。もしかして私と似てるとかって思っちゃったりしてましたか~?」


 やばい。


「1 似てる 2 似てない」


 これはどっちが正解なんだ?

 セーブ希望したいんですができませんよね?


「2番で」


「はい~?」


「いや、似てない、似てない、全然全く似てない。旭さんの方が遙かに可愛い!」


「なるほど、アニメのキャラに似てると言われて喜ぶ女性なんていないと思ってましたけど、似てないと言われても複雑なものですね~。勉強になりました~」


「はい?」


 怒ってるわけではないけど喜んでるわけでもない。

 しかめっ面で、いかにも微妙といった表情。

 選択肢を間違えたのか。

 それともやっぱヲタだから嫌われたのか。


「いいえ。こちらの話です~。最後の『遙かに可愛い!』だけ、ありがたくちょうだいします~」


 旭さんが向かいに座る。

 ベージュのジャケットにショートパンツのカジュアルな装い。

 やっぱり普段着系かな?


「まずは注文しましょうか~、この店のおすすめはフルーツ系のタルトですね~」


「ごめん、フルーツ系のタルトって苦手で。他におすすめってある?」


「ならタルト・フロマージュあたりですかね~。言い換えればチーズタルト。男性でも食べやすいと思います~」


 言われたとおり、タルト・フロマージュとコーヒーにする。

 旭さんはブルーベリータルトとカプチーノ。


 店員を呼んでオーダー。


「かしこまりました」


 ターンして立ち去ったところで、旭さんがぺろっと舌を出した。


「そんなに落ち込んだ顔しないで下さい~」


「えっ」


「少しいじめすぎちゃいましたね~。小町さんがヲタっていうのは、私知ってますから~」


「ええっ?」


 どうして?

 どこで?


 旭さんが続ける。


「観音さんが『弟から取り上げたフィギュア』とか言って、職場で見せてましたから~。しかもそのフィギュアを使って弥生さんとじゃれあって~」


 あのバカ姉貴。

 俺の大事な妹たちを何て事に使いやがる。

 手元に残してるなら、それだけでもいいから返せよ。


「そうなんだ。てっきりヲタが嫌いなのかと」


「嫌いですよ~」


 鬱だ……。

 落ち込むじゃないか……。


「ほら、そうやって顔に出すくせして口にしない。そういうところがキライなんです~」


 はあ?


「どういうこと?」


「ヲタ達って普段は女子を遠巻きに眺めてるのに、いざ会話になると勝手にいじけて黙り込むんですよ~。その後には『あいつらは男とやりまくってるビッチだから俺達が相手してやる価値なんてない』とか陰口まで言いふらされましたし~」


「えっと……」


 イヤなことでも思いだしたのか、旭さんが頬を膨らます。 


「私が嫌いなのはそういう人達、二次元好き自体が嫌いなわけじゃないです~」


「俺だってそんな人達とは関わりたくないよ」


 確かにそういうのはいる。

 厨二病を変にこじらせるとそうなる。

 それをヲタ一般として語られるのも辛いところなのだが。


「だったら小町さんは堂々と胸を張ってヲタを名乗ればいいんです~。私に『趣味は?』って聞かれれば『漫画とアニメ』ってはっきり答えればいいんです~」


「自分でもそう思ってるつもりなんだけど……」


 だめだ、どうしても言い訳がましくなってしまう。

 このままじゃ嫌われる……


「私に気に入られようと、つまんない事考えるからいけないんです~。無理して私に気に入られたところで、そんな関係はすぐに壊れます~」


 そう言われても。

 気に入られたいと思うのは決してつまんない事じゃないと思うんだけど……。

 でも胸を張って言い返せる台詞ではない。


 返事に窮していると、旭さんが続けた。


「観音さんや男友達の前での小町さんでいればいいんですよ~。どうせ見栄張ったところで、もし観音さんが知ればあることないこと全部私にばらすんですから~」


 旭さん……。


 でもやる、あの姉貴なら絶対やる。

 そう思えば誤魔化すだけ無駄か。

 現実にヲタも姉貴経由で知られてるわけで。


 うん、そう思えば怖い物は何もない。


「ありがと。気が楽になった」


「えへへ、上から目線はナンパされた側の特権です~」


「でも同じ年の女性に言いくるめられてしまうのも、俺って情けなくない?」


「ほら、また~……どうしても卑屈になっちゃうなら私が現在小町さんの前に座ってる意味を考えませんか~?」


「と言うと?」


「私だってイヤだと思う人相手に時間割く程暇じゃないです~。でも私が小町さんと話してみたいし、小町さんを知ってみたいからここにいます~。それなのに小町さんの方がそう思えないなら、私に対する侮辱ですよ~」


「ご──ありがとう」


 謝ろうとしたのを押しとどめ、御礼の言葉に言い換える。


「そそ~。少しずつでも頑張っていきましょう~」


 旭さんがにっこりと微笑む。


「その上で、一つ聞いていいかな?」


「何をですか~?」


 旭さんが少し首を傾げる。


「ここまでの旭さんの話を聞くと、何で携帯とメアド教えてくれたんだろうって思っちゃって。教えてくれた時もかなり考えてたみたいだしさ」


 旭さんが目線をそらし、唇に指を当てながら少し考え込む。

 そこにオーダーが届く。


「せっかくですから、まずは食べましょう~」


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