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13/04/15(4) 自宅:弟がどんな格好をしてようとわかるのが姉というものだ

 美鈴は「どうしても今日中に謝りたいです」と、家までついてきた。

 気持ちはわかる。

 こういうのは後になればなるほど気まずくなるし。

 二人してテレビを見ながら待つはいいが、気はそぞろ。

 内容なんてまったく頭に入ってこない。


 ──ドアの開く音がする。


 姉貴が帰ってきた。

 俺達二人はダッシュで玄関へ。

 すぐさま土下座した。


「ただいま」


「「今日はごめんなさい!」」


 二人声を揃えて叫ぶ。


「いい心がけじゃないか」


 頭にゴリっとした感触。 

 姉貴が俺の頭を踏みつけてきた。

 それもパンプスを履いたままで。


 痛い。

 だけど今日ばかりは何をされても逆らえない。


 横目に、美鈴が体を起こすのが見えた。

 姉貴にすがりついたらしい。


「ごめんなさい、小町さんをそそのかしたのは僕なんです。小町さんは悪くないんです」


「美鈴には言ってなかったな。外で私を見ても一切声をかけるな。そして私の仕事については一切詮索するな」


「はいいいいいいいいいいい」


「今回は知らなかったから許してやる。だけど次はない」


「ごめんなさい、ごめんなさい」


 美鈴は泣きじゃくり、念仏を繰り返すがごとく謝る。


「さて小町。お前には言ってあったよな。その頭には一体何がつまってる? 役にも立たない脳味噌はくりぬいてやろうじゃないか。代わりに何を入れて欲しい? 遺言として叶えてやるから言ってみろ」


「ごめんなさい……」


 一拍ほどの間をおいて、姉貴が頭から足を離してくれた。


「二人ともリビングに戻って正座しろ」


                    ※※※


「しかし、お前らはバカか。あんな尾行でばれないとでも思ったのか?」


 実際にバレているのだから、返す言葉がない。

 黙り込んでいると、姉貴が続けてきた。


「弟がどんな格好をしてようとわかるのが姉というものだ。美鈴の変装はよくできてたと思うけど、小町に連れ歩く女がいるわけない時点でバレバレだよ」


 自分達のやったことの罪悪感とは別の意味で泣きそうになってきた。


「でも、観音さん。一つだけ言い訳させてもらってもよろしいでしょうか」


 美鈴がか細い声で姉貴に問う。

 いかにも恐る恐る。


「なんだ?」


「詮索するなと言われたばっかりで何ですが……二人はどう見ても仕事に向かう様に見えませんでした」


 言い訳というよりも単純に疑問なのだろう。

 もちろん俺だってそうだ。

 だけどもし俺が同じ台詞を口にしたら、今度こそ本当に只じゃ済まない気がする。


 姉貴が答える。


「そうだな……見てしまったからには知りたくなるのは仕方ない。私もこれ以上かきまわされたくないし、最小限のことだけは話しておこう」


「はい、お願いします」


「実はみつきさんは、これが仕事である事に気づいていない」


「どういう事ですか?」


「私に無理矢理クラブに連行されて、ダイエットを強制させられたとしか思っていない。他の同僚達も同じ。きっとお前らもそう思った様にな」


「違うんですか?」


「半分はそうだけど、メインの目的は違う。ああ見えて本当に仕事なんだ」


「じゃあカップル無料云々というのは? 経費で落ちるんじゃないですか?」


「そんなの口実に決まってるだろ。それがなければ『広島市民にはこの名前のジムしかありえない』とでも言って連れていったさ──」


 姉貴が語気を強める。


「──お前ら二人、今日の事は全部忘れろ。仮にみつきさんと話す機会があったとしても、絶対この話題に触れるな。いいな」


「はい、ごめんなさい」


 俺達の謝る声が揃う。


「もう遅いから、美鈴はうちに泊まっていけ。家には私から連絡しよう」


 ──床に就く。


 とても何か話をしようという気分になれない。

 隣の布団で寝ている美鈴も同じだろう。


「小町さん、おやすみ」


「美鈴、おやすみ」


 挨拶だけ交わし、そのまま眠りについた。


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