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13/04/16(1) 自宅:死ねばいいのに

 目覚めると、あるはずものがなくなっていた。


「俺の妹達いいいいいいいいいいいいいいい!」


 我が愛する妹達、もとい棚に並べていたフィギュア達。

 巨乳、低身長、童顔。 

 貧乳だって幼児体型であるなら大歓迎。

 家庭教師時代の時給八〇〇〇円をいいことに、「長身、切れ長目」という属性を持つキャラ以外を片っ端から集めてきた大事なコレクション。

 そろそろ専用のショーケースを購入する予定だったのに。

 ああ、特に大事なぷりぷりきわきわまで……。


 フィギュアのあった場所には、代わりに姉貴からの手紙が置いてあった。


【小町へ

  昨日の詫び料として全部もらっていく。

  これだけあるのに長身&切れ長目が一体も存在しない事は、さらに私を苛つかせた。

  死ねばいいのに

                      by 長身で切れ長目が自慢の観音】


 お前は弟から妄想の対象にされたいのか。

 切れ長目については、俺に鏡を見て妄想しろというのか。


 ただ、今回ばかりは文句を言えない。

 コレクションを持って行かれたのはショックだけど、自業自得だからな……。

 夕べの姉貴の目を思い出すと未だにぞくりとする。

 こうやって普段通り接してもらえている事に、むしろホッとするくらいだ。


「うーん、うるさいですねえ」


 美鈴が寝ぼけた声を出して起き上がる。


「美鈴、おは──」


 美鈴が俺の手を掴み、再び布団に倒れ込む。

 その勢いで、俺まで美鈴に覆い被さる形で倒れ込んでしまった。

 

「うーん、小町さん……むにゃむにゃ……」


 美鈴は寝言を言いながら抱きしめてくる。

 完全に寝ぼけてるっぽい。

 仕方ないなあ、引きはがし……離れない!

 普段は非力なくせに!

 うわ、足まで絡めやがった!


 お前起きてるだろ!

 そう思うも寝言はすぐに止み、美鈴は寝息をすーすー立て始めた。

 どうやら本当に寝ぼけてるだけらしい。


 仕方ない、俺も寝直そう。

 授業はあるけど、今日は正直出る気になれない。

 頭から布団を被る。


 美鈴の髪からいい匂いが漂ってくる。

 俺や姉貴と同じシャンプーなはずなのに、どうして匂いが違って感じられる。

 美鈴の息がかかる。

 さらに美鈴は、膝を立てて押しつける様にしながら足をすり寄せてきた。


 ──やばい、トリガーが反応したじゃないか!


 こいつになのか、朝だからなのか。

 とにかくこのままだと、どう転んでも俺の人生は終わってしまう。

 安全装置を探すべく、大急ぎで思考を巡らせる。


 えーっと、俺の回りにいる女性は……。


 姉貴──あり得ない

 鏡丘さん──代わりに大事な物を失う気がするのでパス

 美鈴のおばさん──もっとまずい気がするのでパス

 見晴──切なくて悲しくなるからパス


 どうして妄想すらできない女性ばかりしかいないんだ!


 ──あっ、そうだ!


 思いついた瞬間パワーがみなぎる。

 美鈴を振り解き、リビングへダッシュ。

 冷凍庫の扉を開け、都さんからのチョコレートを貪る。


 はあはあ、これで大丈夫。

 まさか姉貴と母さん以外の人からもらったチョコがこんな形で役立つとは。

 これで暴発しても「都さんのせい」。

 万事おっけーだ。


 とは言えなあ……都さんは元々、妄想する存在としては遠すぎる。

 姉貴と同じ年というのはもちろんある。

 だけど、そもそもキャラ的に異性を感じさせない。

 いい人で癒し系ゆえ劣情をもよおすのが失礼というか。

 小町日記のヒロインには到底なりえない。


 はぁーあ。

 俺のヒロインはいつ現れるんだろうなあ……。


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