13/05/20 三田キャンパス:ふーん
只今、三田キャンパスの生協書籍売り場でラノベを物色中。
大学生協の書籍売場と言えばお堅く聞こえるかもしれない。
しかし売れ筋ランキングに並ぶのは漫画やラノベばかりなのが現実だ。
そして俺も、漫画やラノベをランキングに押し上げるのに貢献する一人。
同じ買うなら書店より割引が効く生協で買うのは当然である。
──背中をポンと叩かれた。
振り向いてみると見晴。
「相変わらずラノベ読んでるんだね。何探してるのさ」
「別に決めてない。よさげなのがあれば表紙買いしてみようかなって物色中」
「そして騙されちゃうわけね」
「そこはお約束だからな。見晴こそ何か探しに来たの?」
「ううん。同じく時間潰しついでに、何かいいのがないか見に来ただけ。僕が読んでるのは三月にまとめて出ちゃったからさ」
貢献してる奴がもう一人。
実は見晴もヲタ。
元々仲良くなったのは、知り合った時点で互いにヲタであることを知ったから。
新歓コンパとか、周囲は興味ない話ばかりで身の置き所なかったし。
もちろん合わせるくらいできるが、やっぱり二次元の話が一番楽しいのだ。
もっとも見晴も一応は女性。
身なりは気を使ってるし、俺以外とその手の話をしているのは見たことがない。
正確に言えば「多趣味」とかそういう部類だろう。
「ねね? 『はた○く魔王さま』見てる?」
「もちろん。あれが今期一番の良作じゃん」
「勇者がアパートから転がり落ちてパンツ見せるとか、無理矢理あざとくしようとしてるのはいただけないけどね」
「しかもそのパンツに色気がないからなあ。でも叩きから入るってことは、お前も観てるわけだろ?」
さらにこの後に続くのは褒め言葉。
この辺りはオタ同士のお約束。
つまんなければ切るから、そもそも話に出ない。
アンチなら、叩きは叩きでも全否定だし
「うん。何がいいかって、なんかこうドンドン腐妄想がかきたてられてさ」
腐妄想ねえ。
男三人がアパート一間で一緒に暮らす話だからなあ。
正直狙っているとしか思えない。
「やっぱり魔界での絆とかそんなの考えちゃったりするわけ?」
「ううん? そこに美形三人いれば、それでいくらでもハアハアできるじゃん」
ああ……。
きっとこういうのが、鏡丘さんの真の敵なんだろうなあ……。
もっとも、おかしいのは鏡丘さんの方なんだろうけど。
「ま、お前って面食いだものな」
「うん、男は顔。美しいと、ずっと眺めていたくなるし」
──後ろから男の声。
「見晴!」
この声は。
ちっ、うざいヤツが。
「栗原か」
振り向く。
そこに立っていたのは見晴の彼氏、栗原。
栗原も切れ長目。
しかし俺と違って男顔な上に男からも女からも格好いいと言われている。
背も高いし金も持ってて遊び慣れてるし。
銀狐でも同期では一番モテていた。
簡単に言えばイケメンでリア充だ。
俺も他人を僻まない様に心掛けてるつもりだが、栗原に対しては例外。
同じ冷酷顔系統でこの不公平ぶりは一体何なんだよ。
神様、答えろよ。
加えて栗原とは性格から趣味に至るまで全く合わない。
きっと向こうも同じだろう。
ハッキリ言えば俺達は犬猿の仲。
栗原も神様もまとめて死んでしまえばいい。
「その声は小町か。噂には聞いてたけど痩せたな。全く別人じゃないか」
「そうだな」
その相変わらずの見下した目はやめろ。
美鈴の上から目線は天然だからまだ許せる。
根拠だってあるし。
コイツの上から目線は相手を見てやっている。
自分より下と認識した上で、しかも意識してやっているのが丸わかり。
とことん始末に負えない。
「それでどうして小町が見晴と一緒にいるの?」
「僕がここに来たら小町が先にいたから話してただけだよ」
見晴が説明する。
本当にその通り、やましいことは何一つない。
どうやら二人はここで待ち合わせしていたっぽい。
栗原も文句あるなら他の場所にしろよ。
大学の生協で出くわすなんて日常茶飯事。
それくらいで「どうして」はないだろう。
きっとこういうのが真の理不尽。
実際には悪意のない姉貴の理不尽とは大きな違いだ。
「ふーん」
アゴを少ししゃくり、いかにも小馬鹿にした返事。
その感情は答えた相手の見晴ではなく、俺の方に向けられている。
バカバカしい。
不快なこと、この上ない。
読んでいたラノベを書棚に戻す。
「それじゃあな」
二人に背を向け、足早に去る。
よりによって一番大嫌いなこいつが見晴の彼氏とか。
既に見晴への気持ちの整理はついている。
だからと言って二人が一緒にいるところは見たくない。
もちろん何もしなかった自分が悪い。
そんなのわかってる。
だけどそれでも言いたいんだ!
ちきしょう……。
こんな思いして後悔するくらいなら玉砕覚悟で告白するんだった……。