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13/04/23(1) 自宅:構ってちゃんは他人から構われるのは大好きだが、他人を構うのは大嫌いだ

 美鈴からは依然音沙汰無し。

 現在天応にログインしていない。

 すなわち俺が美鈴に追いつく絶好のチャンス。

 現在打っている半荘で二着以上を取れれば八段昇級である。

 似たような台詞をこないだも言った気がするけど、気にしない。


 オーラス。

 俺は二着目の南家。

 どこかで見た様な光景だが、要は白が出れば俺のアガリという状況。

 まるでコピペの様なこの状況がどのくらいの確率で出現するのかは知らない。

 とにかく今度こそ白が出て欲しい。


 ──でも、もう展開は読めている。


「小町来い!」


 やっぱり。

 姉貴が部屋に飛び込んできて以下略。

 俺もマスターや鏡丘さんに続き「ラプラスの魔」スキルを修得した様だ。


「もう何言われても諦めるよ。今夜は何?」


「カラオケボックス行くぞ」


「放せ! このバカ姉貴! 誰が行くか!」


 逃げようとするも首が絞まって逃げられない。

 みつきさんを尾行したときも思ったが、この女はどれだけ怪力だよ。


 そのまま玄関の外に連れ出される。

 とりあえずサンダルだけは履かせてくれた。


「土曜日に『後でカラオケボックスに行く』と言ったら『うん』って言ったじゃないか」


「もう火曜日だろうが! そんなのとっくに忘れてたぞ!?」


「『後』には違いないだろ? 男なら二言を違えるなよ」


 屁理屈ばっかりこねやがって。

 しかも「男」ときたものだ。


「じゃあ、そこは譲ってやろう。付き合ってやるよ」


「ありがとう。じゃあ行こう」


「『そこは』って言っただろうが! どうして毎回八段を目の前にしたタイミングで邪魔をする! 終わるまで待てよ! 他人の都合くらい聞け!」


「他人だなんて何を言う。姉弟の間で遠慮なんているものか。私が行きたいと思った時につきあうのが弟としての義務だ」


 この噛み合ってる様で全然噛み合ってない返答はなんなんだ。


「そんな義務ねーから。『親しき仲に礼儀あり』って諺を知らないのかよ!」


「『礼も過ぎれば無礼になる』という諺で返してやろう」


「過ぎる前に礼が一欠片も存在しないじゃないか!」


「私達は幸せな姉弟だよなあ、礼も必要ない程に固い絆で結ばれていて。私達を産んでくれたお母さんも遠い天の彼方からきっと喜んでくれている」


「遠い目をしながら、まるで死んだかの様に言うな。来月には広島で会うだろうが!」


 ゴールデンウィークだからな!


「どうせまた『早く結婚しろ』って繰り返すんだよ、やれやれ」


「だから話をそらすんじゃない!」


「うるさいなあ、もう着いたぞ」


 ずるずると店内に引き摺られていく。


 もういいよ。

 勝手にしろよ。

 諦めたよ。

 どうせこれも定められた運命なんだよ。


 ──ルームに入り、ようやく離してくれた。


 姉貴が「今日は好きに頼め」とメニューを放り投げてくる。

 カロリー管理を放棄するくらいの罪悪感くらいは抱いてるらしい。


 インターフォンをとって注文する。


「えっと、フライドポテト二つに──」


 すると姉貴が口を挟んできた。


「三つだ。美鈴も呼んだから。もう少しで来る」


 はい?


「土曜の一件は姉貴にも話したはずだけど?」


「だからこそだよ。美鈴に頭を冷やさせた方がいいという小町の判断は間違ってない。だけど度を超えた放置は、本当に美鈴ENDを招来しかねないぞ」


 姉貴は真顔でいつもの落ち着いた口調。

 真面目に言っているらしいから耳を傾けよう。


「どういうこと?」


「美鈴がただの構ってちゃんならいいさ。他と話して気を紛らわすかもだし、他に行くかもしれないし」


「だから、その『他』に目を広げて欲しいと」


「でも広げなかったらどうする? 行き場のない思いが溜まって、結局は唯一の友人である小町に暴発するぞ?」


「それはイヤだ! でもヤケに説得力あるな」


 姉貴が勝ち誇ったように、たばこへ火を点ける。


「ぼっちマスターの私が言うのだから間違いない」


「そんな台詞で勝ち誇るな!」


「暴発して他人に迷惑を掛ける前にちゃんと吐き出さないとな」


「スルーするな! しかもそれって俺にだよな!」


「ああ、小町を産んでくれた遠い天の彼方のお母さんに感謝したい」


「同じ事を何度も言わすな。録音してお母さんに全部聞かせるぞ。大体、姉貴だって美鈴の『友人』と入学式の時言ってたよな。だったら姉貴が受皿になってやれよ」


 姉貴が視線をついってそらす。


「しらんのか。構ってちゃんは他人から構われるのは大好きだが、他人を構うのは大嫌いだ。私の所にも『探さないで下さい』ってメールきたけど、返事してないよ」


「最悪だな。この人でなしが」


 姉貴にまで出す方も出す方だが。


「だって探すなって言うから探さないんじゃん。そこで構うとつけあがるから小町だってほっといたんだろ」


 ブーメランされた。


「まあ……」


「でも何事も程々ってのがあるって話だよ。美鈴が来たら、何も聞かず話さず普通に相手してやりな。私もそうするからさ」


 姉貴なりに気を使っていたということか。

 ここは素直に従おう。


「でも、姉貴はてっきり美鈴ENDを望んでると思ったけどな」


「美鈴が嫁に来てくれるならそれでも構わないけど、小町を嫁に行かせるわけにいかないし。私がみつきさんと結婚したら、お前が母さんの面倒見ないといけないんだから」


 どこまで本気だ。

 本当にそうなれば、というかどっちにしても、母さんの面倒は俺が見るつもりだが。

 それはそれとして嫁嫁繰り返されるのは、いい加減にイラつく。


「姉貴、夢を見るのは結構だけどさ」


「小町風情が何を煽るつもりだ?」


 やれるものならやってみろって感じだな。

 早くカラオケに満足して、とっとと解放してもらいたい。

 よし、地雷を踏むぞ。


「正体も明かせない。好きとも言えない。夏には霞ヶ関に戻るし来年にはワシントン。その上に自分よりも美人な恋敵と直面している女の台詞とは到底思えないな」


「シノめ、今頃は楽しくみつきさんとデートしてるんだろうよ。ド畜生おおおお!」


 姉貴は叫ぶや否や、すごい勢いで曲を入れだした。


 本当に地雷だった。

 つまり今のこの状況はヤケカラオケか。


 さて、今日は何のメドレーなんだろうなあ……。


「キノコ煮込みに秘密のスパイスを 13/04/23横浜オフィス」とリンクしてます

(宣伝では4/22となってますがミスです。もうしわけありません)

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