13/04/15(2) 毘沙門家:小町さん、服を脱いで下さい
「誰もいないですから」
本来ならわくわくフラグのこの台詞も、その主が美鈴と思うと味気ない。
「小町さん、何をつまらなそうな顔してるんですか」
「別に……」
「じゃあ、始めましょうか。まずは小町さんの変装からいきますね──」
美鈴が小さいハサミを手にする。
「──まずは眉を整えます」
「それって女のやることだろう」
美鈴が眉をひそめる。
いかにも「あーあ」と言いたげ。
「最近は男性でもやってますよ」
「そうなの?」
「眉をいじるだけで相当印象が変わりますから。今日は僕がやりますけど、これからは自分で手入れして下さいね」
どうして命令されなくてはならない。
全力で「やなこった」と言いたいけど、時間のムダなので黙っとこう。
眉の手入れが終わる。
次に美鈴が手にしたのは髪を黒く染めるスプレー。
洗えば落ちるとか。
「汚れても構わない様に浴室でやりましょう」
──浴室。
「じゃあ小町さん、服を脱いで下さい」
言われた通りTシャツを脱ぐ。
これで上半身裸。
「下も」
「下はいいだろうが!」
「変な誤解しないで下さい! スプレーが飛び散って汚れたらどうするんですか。いくら洗い落とせるといっても、一度ついたらなかなか落ちませんよ?」
その通りなんだけど、どうも額面通りに受け取りづらい。
仕方ないのでジーンズも脱いでトランクス一枚になる。
「目を瞑って、かがんでください」
プシューという音が聞こえる。
美鈴が俺の髪に手櫛を入れる。
満遍なく染まる様にスプレーを吹き付けているのだろう。
「染め終わりました。体に少しついちゃいましたからシャワーをどうぞ」
美鈴が浴室から出て行く。
「背中流します」とでも言われたらどうしようかと思ったが。
きっと美鈴の側も時間がもったいないと考えたのだろう。
──シャワーの後は美鈴の部屋へ。
姿見鏡の前に座る。
「次は髪のセット行きます」
髪にワックスをつけて後ろに流し、ドライヤーをあてる。
「髪を上げたら顔が丸見えにならないか?」
「大丈夫、これをどうぞ──」
渡されたのは黒縁セルフレームの伊達眼鏡。
「──小町さんのチャームポイントは切れ長の目。メガネでそれを誤魔化せば、性別はともかく目立たずにはすみます」
ポイントであるのは認めるが絶対にチャームではない。
しかも男装した女教師に見えてしまうのは気のせいか?
まあ、贅沢は言ってられない。
俺とわからなければそれでいい。
「じゃあ次は僕が着替えますんで。恥ずかしいから居間にいてもらえますか? あと上着貸しますから、持っていって下さい」
男同士で恥ずかしいも何もないと思うんだが。
春物のブルゾンを手にし、居間へ下りる。
──しばらくして美鈴が降りてきた。
「できましたよ」
ふむ、美鈴の姿はこんな感じか。
大きな黒縁眼鏡に髪は後ろに編んでマニッシュハット。
メイクはいつもよりも軽く。
視線を下にやると長袖ゆったりなロングカットソー。
下はショートパンツかな。
これに黒タイツを合わせている。
カジュアルスタイルで真面目な感じに見える女性。
本物のメガネだから目も小さく見える。
いつもの派手やかな雰囲気とは違うから、これなら遠目には誤魔化そう。
「で、その異様に大きい胸の膨らみは?」
「パッド。みつきさんって巨乳属性がマイナスらしいから、万一に備えて」
みつきさんが美鈴に惚れようものなら、姉貴は発狂死するだろうしな。
しかも十分考えられる事態だし。
「よし美鈴、行くぞ」