13/04/24(3) 二子玉川:イチゴ大福発明した人って、ノーベルおやつ賞もらってもいいと思うんだ
「うー、んまんま。やっぱり三時のおやつはイチゴ大福だよね」
要求された然るべき対応。
それはイチゴ大福を奢ることだった。
「うー、んまんま。イチゴがダブルで入ってて幸せ~」
さっきまでのどこか険のあった雰囲気はどこへやら。
「うー、んまんま。イチゴ大福発明した人って、ノーベルおやつ賞もらってもいいと思うんだ」
皆実は無邪気にイチゴ大福へぱくついている。
見てるだけでも大好物なのがわかる。
「うー、んまんま。舌を押し潰す様な甘味に洗い流す様な酸味の見事なハーモニー」
というか、ここ店の前なんですが。
「うー、んまんま。でもって、ぐにっとしてむにっとしたもちもち感、さいこー!」
なんかイヤらしいな……というか、大好物すぎだろ。
「うー、んまんま。おかわり!」
「まだ喰うのかよ! 次で六個目だぞ!」
「その辺でちょっと高い御食事奢るよりは安くついてると思うんですけど?」
「お金はいいよ! そうじゃなくて太るだろうが!」
「へへ、心配してくれるんだ。小町さんって優しいなあ」
「世辞はいらない」
どうせおだてに乗れば笑うのは目に見えてる。
伊達に色んな人から色んなパターンでいじられ続けてるわけじゃない。
おかげさまでスルー耐性がますます強化されてしまった。
「つまんないの。御礼としてイチゴ大福に捧ぐフラダンス踊ろうと思ったのに」
「こんな場所じゃなければ是非とも拝みたいけどな……すみません、イチゴ大福二つ下さい……ほらよ」
イチゴ大福六個目を手渡す。
よくこれだけ食えるものだ。
俺も食べたくなったのでぱくつく。
一方で美鈴は見てるだけで気分悪くなったのか、完全に背を向けてしまっている。
「いただきます。んー、んまんま。でも心配は無用ですよ」
「無用って?」
「流川家って本来はいくら食べても太らない家系ですから」
「でもみつきさん太ってるじゃんか」
皆実がごくんと六個目のイチゴ大福を呑み込む。
「そこです。ちょっと小町さんに話伺えないかなあと」
「何を?」
「兄ぃに職場で何が起こっているのか。観音さんから聞いてるんじゃありません?」
あれ? 知らないんだ?
そっか、みつきさん……皆実に話してないんだ。
でも当たり前だな。
兄としては妹に要らぬ心配かけたくないだろうし。
兄の鏡じゃないか。
弁当の一件では真性と思ったけど、少し見直した。
だったらここはみつきさんの意を汲むべきだな。
「ううん? 全然聞いてない。大体、どうして『そこです』なわけ?」
そもそも話が全然つながってない。
「気を遣わなくていいですよ。体質的に太る理由なければ精神的なものでしょう。だったら職場でイジメられてるのかなって」
「強引な論理だなあ」
「そんなの抜きにしたって、去年から目が死んでるんだからわかりますってば」
目が死んでるか。
兄妹なら確かにわかるかもな。
でも簡単に認めるわけにはいかない。
「例えそうだとしても、彼女に振られたとかかもじゃん」
皆実がふっと笑う。
「兄ぃに彼女はいませんよ。うちに無断でそんなもの作らせない」
「ちょっ!」
どこまでブラコンだ!
しかも照れもせず、平然と言い放ちやがる。
「とぼけるのも結構ですけど、知ってることはとっとと話していただいた方が賢明ですよ。時間のムダが嫌いなのは美鈴君だけじゃありませんし」
「だって知らないものは知らないし」
「その台詞が出てくるのがワンステップ遅いんですけど……スカイプもそうでしたけど、小町さんは変に気を回しすぎ」
「は?」
美鈴が背を向けたままで告げてくる。
「時間のムダだから言っちゃいますけど、本当に知らないなら『彼女に振られた』云々なんて聞きませんよ。本当に知らなければ『知らない』としか答えようがない。心当たりがあるから、そういう問いが口をついてしまうんです」
お前はどっちの味方だ。
つーか、二人ともイヤったらしすぎだよ。
変な駆け引きばっかりしやがって。
もっと気楽に素直に生きようよ。
皆実が再び口を開く。
「ただとは言いません。話してくれるなら、うちも出方を考えます」
「出方ってなんだよ」
「うちの知ってることは話しますし、兄ぃに黙っててあげてもいい」
「話さなければ?」
「全部バラす。どっちに転んでもうちは面白いから、別に損しない」
最悪だ。
しかし選択の余地はないな。
「わかった、話すよ。その前に場所を移動しよう」
イチゴ二つとある通り、一応モデルの店はあります。
しかし恐らく今の季節、イチゴ大福は売ってません。
架空の店の架空の状況としてお受け取りください。