13/04/24(2) 二子玉川:うちが兄ぃにバラせばどうなるかなあ?
女の子はくりっとした目が印象的。
きっと、みつきさんが痩せて女っぽくなったらこうなるのだろう。
一言で形容すればかわいい。
一方で俺と姉貴ほどには似てないが、一目で兄妹だとわかる。
背格好は俺達と同じくらい。
ただし俺達と違い、出るとこは出ている。
顔のせいか、ほどよい肉付きのせいか、短めの髪のせいか。
ぱっと見た目は活動的な印象を受ける。
美鈴はきょとんとしている。
痩せたみつきさんの顔を見てないからな。
しかしその表情をひっこめて、女の子に問う。
「もしや、皆実さん本人ですか?」
「もっとびっくりするかと思ったけどな。ここは普通、『どうしてここに?』とか聞くところじゃないの?」
俺は十分驚いてるよ。
聞きたいよ。
だけど、美鈴の機嫌が悪そう。
「あなたと一緒にしてほしくない」、この言葉がカチンときたっぽい。
「生憎と時間をムダにするのは嫌いなんで。さっき小町さんが『見張られてる』とか言ってましたし、学校から僕の後でもつけてきたんでしょ」
「『どうして僕を?』とかは?」
「それはこれから聞きます」
「うっわ、美鈴君ってすっごくつまんない」
皆実が頬を膨らませる。
「『うちと』って言うんだから、それしかないでしょう」
……ん、待てよ。
皆実は俺達の顔も男の娘であることも知っている。
入学式で姉貴が話したらしいから。
でも、名前は教えてないって言ってた。
「皆実さん、名前はどこから聞いたの?」
「『さん』づけはいりません。だって二人とも日吉じゃ有名ですもん」
「有名?」
「みんな『百合百合コンビ』って呼んでますよ。知らないんですか?」
「俺達は百合じゃねえ! せめて薔薇にしてくれ!」
美鈴が口を挟んでくる。
「別に百合でも薔薇でも結構ですけどね。僕達の前に顔を出したからには何か目的があるんでしょう?」
「ふーん、誤魔化さないんだ?」
「時間のムダは嫌いだと言ったはずです」
「つまんないの」
皆実は事も無げ。
実際は俺達が困ればよし、そうでなければどうでもいいといったところか。
一方で美鈴はカチンときたっぽい。
あしらわれたと思ったのか、口調がきつくなる。
「これ以上話を続けたいなら、まずあなたが皆実さん本人である証拠を示すべきじゃありませんか?」
「どうぞ」と皆実が定期入れを差し出してきた。
定期はあざみ野-日吉区間。
つまりみつきさんの住んでる駅と同じ。
開くとK大の学生証。
【法学部法律学科 流川皆実】
「美鈴。恐らく本物の皆実だ。学部も合ってる」
美鈴が頷く。
「じゃあ皆実さん、さっき聞きかけたことです。どうして僕を尾行したんですか?」
「小町さんと美鈴君が仲いいのは知ってるし。追っていけば小町さんに会えるかなって。一発でビンゴだったのはらっきーだけどさ」
「小町さんを直接追えばいいじゃないですか」
「まず三田まで行かないとだから無駄足になる可能性の方が高いし。美鈴君も教え子だから、尾行ついでに弱み握れれば取引材料に使えるし」
いや、そういう台詞をさらりというのはやめてくれ。
「じゃあ尾行した理由は?」
「それを聞きたいなら、然るべき対応があってもいいんじゃない?」
「然るべき?」
「うちが兄ぃにバラせばどうなるかなあ?」
「やってみればいいじゃないですか」
「じゃあそうする。うちとしては、それはそれで面白いし」
皆実が手を振りながら踵を返した。
まずい!
「皆実やめてくれ! 美鈴も煽るな、こいつは絶対にバラす!」
「小町さんの方はわかってるじゃん」
面白ければそれでいい。
そういう皆実の性格はスカイプでもうわかったからな!
「まずはその然るべき対応ってのを聞こうじゃないか。話はそれからだ」
皆実がニヤリと笑う。
「えーっとねえ……」