13/04/08(3) 自宅:観音さんってこんな乙女な趣味があったんですか?
DKを追い出されてから幾ばくか時間が経過。
香ばしい炒め物の匂いがしてくる。
「できたぞ~」
ようやくか。
ドアを開けてDKに行く。
「さあ座れ。そして見よ、この私の芸術を!」
姉貴は料理に向けて両手を広げ、ドヤ顔で迎えてきた。
「うあっ、これは……」
「すごいですねえ……」
横の美鈴も驚いてる様子。
なんせ目の前にあるのは本当の芸術。
ただただ感心するしかない。
料理は俺と美鈴の二人分。
姉貴の分はない。
単に作りたかっただけなのだろう。
「これが今日連れて行ってもらったメイド喫茶で出された料理だよ」
突っ立っていても仕方ない。
まずは座ろう。
続いて美鈴も座る。
「観音さんってこんな乙女な趣味があったんですか?」
「そのいかにも私のイメージに合わないって言いたげな顔はやめてくれないか? 私だって『若い』乙女なんだぞ」
弟の俺は、この女が隠れ乙女なのをイヤというほど知ってるわけだが。
若いかどうかは知らないけどな。
──改めて料理を見る。
料理はオムライス。
これがただのオムライスではない。
チキンライスで作られたクマが、ふわりと焼かれた玉子のベッドに横寝している。
ベッドの上にはクッションを模した付け合わせのブロッコリ。
なんともはや、どこまでもすごいとしか言いようがない。
そして鼻孔をつく香ばしい匂い。
早く食べようよ。
「でも観音さん。これ、かわいすぎて食べられないんですけど」
美鈴がスプーンを皿に伸ばしかけては引っ込める。
「だろう? 私も部下も店で美鈴と同じ状況になってしまってなあ。ようやく決意して食べ始めた時は既に冷めてしまっていたよ。ある意味では地雷メニューだな」
ああ、もうダメ。
我慢できない。
「二人とも何を言ってるんだよ。食べ物は食べ物じゃないか」
クマに被さってる玉子布団の真ん中にスプーンを差し入れる。
「あああああああああああああああ!」
姉貴が頭を抱えながら悲鳴を上げた。
「やめて、クマさんが死んじゃう!」
美鈴は首を振りながら泣き叫ぶ。
……面白い。
たかが料理にこいつらバカじゃないの?
これはいい機会だ。
二人に普段いじられてる御礼をしてやる。
食器棚からナイフとフォークを持ってくる。
まずはクマの頭。
フォークを逆手に持ってぐさりと突き刺す。
「鬼!」「悪魔!」
次はナイフをクマの足元に入れてと。
頭の方向に引いていく。
じっくりとじわじわと嬲る様に。
切れ口が広がっていくにつれ、姉貴と美鈴の顔がどんどん青ざめていく。
なんだか笑いがこみ上げてきた。
そうか……こいつらは俺をいじめる度にこんな快楽を味わっていたのか。
これは癖になるかも。
「もうやめてえええええええ」「いやああああああああ」
姉貴と美鈴は抱き合って泣いている。
あー楽しい。
スプーンにフォークにナイフで心ゆくまでクマをずたずたに切り裂く。
ケチャップをどばっ、どばっ、どばっ。
まるで血まみれバラバラ死体と化したクマを、かきこむ様に全部平らげる。
「ごちそうさまでした、美味しかったです」
「……どういたしまして」
姉貴は暗い顔でうな垂れている。
「クマさんごめんなさい、お友達があんな残虐な食され方をされてしまって。僕はせめてゆっくり味わいながら食べさせていただきます」
美鈴が手を合わせてようやく食べ始めた。
味わうも何も、もう冷めてしまったんじゃないのか?
俺に言わせれば温かい内に食べなかった行為こそ、料理への冒涜というものだ。
おかげでこっちは手持ちぶさたになってしまった。
あーあ、さっさと食べ終えてくれないかなあ。
──美鈴がようやく食べ終わる。
姉貴がそれを見て立ち上がった。
「二人とも。これから食後のデザートを用意してやる」
最近甘い物とか出された事ないんだけど……珍しい。
来客の美鈴がいるからかな?
うん、きっとそうだ。
オムライスも美味しかったし、ここは期待しよう。
どんなオムライスか知りたい方は「りらっくま オムライス」で検索してみてください。