13/05/15 自宅:前からシスコンとは思ってたけど、ついに私を襲うのか?
夕べの姉貴の帰宅は遅かったっぽい。
俺が寝たのは午前一時前。
しかし、その時点ではまだ帰ってなかった。
やはり社会人って大変なんだと思う。
今日は二限から授業。
時計を見ると午前一〇時。
そろそろ家を出ないとな。
玄関へ──あれ?
姉貴のパンプスがある。
姉貴は几帳面だから、普段履く靴とつっかけ以外は靴箱にしまっている。
そしてつっかけもある……。
──まさか!
急いで戻り、姉貴の部屋の襖を開ける。
やっぱり!
「姉貴起きろ、姉貴!」
「ん……もうおかわりできない……」
一体何の夢を見てるんだ。
いや、それどころじゃない。
「寝ぼけてるんじゃねえよ! 起きろ!」
掛け布団を剥ぐ。
枕を無理矢理引っこ抜く。
「あんだよ……いっらい……おこふなよ……まだ目らまり鳴っれないらろうが……」
「やっぱり寝過ごしたのか。もう一〇時前だぞ?」
「ひま……らんれ言った?」
「一〇時前」
姉貴がガバッと飛び起きた。
慌てたように枕元の時計を掴む。
「やっちまったああああああああああああああああああああああああ!」
姉貴、絶叫。
両手で俺の肩を掴み、体を揺すってきた。
「小町どうしよう。なあ、どうしよう」
「落ち着け。とりあえずは職場に電話するのがいいんじゃないのか?」
「はっ、そうだった。今までこんなミスしたことないから思いつかなかった」
姉貴がスマホを掴む。
そのまま固まった様にスマホを眺める。
「早く掛けろよ」
姉貴がスマホを差し出してきた。
「小町掛けて」
「いい年して何言ってやがる! 自分で掛けろ!」
しかもどこから発したかわからない様な甘えた声出してるんじゃねえ!
お前、今すぐ声優になれるよ!
「上司としての威厳──」
「俺がこれまで聞いてる限り、姉貴にそんなものないから大丈夫だ」
「そんなにイジメなくてもいいじゃないか」
「しょぼくれてんじゃねえ! さっさと掛けろ!」
姉貴が「あー、あっあ」等と声色を変えてから渋々電話する。
仮病のつもりか。
「天満川ですが……弥生か、おはよう。実は……ゴホ……頭痛がして……ゴホゴホ……喉も痛いんだ──」
演技そのものは下手だった。
もう誰が聞いても仮病バレバレだ。
「……すまない……ゴホ……午後からは出るから……ゴホゴホ……よろしく頼む」
姉貴が電話を切り、スマホを枕元に放り投げる。
でも声は、確かにどこかしゃがれてる。
「姉貴、本当に風邪引いてるとかはないか?」
「なんで?」
「声がしゃがれてるから」
「ああ、これはカラオケで歌いすぎて喉が潰れただけだ」
「はあ?」
「夕べは終電までみつきさんとカラオケしてたものでな」
「するってとあれか。姉貴が夕べ遅かった理由も寝過ごした原因もカラオケと」
少しでも「社会人って大変」と思った俺がバカだった。
みつきさんも可哀相すぎる。
リサイタルに付き合わされた挙げ句、寝過ごす上司を持つとは。
役所で今頃きっと呆れてるんだろうなあ。
いや、それ以前に姉貴。
みつきさん落としたいなら、一緒にカラオケ行っちゃダメだろ。
姉貴がぽんぽんと枕を直し、掛け布団を被る。
「さあ、寝直そう。せっかく午前休とったことだしな。一一時三〇分になったら起こせ」
姉貴の掛け布団を引っぺがし、そのままリビングにぶん投げる。
「何をする。前からシスコンとは思ってたけど、ついに私を襲うのか?」
姉貴が訳のわからない台詞を吐きながら掛け布団を拾いに行った。
その隙に敷き布団を畳む。
「『起こせ』じゃねえよ。俺はこれから学校。もう一回寝過ごしたらどうすんだよ」
姉貴がDKでそのまま掛け布団にくるまる。
どこまで面倒くさい女だ。
「小町も学校休めばいい。姉弟仲良くさぼろうではないか」
「姉が弟に言う台詞か。目覚ましだけはセットしてやったから、後は勝手にしろ」
「ぶーぶー。観音ちゃん寂しい」
姉貴がすがりついてくる。
すぐさま蹴り飛ばす。
「知るか、行ってくる」
ブラコンなのは姉貴の方だろ。
キリがないので早く出よう。
「キノコ煮込みに秘密のスパイスを」13/05/15(1)横浜オフィス
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