13/04/20(4) 自宅:みつきです、おはおは~
みつきさんが呼びかけてくる。
〔みつきです、おはおは~〕
「ねぎです、おはおは~」
〔男……でいいんだよな?〕
やっぱりか。
わかってはいてもイラっとくる。
ここは打ち合わせ通りにと。
「そうですよ。ボク、こんな声してるからスカイプ嫌いなんです」
〔みなみです、あんにょん~〕
なぜハングル語!
一昔前ならともかく、ネトウヨの多いネトゲ内で使う挨拶じゃないぞ?
とりあえず答えよう。
姉貴は朝鮮関係の専門家。
それなら逆に連想させない方がいいんだよな。
「ねぎです、えーと……あんにょん? というか……なぜ韓国の挨拶?」
──えっ!
姉貴が顔を覆った。
俺、何かやらかした?
しかし姉貴はすぐさま首を振ってきた。
気にするな、ということなのだろうか。
みなみが返事をしてくる。
〔韓流アイドル好きなもので〕
はあ。
案外ミーハーなんだな。
ネトゲやっている人だと三次より二次に走る方が圧倒的なんだけど。
ここは無難に合わせておこう。
「カッコイイ人多いですもんね。女性は背が高い人ばかりだから、僕はあまり興味持てないんですけど」
〔じゃあどんな女性が好きなんですか?〕
姉貴がスケブで【そのまま答えろ】と指示。
「背が低くて巨乳であどけなくて……って何を言わせるんですか!」
〔あはは。その返事からするとねぎさんって本当に男性だったんですねえ〕
この女と決めつけたような物言いはなんなんだ。
しかも常日頃から言われる身の俺としては、本気でムカつく台詞。
「男ですけど、それがどうかしました?」
姉貴がスケブで【声に感情出てる。抑えろ】と示してくる。
そんなに悪態ついてしまったか。
〔いや、俺は最初から男だと思ってたんだけど、皆実が絶対女とか言い出してさ〕
「どこからそんな発想が湧くんですか。非常に問い質したくなるんですけど」
姉貴は本当に何をしたんだ?
完全に疑われてるじゃないか。
〔うち、わくわくしてきた。その声で男性って何だか面白そう〕
わくわくじゃないよ。
滅茶苦茶いい性格してやがる。
どうして俺の前に現れる子はこんなのばかりなんだ。
会う前からヒロイン候補除外確定じゃないか。
「やめてください。僕、本気で気にしてるんですから」
「俺もその声を聞いてると会いたくなってきた。男なら尚更だ」
うげっ!
背筋がぞわっとした。
姉貴は姉貴で、顔を引きつらせてしまってる。
なんとか話の方向を変えないと。
「キモイからやめて下さい。みなみさんとなら喜んで会いますよ」
〔兄ぃとセットでいいなら喜んで会いに行くよ〕
ヤブヘビだったか。
話が変な方向に飛んでしまった。
次はどうする?
考えあぐねていると、姉貴がスケブで【昔のお前の体重を言え】と示してきた。
「……僕って九〇㎏近いデブですよ。それでもいいですか?」
〔ねぎ! 『いいですか』じゃねえ! 何をどさくさ紛れに妹を口説こうとしている!〕
よし、うまく話が戻った。
この流れのまま、なんとか話を終わらせてしまおう。
〔シスコンはほっといていいよ。それに兄ぃも八六㎏だから大丈夫〕
〔うるさい! お前こそブラコンじゃねえか!〕
「あはは。マッシュの中でも思いますけど、二人とも仲いいですよね」
本音でそう思う。
〔ブラコンの妹だから〕
〔シスコンの兄だから〕
「ほらやっぱり。どっちもどっちじゃないですか」
そしてリアル姉でなく妹が欲しかった身としては、かなり羨ましい。
〔それじゃこの辺りにしようか。今晩はねぎと直接話せて楽しかったよ〕
〔うちも楽しかったです〕
「いえいえ、こちらこそ楽しかったです。お二人の声が聞けて良かったです」
〔んじゃ、ねぎ。またマッシュでな〕
〔うちもうちも~〕
「はい、それでは」
スカイプを切る。
なんとか無事終わったか。
はあ……。
つい目を瞑り天を仰いでしまう。
──肩をポンと叩かれる。
「小町。すまなかったな。ありがとう」
珍しく素直な態度を取るじゃないか。
「いえいえ、お役に立てたようで。そういえば途中顔を覆ったのは?」
「あ……いや、なんでもない。きっと私の考えすぎ」
「ふーん? それじゃ俺は部屋に戻るわ」
「ああ。おやすみ」
ま、うまくいってよかった。
どうやらカラオケの件も忘れてくれたっぽいし。
──部屋に戻る。
中断させられた天応の牌譜を見てみた。
俺が連行された直後にロン牌の白が打たれていた。
挙げ句に無人となった「こまっち」は、振込マシーンと化してラスに落ちていた。
でも姉貴が助かったんだからそれでいいか。
そう思わないとやってらんねーからな!