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13/05/24(3) 姉貴の車:しつこい!

 東京インターチェンジから東名高速へ。

 港北パーキングエリアに向かう。


 シフトレバーをトップに入れ、アクセルを踏み込む。

 BGMは初音○ク。

 どうして姉貴がこんなものを。

 きっとリサイタルの練習なんだろうけど、もう少しキャラというものを考えろ。


 ──港北PAに到着。


 車を降り、自動販売機でコーヒーを買う。

 車に戻り、コーヒーをホルダーに置いてからスマホを取り出す。


 連絡先アプリをタッチ。

 名刺の番号は既に登録済みなので「フラットエイト」と書かれた名前をタッチ。

 姉貴と同業なわけだしコードネームにしておくに越した事はない。

 何より姉貴に何かの拍子で見られてしまうのが一番怖い。


 このコードネームは旭さんの名字が「江田島」から連想した。

 旭さん本人にも、決してこのコードネームの元ネタを知られるわけにはいかない。

 なんせ宇宙空間をフンドシ一丁で泳ぎ渡るガチムチハゲオヤジだから。


 呼び出し音が鳴る。

 ドキドキする

 

 ……五コール過ぎる。


 あれ? 出ないな?

 時間は零時前、本来なら非常識な時間ではある。

 だけど姉貴が帰ってきてからは、まだ一時間も経ってない。


 いや、もしかしたら一時間も過ぎちゃダメだった?

 帰ってきてすぐかけないといけなかった?


 もしかして俺って失敗した?

 どうしよう。迷惑なのかな?


 それとも単に何かあって出られないだけ?

 一旦切ってから掛け直すべき?


 女性に意識して電話掛けるなんて慣れてないからわからない。

 まだ三〇秒経ってないというのに、これだけ頭の回る俺ってなんなんだ。


 留守電に切り替わった。


 えっと、どうしよう?

 何か入れる?

 入れない?


 あっ、電話切っちゃった。

 仕方ない、少し時間を置いてから掛け直そう。


 ……なんか手持ちぶさたになってしまった。


 ドアの小物入れに姉貴の煙草が置いてある。

 吸ってみようか。

 気分に浸るには欠かせないアイテムだし。


 一本抜いて火を点ける。

 煙を吸う……ゴホゴホ、むせてしまった。

 灰皿に押しつける。


 うう、頭がくらくらする。

 姉貴ってよくこんなものを何本も続けて吸うなあ。


 ──着うたが鳴った。


 画面には「フラットエイト」!

 それに気づいたときには、既に通話ボタンをタッチしていた。


「もしもし、こんばんは、小町です」


 「こんばんは」だけでいいのに言葉を連発してしまった。

 焦るな、落ち着け小町。


「こんばんは~、電話出られなくてごめんなさい~」


「俺って何かまずい所に掛けちゃいました?」


「いえいえ~。シャワー浴びてて取れなかったんです~。今は取り急ぎ掛け直しただけなので、お風呂あがってから改めてでいいでしょうか~」


 ああ良かった。

 思わず大きな声で返事をしてしまう。


「はい、待ってます!」


「そんな気合入れなくてもいいです~。二〇分程待ってもらっていいですか~」


「はい」


「ではまた後ほど~」


 そうか風呂だったのか。


 ん? 風呂?

 ということは、さっきの電話の向こうの旭さんは裸だった?

 いかん変な妄想してしまうではないか。


 やめろ俺。

 でも、見たこともない旭さんの裸がもやもやっと浮かんでしまう。

 やっぱ俺も女みたいな顔してたって若い男だよな。

 うん、安心。

 違う違う、全然安心する場面じゃないだろう。

 俺、バカすぎる。


 車から出る。

 夜空を見上げる。

 段々と気分も落ち着いてきた。


 今から話す電話で俺の人生、変わる気がする。

 錯覚かも知れないけど、生まれて初めて自分から電話番号を聞いた女性との会話。

 それくらいの意味があると期待したい。


 着うたが鳴る。

 掛かってきた!


 ……と思ったら、姉貴かよ。


 あと五分くらいはあるし、出とくか。

 無視してもいいが本当に用事だったらまずいし。


「姉貴、何だよ」


「私の車を使ってる身分で『何だよ』はないだろ。本当にパーキングエリアにいるのか?」


「うん、港北」


 「本当に」って、それこそ何だよ。


「下りか。どうせ乗り回すなら、首都高回った方が面白いだろうに」


「だから気分に浸りたかっただけだってば。それで何の用?」


「何となく今掛ければ小町の邪魔をできると思った」


 その無駄な女の勘はみつきさんに使え。


「別にコーヒー飲んでるだけだから構わないけど?」


 平常心、平常心。


「そうか。それで本当の用事なんだけどさ」


「うん」


 ちゃんと用事があったのか。


「帰りがけにガソリンスタンド寄って、満タンにしておいてくれ。帰ったら金渡すからさ。もうあんまり残ってないだろ?」


 そういえば残量チェックしてなかった。

 普段車に乗り付けてないと、こういうところは見落としがちだ。


「わかった。それじゃ」


「車を貸してやってる優しい姉貴に愛の言葉は?」


「ねーよ」


 即座に電話を切る。

 悪いが今の俺にはバカ姉を構う程の心の余裕はない。


 ──するとすぐに着うた。


「しつこい!」


「あ……えっと~、何だかよくわからないけどごめんなさいです~」


 げええええええええええ!


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