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13/04/20(3) 自宅:度胸だけならいいんだけどさ……この子怖い

「じゃあ本題に入ろう」


「おう」


「まずはじめに。私の弟とばれたら殺す」


「のっけから無茶言うな! 俺の知らない話が出たらどうするんだ!」


「これで指示する」


 姉貴はスケッチブック、いわゆるスケブとマーカーを取り出す。

 そんなものどこから用意した。


「でも俺の声って、何も知らなければ男と女のどっちでも取れるぞ? 『やっぱり女じゃん』とか思われるんじゃないの?」


「とにかく男で押し通せ。所詮はネット、言った者勝ちだ」


 無茶言うなあ。


「まあ、姉貴が出るよりはマシか」


「うむ。それにお前の声質を考えて、ちゃんと伏線も張ってある。そこは任せろ」


「伏線?」


「あとでログ読めばわかる。それとPCの向こう側には、みつきさんの他に妹がいる」


「マッシュ始めた頃、姉貴にも色々教えてくれたとかの?」


「そそ。マッシュ内では『みなみ』という名前だ」


「どういうこと?」


 姉貴がPC画面を指さす。


 画面は湖。

 現在は魚釣りよろしくレアアイテムが釣れるイベントをやってるからだな。

 そのほとりに、ねぎ、みつきさん、他のキャラの三人が座っている。


 これがみなみか。

 ショートカットの女性キャラ。

 ドレスにスパッツがぷりぷりきわきわっぽくていい感じ。

 全体にすっきりしたコーディネイトで活動的な印象を受ける。


「どことなく写真で見た昔のみつきさんに似ているな」


「実際似てるぞ。そこに映るキャラ通りの子って感じ」


 実際?


「まさか会ったわけ?」


「入学式で別れた後たまたまな。今年からK大なんだって」


「それは奇遇だな」


 広いようで狭いキャンパスだから、会うこと自体は珍しくないけど。


「素晴らしい妹だよ。なんせ初対面の台詞が『こんな若くて綺麗な方が兄の上司だなんて』だからな。今じゃすっかりメル友だ」


「メル友?」


「まず将を射んとせば、と思ってさ。とりあえず『いつでも連絡を下さい。食事でも奢りますから』と名刺渡してみた。そしたら返事があって、それ以来」


 姉貴にしては珍しくまともな行動だ。


「しかし、そんな社交辞令を真に受けるもの?」


「入学式では手をつないでたくらいのブラコンだからな。実際は偵察とかその類だろ」


「大人相手にいい度胸してるなあ」 


「度胸だけならいいんだけどさ……この子怖い」


「怖い? 姉貴がそんな台詞吐くなんて珍しい」


「何しでかしてくるかわからないところがあるんだよ。とりあえずログを見ろ」


 言われた通り読んでみる。 


【みなみ:ねえねえ、ねぎさん。スカイプで直接話してみません?】


【ねぎまぐろ:いきなりどうしたんですか?】


【みなみ:実は兄ぃがねぎさんと話したがってるんだよ。ねぎさんの声聞きたいって】


【ねぎまぐろ:みつきさんがそう言ったんですか? 何かイメージ合わないなあ】


【みなみ:うちも参加するからさ。ねぎさんともっと仲良くなりたいし】


【ねぎまぐろ:うーん、私ってヘッドセットをパソコンに常設してないんですよね】


【みつき:みなみ、お前は人が風呂に入ってる間に何してやがる!】


【みなみ:おかえり。いいお湯だった?】


【みつき:おかえりじゃない。スカイプしたがってるのは俺じゃなくてお前だろうが】


【みなみ:うち、あんなにお風呂頑張ったのに】


【みつき:話をそらすな! ねぎ、申し訳ない。こいつが勝手に誘ってるだけだから】


【ねぎまぐろ:あはは。いいですよ。スカイプで話しましょうか】


【みつき:へ?】


【みなみ:いやっほい】


【ねぎまぐろ:あんまりスカイプでいい思い出がないから普段はしないんですけどね。どこかにしまってるはずのヘッドセット探すんで、三〇分程待ってもらえるのでしたら】


【みつき:うん。それくらいなら。でもいいの?】


【ねぎまぐろ:いいですよ、私も二人の声聞いてみたいし。準備してきますね】


 なるほど……。

 どうやらみつきさんが何かハメられて、その隙にみなみが話を持ち掛けたわけね。


「断ればよかったじゃん」


「いきなりそんな話を振ってきたから怪しいんだよ。みつきさんまでハメられてるし。ここで受けておかないと、次は何されるかわからん……」


「ああ、なんとなくはわかる……」


 自分が楽しければそれでいいというのはチャットからもありあり。

 そのためには周囲を引っかき回すのも厭わなさそう。

 確かに何しでかすかわからないタイプだ。


「お前の声の件については『あんまりスカイプでいい思い出がない』というのがポイント。そこに女みたいな声だからっていう理由付けをすればいい」


「まあ実際にそうだしな」


 声だけですら女と間違われるのはしばしば。

 だから身内と呼べる人間以外とはスカイプしない事にしてる。


 姉貴がスカイプにIDを打ち込む。

 もちろん普段とは違うID。

 ぐるぐるマークが回り、ログイン完了。


 リストには一人もいない。


〈ねぎまぐろ:お待たせしました~。ID書いたメッセージ送りました~〉


 先方からコンタクト追加希望のメッセージ。

 承認すると、リストに「みなみ」と表示された。


「じゃ、よろしく頼む」


 先方に呼びかける前に深呼吸しよう。

 大きく息を吸う……ゆっくりと吐く……。

 よし、打ち込もう。

 はてさてどうなることやら。


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