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13/04/16(2) 自宅:食べ物自体はまともだ。食べ物自体はな……

 昼前に美鈴が帰ってから再びお布団へ。

 目覚めたら夕方だった。


 スマホをチェックすると姉貴からメール。


【小町の夕飯は買って帰るから、食べずに待っとけ】


 またかよ。


 ここ最近、このパターンでろくな事があった試しがない。

 まともな飯じゃなかったり、まともな飯でもまともに食べられなかったり。

 今日のパターンは何だろう。


 ──姉貴が帰ってきた。


「姉貴、おかえり」


 姉貴は無言のままパンプスを脱ぐ。

 いつも返してくる挨拶はなし。


「姉貴、まだ夕べの事怒ってるのかよ」


「は?」


「本当に反省してるし、フィギュアまで全処分したんだから気も晴れただろうが」


「……あ、すまん。ただいま。もう夕べの事は怒ってないよ」


 あれ? わざとじゃない?


「なんかあったわけ?」


「ちょっとな……現実から目を背けたくなる出来事があって。時々意識が飛ぶんだ」


「はあ?」


 そう言えば目もどことなく虚ろだ。


「それでも私は直視しなくてはいけない。今から小町にそれを付き合ってもらう」


「また地雷を踏みに行くとか地雷を踏ませるとかって代物じゃないだろうな?」


「安心しろ。食べ物自体はまともだ。食べ物自体はな……」


「やっぱり何かがまともじゃないんだな?」


「見ればわかるよ」


 姉貴はそう言って袋から弁当を並べた。

 それも三つ。


「今日に限り食べられるだけ食べていい。残りは私が食べるから、できるだけ綺麗に取り分けてくれるか?」


 えーと、お弁当は……


 【巨大ビーフカツカレー】

 【特大ロコモコ弁当】

 【重量級幕の内弁当】


 このやたらと大きさを強調したネーミングは何なんだ!?


 カレーが一三〇〇kcalくらい?

 ロコモコが一二〇〇kcalくらいか。

 幕の内はこれだけで普通の弁当三つ分くらいあるな。

 九〇〇kcal×三ってとこか。


 ──概算で合計五〇〇〇kcal超!?


「こんなに一人で食えるわけないだろ!」


 カロリー爆弾とまで称される「ラーメン○郎」の大でも推定二三〇〇kcalだぞ?


「だよなあ……」


 姉貴が頭をうな垂れる。

 だよなあ、とか言われても俺の方こそ困ってるんですが。

 

「現在の俺の三日分のカロリーじゃないか。もし一食でこれだけ食べる一般人がいるなら、そいつはバカか満腹中枢が壊れてるかのどちらかだろ」


 俺もかつてはバカの一人だったわけだが。

 今こうやって目の前に突きつけられると、どれくらいバカだったかを心底実感できる。


「そのバカか満腹中枢壊れた奴が私の前の席に座ってるんだ……」


「それって……みつきさん?」


 姉貴はこくりと頷く。


「みつきさんの昨日の夕食だそうだ……」


 昨日のクラブは仕事と言った。

 だけどダイエットも目的だと言ったよな?

 少なくともみつきさんはそう思ってるって言ったよな?

 運動の後にこれだけ食べるって……

 そりゃ姉貴も意識を飛ばしたくなるわ。


 一から十までツッコみたいのは山々。

 しかし姉貴の気持ちを考えると何も言えない。

 あまりにむごすぎる。

 ツッコまれるまでもなく痛感しているからこそ、こうしてうな垂れてるわけだし。


 姉貴がさらにぼそりと呟く。


「『だって半額だったんですもの』って言われた……」


 姉貴すまん。

 姉貴の恋は応援したい。

 だけど俺はそんな真性の義弟にはなりたくない。


 姉貴が立ち上がる。


「レンジで温めてやるから、まず食べろ。さらに話は続くから」


 えーと、まだ続くんですか?

 これ見ただけで、もう十分にお腹いっぱいなんですが。


 さてどうするか。

 予め残す事を前提に考えよう。


「とりあえず弁当は後回しにして、カレーとロコモコを食べよう。食いきれないのはわかってるし、最初から姉貴の分をとり分けるぞ」


 姉貴が頷く。

 皿と丼を並べ、カレーとロコモコを三分の一程度取り分けてから差し出す。


 姉貴が食べ始めたのを見て、こちらも食べ始める。

 味はいかにもスーパーの弁当。

 普通に美味しいけど、決して感動するほどのものではない。

 買うのに半額値引きバトルを戦って奪い合うとかなら、また別なんだろうけど。

 実際にそういうアニメがあった。

 食べる前に運動するのだから、美味しく感じて当たり前だ。


 ──カレーとロコモコを全部食べ終わった。


「ごちそうさま。あと少しなら入らなくもないけど。姉貴はどう?」


「すまん、私は満腹だ」


「じゃあ幕の内弁当は冷蔵庫に入れて、明日の朝食にしよう」


 姉貴が頷いたので、冷蔵庫にしまう。


 後片付けをすませる間に、姉貴が珈琲を入れてくれた。

 姉貴は煙草に火をつけて一服。


 さて、ちょうどいい頃合いかな?

 本音ではこの次のステップに進みたくないんだけど……。 


「じゃあ話の続きとやらを聞こうじゃないか。あまり聞きたくないけどさ」


「少しだけ待ってもらえるか? 私にも心の準備というものがある」


 それは普通、聞く側が言う台詞だ。

 もうどうこまでもイヤな予感しかしない。


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