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13/05/19(2) 自宅:そんなもん現実にやったら、痴女以外の何者でもねーよ!

「話戻すぞ。妄想としては憧れる状況だけど、現実では考えたくない」


「ほう、それはどうしてだ?」


「二次元には匂いがない。だけど三次元なら、普通に考えて臭いだろ。その女がトイレ行った直後だったりするとサイアクじゃんか」


「納得した。小町にしては珍しく論理的じゃないか」


「ふっ、妄想は妄想、現実は現実ってことだよ」


 俺が姉貴からこんな風に褒められるなんてめったにない。

 たまには姉貴の真似して気取らせてもらおう。


「バカじゃないのか?」


 お前だ、お前!


 ……話を戻そう。


「このイラストと、股を開くのと、姉貴の浴衣。いったい何の関係があるんだよ」


「みつきさんが望むなら、ハプニング仕掛けてガバッと開いて、同じシチュエーションを実現してみようかと」


「そんなもん現実にやったら、痴女以外の何者でもねーよ!」


 この女はバレンタインデーの悲劇を忘れたのか。


「でもマンガだと、このハプニングが二人の仲良くなるきっかけになってるぞ?」


「それはマンガだから。現実なら現実でいくらでも男と仲良くなる手段があるだろ?」


「これまで私はみつきさん以外の男を好きになった事がないからわからん」


「スパイってそういうお仕事なんじゃないの?」


「もちろん仕事ということでなら幾らでも思いつく。だけどみつきさん相手にそんなことしたくない」


 純情なのか、世間知らずなのか。

 その仕事の手腕とやらをみつきさんに活かせばいいだけと思うのだが……。

 そういうわけにはいかないのかな?


「じゃあ他の女性に聞いてみれば?」


「そうだな、都に聞いてみよう」


「あれ? もう連絡取ってるん?」


 先日都さんから聞いた話はよっぽどのグチだし。

 姉貴自身の口からはまだ聞いてない。

 ここは確認しておかないと。


「うん。連絡絶ってた目的は達成したからさ」


 姉貴がスマホを握る。


「こんばんは……ちょっと相談したい事があってな……実は男と仲良くなる方法を教えてもらいたい……いや、本当に知らないんだよ……だって私の場合は男の方から寄ってくるから……それで都なら知ってるんじゃないかと思ってさ……もしもし? もしもし?」


 姉貴が不思議そうに顔を向けてくる。


「『死ねばいい』って電話切られた」


「当たり前だろうが。間接的に『都は私と違ってもてないから』って言ってる様なものじゃないか。思い切り上から目線の発言にしか聞こえなかったぞ」


「あ……」


 姉貴の顔が一気に青ざめる。

 そして慌てた様にスマホを掴んだ。


 普段の姉貴ならそんなこと、気が回らないわけがないのだが。

 どうしてみつきさん絡むとこうなるんだろうなあ。


 姉貴は電話の向こうの都さんに頭を下げまくってる。

 見えないのに。

 でも、ありがちな光景だよなあ。


「ごめんなさい、本当にごめんなさい、許して下さい……うん、そんなつもりじゃない……私は都となら百合と呼ばれる覚悟だってできてる……ひどい……ああ、わかった。都合のつく週末で打ち合わせしよう……それじゃ」


 姉貴が顔を向けてきた。


「『私と小町君と美鈴君に焼肉を奢ってくれるなら許してあげる』って言われた。何でお前と美鈴まで御指名なのかわからんが……仕方ない、今度焼肉に連れて行ってやる」


「らっきー」


 都さんありがとう。

 心の中で手を合わせながら頭を下げる。

 恐らく都さんが最初に電話切ったのはわざとだ。

 姉貴が失言したくらいで目くじら立てる人とは思えないし。

 何より……今更だろうからな。


「で、話は戻るんだが」


「戻すな! もういいだろうが!」


「よくない! ハプニングでガバッはともかくとしてだ。浴衣には色々と下着着用のパターンがある。その中のどれがいいかと思ってな」


「だから、俺に聞いても知るわけないと言っている!」


「浴衣向けの下着はあるんだが、最近はスパッツやレギンスを合わせるってのもあってな。それなら本当にハプニングでガバッがあっても大丈夫かなって」


「人の話を聞け!」


「私も下着よりは気にならないし、みつきさんはスパッツフェチだし」


「知るか! 他の人に聞けよ!」


「そうだな、シノに聞いてみよう」


 今度はシノさんか。

 姉貴がスマホを取り出して電話をする。


「私だ、休日なのにすまないな。少し相談したい事があって……明日に浴衣着るだろ、下は何を合わせるか迷っていてな……生足まで見せてやる必要はないしレギンスでいいか……私はキャミ合わせるつもりだけど……シノも大きいだけに大変だよな……」


 今度はまともに会話が続いてるっぽい。


 だけどシノさんも、せっかくの休日なのに。

 こんなくだらない用事で電話をかけてくる上司を持つと大変だよな。


 まだ話が続く。


「……うん、それでだな、よかったら私の弟と会ってみる気はないか?」


 はい? 何を言い出す?


 いや、シノさんとなら年の差なんて気にしない。

 会ってくれるというのなら、俺は今すぐダッシュで家を飛び出す。


「ほらシノって『恰幅のいい人』が好きなんだろ?……またまたあ、照れなくてもいいんだぞ?……私の弟は春先まではデブ。もう痩せたけどリバウンドさせるのは簡単だ……顔は私と作り自体は同じだから美形だ。弟の方が柔らかく見えるくらいの違いで……『それはちょっといいかも?』。そうだろう、そうだろう」


 色々と後でツッコませてもらうとしてだ。

 もしかして俺、シノさんから好感触?

 

「中身も私と同じ性格だから自信を持って薦められる……そうか、仕方ないな……うん、おやすみ」


 姉貴が顔を向けてきた。


「『観音さんみたいに完璧な女性と同じ性格の弟さんなんて私には勿体なさすぎます』って断られた。はあ……シノがそう思うのはもっともだし諦めるか」


「ああ、もっともだよ! それって『観音さんみたいに面倒くさい性格の人間をもう一人相手しなければならないなんて私には迷惑すぎます』ってことじゃないか!」


「小町、他人の言葉は素直に受け取るものだぞ?」


 それ、絶対にスパイの台詞じゃない。

 それにだな……。


「俺を人身御供にするのはいい。『リバウンドさせるのは』ってどういうことだ!」


「お前をシノに押しつければ、シノもみつきさんを諦めると思って」


「そこじゃない! 自分の恋のために弟をデブらせるなんて、姉貴は悪魔か! どこからそんな発想が湧く!」


「目的のためなら手段は選ばない。それがスパイの常識だ」


 お前、さっきまったく正反対のこと言ってたよな。


「だいたいシノさんだって、デブなら誰でもいいってわけじゃないだろうが!」


「いや、小町とみつきさんの共通点は多いぞ。両方とも女顔だし、ヘタレだし、ヲタだし、デブったし。ああ、お前は女顔じゃなくて女そのものの顔だから少し違うけど」


「もういいから! これで用事は済んだよな!」


 立ち上がり、リビングを後にする。


 よく自分の好きな人と弟を重ねられるよ。

 やっぱり姉貴こそブラコンだろ。


キノコ読んでいる方は本話から違和感を受けるかも知れません。

それは両方を読んでいる場合のみ気づく伏線です。

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