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13/04/08(2) 自宅:ネーミングセンスの無さは親譲りだからな

「ただいま」


「おかえり」「おかえりなさい」


「挨拶が二人分だと、疲れも二倍で癒されるな」


 何かカッコつけたこと言いながら、エコバッグをテーブルに置く。


「二人とも部屋で待っててくれ。私が呼ぶまで絶対に覗くな」


「そんな風に言われると覗きたくなるのが人情だろうが」


「小町はどこかの漫才師か。覗くと二度と御飯が食べられなくなるぞ?」


「姉貴こそどこかの昔話か。その黒髪を一本一本鍋にでも入れるつもりかよ」


「私の広島時代の友達の友達の従兄弟の隣人の話なんだけどな。とある中華料理屋でラーメンを食べたところ、すんごく美味しかったんだって。麺の喉越しが絶品で、チャーシューがこれまた何の肉かわからないほどに柔らかくて舌にまとわりつく。スープを一口すすると、鳥でも豚でも牛でもなければ野菜でもない。でも、これまで味わった事のない程に透き通る味わい。麺と具を全部食べてからスープを一気に飲み干したところ何か口に絡んだので取ってみたら髪の毛。これだけ美味しかったから髪の毛の一本くらい許そう。そう思って丼に視線をやったら、底には髪の毛がびっしり敷き詰められていたんだって。一体、このラーメンって何を材料にして作られたんだろうな?」


「最初に『これはフィクションです』と前置いてから、つらつら長々と面白くない話を語るんじゃねーよ!」


 髪の毛から作った醤油は本当にあるらしいけど。

 その点で全くの嘘とまで言い切れないのが怖い。

 日本もアメリカを見習ってチャイナ・フリーを広めて欲しい。


「嘘じゃないぞ? 私の東京時代の弟の家庭教師先の子供も話していたし」


「僕はそんな話をした事ありません! 『東京時代の弟』って小町さん以外に観音さんの弟がいるんですか!」


 即座に美鈴がツッコんだ。

 俺の他に弟がいるというのなら、それでも構わない。

 是非そいつには、常日頃から姉にいじられる弟の役割を分担して欲しい。


「知らないのか? 小町は他にも家庭教師のバイトをやってたんだぞ? 町子ちゃんって言うんだけど、すんごく可愛い子でな。ほら、小町が最近一気に痩せたじゃないか? それを見た町子ちゃんが私に相談してきてな。『私、小町さんの事好きになっちゃったみたいなんですけど、どうしましょう』って。だから、三月一六日の一七時頃に町子ちゃんを家に呼んで小町に夜ばいをかけさせたんだ。小町はついに初めてを女性に捧げる事ができて、四月一日の一八時頃には二人で自由が丘にて最初のデートをしたらしく、私に一晩中ずっと自慢をしてなあ」


「こ・ま・ちさあん? 何で僕に内緒にしてるんですか。一体どういう事なのか説明してもらえますかね?」


 美鈴が鬼の様な形相をして俺を睨む。

 お前に怒られる筋合いはまったくないと思うのだが。


 いや、それ以前だ。


「どっちの日も美鈴と一緒に過ごしていたろうが」


「そう言えばそうですね」


 美鈴が笑顔に戻った。

 こいつ怖い。


 いや、更にそれ以前にだ。


「姉貴がどうして『小町日記』の内容を知ってるんだ!」


 小町日記。

 それは俺が日々綴っている妄想日記。

 ああだったらよかったな、こうだったらよかったな。

 そうやって日々の出来事を、妄想フィルタによって修正した日記である。


「読まれたくなければパスくらいかけとけ」


「それ以前に漁るなって言ってるんだ!」


「漁られることを前提にして行動するのは常識だろうが。私はPCもスマホもかけられるパスは全部かけてるしアドレス帳の人名も全部暗号を用いて偽名に変えてるぞ。存在しない人物も入れてるし、各自の個人情報は電話番号以外全て大嘘だ」


「スパイの常識を一般人の常識にするな!」


 特に存在しない人物まで入れてるというのは、アドレス帳の件数が少ない事を認めたくない姉貴の見栄としか思えない。


「少なくともパスを掛けるのは一般人の常識だと思いますよ?」


 美鈴、お前はどっちの味方だ。


 さらに姉貴が続けてきた。


「大体、何が町子だ。自分の名前をひっくり返しただけじゃないか」


「ネーミングセンスの無さは親譲りだからな」


「それもそうだな」


 納得しやがった。


「とにかく、とっとと部屋に戻れ。本当に見られたくないんだから」


 姉貴が手で追い払う仕草をする。


「じゃ美鈴、行こうぜ」


 いったい何を企んでるのやら。

 美鈴も一緒なんだし本当にまともな物が出てくるよな?


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