13/05/02(2) 品川駅:。゜(゜´Д`゜)゜。
──品川駅で下車。
ああ、久々の東京はやっぱり人が多い。
人いきれにやられそうだ。
さて、美鈴に電話を入れなくては。
さしあたって新幹線から美鈴にメールしてみた。
返ってきたのは、
【。゜(゜´Д`゜)゜。】
という顔文字だけだった。
──電話がつながった。
「もしもし、美鈴?」
〔あ……い、小町さんですか……〕
声は確かに美鈴。
しかし息が絶え絶え。
「どうした?」
〔のぼせました……観音さんに見張らされて……温泉内の状況を逐一報告しろって言われて……特にシノさんって人の挙動は詳細に報告しろと言われて……〕
命令する姉貴も姉貴だが、従う美鈴も美鈴だ。
というか、スパイする対象を間違えてるだろ。
いつから北朝鮮じゃなくて同僚が監視対象になったんだ。
以前には確か「好きな人をストーカーするなんて」とか言ってたよな!
「それでバカ正直に報告し続けたわけ?」
〔その都度、適当にでっちあげました……知らない事が幸せという事も世の中にはあります……それが大人の世界というものです……〕
内容を聞いたわけじゃなくて、単に呆れただけなのだが。
それすらわからないくらいに疲弊しきっているのか。
ついでにお前は子供だろう。
成年してないし、学生だし。
「どうせ誤魔化すなら、のぼせるまで入ってる必要ないじゃないか」
〔上手にウソをつくためには、実際にちゃんと見ておかないと……目立たない様にするには全身浴するしか……〕
こいつも案外生真面目だよなあ。
この辺り、やっぱりあのおじさんの息子というべきか。
「今はどうしてるんだ?」
〔三人とも帰ったんで……更衣室で寝転がってます……このまま倒れていれば痴女として通報されて……きっといつかは運び出してもらえるでしょう……〕
男子更衣室を覗いた行為で迷惑防止条例違反か。
美鈴も開き直ってるよな。
本来は法に何一つ触れない行為。
美鈴の態度も行動も当たり前のはずなんだが。
「わかった。急いでそっちに行くから待ってろ」
〔はい……〕
電話を切り、急いで京浜東北線のホームへ。
ああ、忘れるところだった。
姉貴の着信拒否を解除しておかなければ。
──大井町駅に到着。
東急大井町線のホームへ向かう途中に姉貴からの着信が入った。
〔誰とどれだけの時間どんな事を話していたのか、これから詳細に説明願おうか?〕
着信拒否の場合は、話し中のツーツー音が流れるらしい。
俺こそ姉貴がどれだけの時間俺に電話をかけ続けていたのか詳細に説明願いたい。
しかし本当に問おうものなら、きっと秒単位で答えを返される。
ここはスルーだ。
「それどころじゃないだろう。美鈴がのぼせて倒れてるみたいだぞ?」
〔そうかすまん。着いたら休憩所に運んでやってくれ。私も仕事を終えて、現在は温泉に向かっているところだ〕
「つまり姉貴も温泉に入りたいということか? 俺達と一緒にさ」
〔別にそういうわけではない。みつきさんの入った残り湯を味わいたいだけだ〕
恥ずかしいから誤魔化したつもりなのだろう。
しかし逆に変態じみた台詞になってしまっている。
しかたないなあ。
「さすがに今日はかわいそうだから付き合ってやるよ。だけど美鈴は解放してやれ」
「美鈴に無理強いするつもりはない。だけど……」
「だけど?」
「小町の水着姿見たら生き返るよ」
画面の【終了】をタッチ。
死ね。
しかしどうするかなあ……。
温泉に入るというなら、俺も美鈴を心配している場合ではない。
上半身裸だと通報されかねないのはアイツと同じなのだから。
プールならパーカー着て誤魔化す手がある。
だが温泉となるとそうはいかない。
タンキニで誤魔化しつつ、目立たない夜に入浴するしかないのは事実だ。
これだから男の娘って……。
しかも俺は姉貴の命令で、あそこ以外全身のむだ毛をつんつるにさせられている。
それゆえタンキニを着ても違和感がない。
姉貴にはいい加減に生身の男を知れと言いたい。
「男の毛なぞ見たくない」って、三十路突入間際の女が言う台詞じゃないから!
デブの内に男物の水着を着ておくべきだった。
ダイエットなんてするんじゃなかった。
ああ、この点だけは心から後悔する……。